第4話 初出勤前の通勤途中
初出勤前の朝食を食べて、管理人のリオンさんにニッコリとお礼を述べるとリオンさんの顔がゆでだこみたいになっていました。
なんで赤くなってるのか知らないけど、挨拶とにっこり笑顔は社会人の常識だよねえ。
食堂の扉を開けて出ていくおれの背後で、皿やらなにやら宿舎のキッチンから割れる音が盛大に聞こえたのは、知らぬが仏ってやつかな…… ちょっと違うかもだけどね。
おれがこの異世界に転移してきた際にはなぜかスーツだったんだが、それはいきなり面接現場だったから、神様が気を利かせてくれたんだろうな。
で、ポケットには大学生のころ使っていた『プログラム関数電卓』だけが入っていた。
プログラム入力が可能ないろんな関数が仕えるタイプなんだけど、転生前のおれの死亡した年代ではすでに骨董品とも言うべき電卓ではあった。でも、この世界ではパソコンなんてものもないし、どこかで入用になるかもと思って捨てるようなことはもちろんしなかった。
その電卓と筆記用具だけをポケットにしまい込んで、おれは宿舎をでた。
宿舎を朝早くでると、気持ちのいい朝日がとてもまぶしかったけれど、ん?
妙に宿舎前に人が多くないかい?
なんとなく宿舎の門の外でざわざわとしているのは、違和感ありまくりである。
「きゃ! ほんとだわ! 男よ男! それも適齢期のイケメン! 」
「この街にご降臨されるとは…… 何年ぶり、いや何十年ぶりでしょうか……」
「娘のお婿さんに、いえわたしもまだまだいけるはず……」
「男の……イケメンの匂いを…… おお、神よ! 今日の日を感謝します」
どうやらおれが学園に教師としてやってきたことが、早速ご近所さんに知れ渡っていたらしい。
門を出るときに出来るだけさわやかに挨拶をしてみたよ、そりゃあ、社会人の基礎ちゅうもんでしょ。
「みなさん、おはようございます。学園で今日から教師としてお世話になります、ユウと申します。今後ともご近所付き合いよろしくお願いします」
三十度会釈で頭を下げると、おおっ!と驚きの声が上がる。
「なんという礼儀正しい男、いえ男性なの? こんな男性がこの世に存在したなんて……」
「わ、わたしは夢をみているんでしょうか…… 男性の生の笑顔なんて初めてみました……」
「イケメンでスタイルもばっちり、頭も優秀、笑顔が素敵で、礼儀正しいって…… これはものすごい競争率になりそうね……」
「握手してもらえたらそのまま死んでもいい……間違って抱擁なんてされたら……瞬殺ですわ……」
この世界の男ってそんなに酷いのか?……
管理人のリオンさんもそんなこと言ってたな…… この世の男はほとんど姿を世間に現さないし、会っても挨拶するなんて超希少種。ましてや間違いであっても、触れたりしようもんなら、逮捕されるかもって話だったわ……
おれがゆっくり歩いていくと、みなさんやや遠巻きにしながら、行く手に道が開けていく…… おれはモーゼかっちゅうの……
おや? 救急車? なんで?
後でわかったことだが、この日の朝、おれのニッコリ笑顔の挨拶に悩殺された何人かのご近所さんが救急車で病院に運ばれたそうである。血圧が一気に上がってしまったらしい。
お大事にね……
さて通勤途中である。
コンビニもどきで今日の昼食弁当を買っていかなきゃな……
コンビニもどきまでおれの後を、ぞろぞろとご近所さんが連なり、おれの買ったものは何かと確認すると、その日のその商品があっという間に売り切れるという、お店側には泣いて感謝されたのは後日談である。
さらに数日後、そのコンビニもどきの店には、毎朝イケメンが来る!ということで、雑誌やらテレビ局やらの取材が殺到したらしいが、おれはいつものとおり昼飯買って、いつものとおり店員ににこやかな挨拶を交わしただけである。
このコンビニもどきのバイト採用の爆発的競争率が、新聞種にされるのも後から聞いた話だ。おれはそういうことにはあまり興味がなし、今はしっかりと教師やれるかどうかが一番大事なことなんさね。
お、もうすぐ校門だ。いっちょ気合いをいれていきますか~
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