第8話いとせめて 恋しき時は むば玉の

                      小野小町


いとせめて 恋しき時は むば玉の 夜の衣を 返してぞ着る

                (巻第十三恋歌二554)

※むば玉の:夜にかかる枕詞。


貴方を恋しくて仕方がない時は、夜の着物を裏返しにして、眠るのです。


小野小町の在世時、夜着を裏返しに着て眠ると、恋人が夢に出て来るとの俗信があったらしい。


「思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを」

「 うたたねに 恋しき人を 見てしより 夢てふものは たのみそめてき」

に続く、恋と夢の歌になる。


まず、恋人を思いながら眠ったら恋人が夢に現れ、夢から覚めた後に、何故覚めたのかと悔いる。

その次に、うたた寝の夢に恋人が現れたので、現実では逢瀬が難しいことから、夢で逢うことを頼るようになる。

しかし、その夢でも、なかなか恋人が現れないのか、今度は俗信に頼り、夜着を裏返しに着て眠り、少しでも夢の中に恋人が現れやすいように、努力する。


さて、裏返しに着た衣は、直接、絶世の美女小野小町の素肌を包む。

この歌に、妖艶な魅力を感じた人も多かったのではないだろうか。



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