第6話 校長 その名は……
(カルム学園校長……ジェム視点)
わたしの名前は、ジェム。五百年を生きてきたエルフ族の長である。
五百年もこの国に生きてきて、わたしにも初めての出来事が昨日起こった。
いや、起こったというよりもこんな人に初めて出会ったという方が正しいだろう。
この国は、男女比が極端にいびつな構成で成り立っている世界である。男女比一対百……
よくもまあ、こんな状態で種が絶滅しないものだと感心する。五百年生きてきたわたしでさえもまともな『男』というのに出会ったことは数えるほどしかない。
この国の男はよくも悪くも臆病な生き物で、いつもびくびくしており、外出することがないため慢性的に肥満病を抱えて、引きこもりなやつが多い。
見た目もそれほど端麗ではなくとも、絶対数の不足からこの世界ではもてはやされ、甘やかされている男がほとんどだ。社会に出ていかなくとも、苦労をしょいこまなくても国がその生存を保障してくれるがゆえに、まともな挨拶すらできないやつばかりである。
昨日、そんなわたしのところに履歴書持参で、『教師』として雇ってほしいという一人の男がやってきた。
見てくれも性格も全く期待していなかったわたしだが、この国で唯一初めての『男性教師』になりたいという男には、今後の学園の宣伝のためにもなるだろうと思い会ってみることにした。
「はじめまして、ユウと言います。よろしくお願いします」
面接時のお辞儀も言葉使いもしっかり礼にかなったその様子に、わたしは感動すら覚えた。もちろんそんな内面などおくびにも出さない経験は積んでいる。
わたしからの質問も、終始不安な気持ちをのぞかせながらもにこにこと笑顔で答える。
ああ、男性の笑顔とはこんなにも癒されるものだったとは…… 気持ちの良い笑顔……それも男性の笑顔などこの何十年、いや何百年と記憶にない。
スタイルも抜群、聞いたことのない大学だが一応大卒らしい。若いのに卒業後旅をしてここまでやってきたらしい。なんという無謀な……
旅先でさらわれでもしたらどんな目に会っていたことか……
それはともかく『専攻』の『数学』とはいったいなんだろう? 『算数』?それもわからない。
この国にあるのは『算術』だけだ。 国民の識字率はほぼ百パーセントとはいえ、算術に精通しているのはほとんどいない。そのためのこの『学園』でもあるわけだが……
『数学』というものがどんなものかはわからないが、ひょっとしたら彼の持つその『数学』とやらが、この国の一大変革をもたらすかもしれないな……
それよりもまずは、世界初の男性高校教師! 大いに宣伝して来年の学園受験率をアップさせてもらうとしようかの……
そうなったら、ユウといったな……わたしの婿にしてやってもいいな…… いやわたしが嫁にいってもよかろう…… なに、恋愛に歳の差なんて関係ないじゃろ……
即採用、年収一千万、そして歩合によりさらに一千万! 宣伝費考えれば安いものよ。
さて、明日は職員の皆に紹介せねば…… 歓迎会も手配しておくとしよう。警備員と護衛も増やさねばなるまい。しばらくは忙しくなりそうだが……
わたしも久しぶりに、コホン、男の腕に抱かれてみたいのお…… それはそれで愉しみじゃて…… ほほほ
*******
この国の算術レベルは、早い話、前世での小学校一、二年生レベルである。数学が発展しなかったのは、アーティファクトの存在があったからだ。
何をやるにも、その原理ははっきりわからなかったものの、ほぼすべてのことは大抵『魔道具』の使用で片付いたのがこの世界である。だから必要のない『科学知識』は発達しなかったのである。
ちなみに『魔道具』に必要とされた魔術言語はだれも知らなかったことであるが、ユウの前世では数式、それもほとんどが『微分方程式』で構成された『数学言語』であった。
だれも知らなかったその数式を即座に理解できたユウは、この世界で『イケメンの数学の神様』としてやがて有名になっていくのだが、それはまだ先のことである。
…… という設定です。
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