第5話 初出勤……校門前から校長室へ
「ねえ、あれって男? 制服着てないけどスーツってことは、ひょっとして教師? 男性教師って初めて?」
「ええ~ ! だれか情報持ってないの!? なに、すごいイケメンじゃない? あんな男性みたことないよ!」
「こ、この学園の男子生徒全部を合わせてもかなわないくらいのイケメンて…… ああ、抱かれたみたい……」
「どのクラス? 担当の学年は? 名前は?だれか職員室に行って聞いてきなさい!」
何人かの女子生徒がダッシュで校門をくぐっていく。
ああ、まあこうなるのか…… 予想の範疇とはいえ大変だな…… これから毎朝こうなのかな…… いや、さすがに慣れれば騒ぎも落ち着くだろ……
校門が近づくにつれ、おれの周りは女子生徒で溢れんばかりである。
女性特有のあのいい香りが、おれの鼻をこれでもかと刺激する…… ああ 異世界転移してよかった……
この時まではそう思ってましたよ、この時までは……
「学園の先生ですか? もしそうなら何年生の担当ですか? 科目は? 独身ですか?」
「お名前教えてください!」
「どこに住んでるんですか?」
「ほ、放課後もしよかったら家に遊びに、いえぜひ家庭訪問を……」
「クラブはどこか顧問として担当しますか?」
始業前だというのに、校門前で大騒ぎである。
おかげで一張羅のスーツはもみくちゃにされ、危ういところで他の数人の教師、事務員に救出されて、おれはなんとか教務員室へとたどり着いた。
「きゃ! 男性職員! それも教師! 本当だったんだ……噂……」
「わたし、明日からしっかりと化粧してこよう……」
「もっとやせなきゃ…… そうだ今日から女を磨く講座に申し込みを……」
職員室でも喧騒は収まらない……
「えへへ…… 救出ついでに触っちゃった…… 生まれて初めて男性とスキンシップを……」
おいおい、そりゃスキンシップじゃないんじゃ……
「ユウさん、校長先生がお呼びです。すぐに校長室へ……」
大騒ぎと職員たちの盛大な溜息を後に、おれは校長室へと向かった。
校長室でロりBBA、あ、いや校長先生と今日の予定その他を聞かされた。
「すでに大変な目にあったようですね、今後は十分に警備員も配置しますが、なるべく時間をずらしたりして騒ぎにならないよう注意してください」
いやあ、注意してくれっていったってねえ。
「この国の法律では男性に対しての故意の接触や卑猥な言葉を投げかけることも禁止されていて、当然罰則も存在します。ですが、万が一というケースも多々あるのでご承知おきください」
自分の身は自分で最後は見ろってことか?……
「今日からあなた専属の護衛をつけますが、普段は見えない影から万一に備えるのであなたは気にしなくてもよいです」
「わかりました……」
このエルフの校長…… 実は五百歳超えてるんだぜ…… 後で知ったんだけどね。見た目はロリータなんだよ……
「それで昨日は給与の話をしていませんでした。通常の女性教師の初任給は年収で約三百万円です」
まあそんなとこだろ、大卒で公務員の給与なんてたいしたことないのは前世も同じだ。
でも異世界でも『円』なのか?
「あなたの給与は年棒一千万円です」
はい?おお!いきなり一千万ですか! やった! 大卒初任給のレベルじゃねえな……
「これについては、あなたにこの学園の宣伝を行ってもらう、学園の顔としての『モデル料』が含まれています」
ああ、なるほどね…… この世界初めての男性教師をこの学園の顔役にできるんなら一千万なんて安いもんだろ。
「さらに来年の学園の受験生が倍に増える毎にさらに一千万を年棒に加算しましょう」
おれがモデルになって学園の受験生が増える……そうなれば歩合制もどきで年棒増やしてくれるってわけだ、いいね。
「お金の話は後ほど正式な契約書を作成しておきます。それできょうからの授業ですが、第一学年の中堅クラスの『算術』の授業を受け持ってもらいます。各学年十二クラスあるので毎日一つか二つ、慣れてきたらさらに上の学年の授業も担当してもらいます。来年度からはクラスを持ってもらうつもりです」
「了解しました。ありがとうございます」
「あなたのようなイケメン、いえ優秀な教師にきてもらってうれしく思います。頑張ってください。期待しています。それと一週間以内に職員による歓迎会も準備していますので是非参加してください」
おお! 歓迎コンパってやつですか! そりゃ愉しみだ。
校長との面談が終わり、前項生徒の前で挨拶はなんとか事件もなく終わり、初の授業へとおれは一年生の指定された教室へと向かった。
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