第2話 初出勤前にはちゃんと情報収集しとかないとね
男子生徒と男子職員のための宿舎は、学校から歩いておよそ五分ほどの距離にあった。
宿舎という名の要塞が要塞である理由は、想像していた通りであはあったけどね。
男女比一対百の世界で、男ばかりが住んでるという一種の女にとっては花園世界は、セキュリティがなければ蹂躙されてしまうのだ。
ただでさえ男子生徒は女という生き物に対して『恐怖心』を生まれた時から植え付けられているのである。
セクハラなんていうのはまだ序の口である。
あるイケメンは国際的某組織に拉致されて監禁され、死ぬまで搾り取られていたらしい。 何を絞り取られていたかって? そりゃああれですよ、もちろん……
そういう犯罪的なことには、もちろん国も黙ってはいない。そういった事件があらかじめ発生しないように手は尽くしてはいるのである。
この学校では、その一つが宿舎の厳重なセキュリティ対策である。常駐の警備員がいて、建物自体も強固な防御が侵入者を許さないように設定されている。
だが宿舎の管理人も警備員もすべて女性である。過去にそこからの事件もあったらしい。
おっと、おれはまだ名前も紹介していなかったな……
おれの名前は『ユウ』 苗字はない。この世界で苗字のあるのか貴族様だけだ。
平民のおれはただのユウで十分だ。
宿舎の管理人はリオンさんという。三十歳くらいらしいが、二十代前半といっても通用する美人さんだ。
基本この世界の女性は、おれ視点では皆が皆、美人、美少女、美魔女である。
長い間のいびつな男女比の故か、結婚して子をなす女性が美形揃いだったためなのか…… 一種の淘汰の結果なのかもしれない。
生まれてくる赤ん坊は、ほとんどが『女の子』なのでさらに悪循環ではある。
が、おれにとってはうれしい限りだ。知ったこっちゃない。
「こんにちは、ユウと言います。今日からよろしくお願いします」
(久しぶりの獲物……いえ、結婚適齢期の男……)
「あ、はい、管理人のリオンです……」
リオンさんの顔色がずいぶん赤いので心配になって聞いてみたが熱はないらしい。
「そ、そんな言葉を男性からかけてもらえるなんて…… 生きててよかった……」
「はい? よく聞こえませんでしたが……」
「い、いえ、なんでもありません。 宿舎の案内をさせてもらいますね」
リオンさんが案内してくれたのは、食堂、娯楽室、図書室、大浴場などなどで、どこも清潔に掃除が行き届いてる感じだった。
「こちらがユウさんの部屋になります。朝食夕食はこちらで用意しますので昼食は学園でも購入できますし、外食も可能です」
「なるほど、ではとりあえずは様子見で昼食はなんとかします」
「希望があれば昼食の弁当を用意することも可能です」
(これは…… 食事にわたしのつば…… いやばれたら犯罪だ……)
「リオンさん? どうかしました?」
「あ、大丈夫です。少し考え事してました、すみません……」
この国というかこの世界の大陸は惑星上に大きく三つ。その大陸毎に国が成立しており、各々国王と貴族によって数多くの街が繁栄している。
街並みを構成する建物は前世ヨーロッパを連想させるが、社会的レベルがどの程度なのかはよくわからない。
詳しい内容は今度図書館で調べてみることにする。まだまだ知らないことがたくさんありそうだし。
「では、なにかわからないことがありましたらいつでも管理人室に夜這い……いえ訪ねてきていただければ」
「あ、はい。ありがとうございます」
おれの個室はおよそ八畳のフローリングと畳が半々である。家具はすべて備付けで、トイレ、風呂、簡易キッチンと至れり尽くせりだ。
小さなベランダがあるが、セキュリティの問題があるので硬質ガラスで囲まれているので外部からの侵入は不可である。さらに中から外は見えるが外部からは見えないようになっている。覗きや下着泥棒が後を絶たないとのことで建設時にすでに標準設置されたものである。
宿舎は約二十人ほどが入居できるようになっているのだが、実際のところ入居者は男性十人しかいない。
おれ以外の九人はすべて男子生徒。そのうち五人はトラウマを植え付けられてしまったため絶賛ヒッキー中である。それ以外の四人も時折学園には出席するらしいが、おおよそ半分は欠席らしい。
それでも男子学生を保護しているのは、学校に男子学生がいるのといないのでは、毎年の受験者数に大きく影響するからだ。
この世の多くの女性は、男と知り合うどころか顔を見ることも珍しいのだ。男がいるとわかっていれば、親も出会いにかすかな望みをかけて男子のいる学校へと進学させることになる。
部屋の中でベッドに横たわって明日からの仕事に思いをはせる。どうなることやら……
期待と不安で頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだったが、そのまま翌朝まで寝入ってしまって、夕飯を食い損ねてしまった。
夢の中でおれはハーレムを作りつつも、ロリータ校長から『死刑宣告』されていたよ……
や、やめて……
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