第6話思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ

                         小野小町

思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを

                   (巻第十二恋歌二552)


あの人を思いながら眠ったから、夢に見えたのでしょうか。

それを夢であるとわかっていたのなら、目覚めることもしなかったのに。


古代日本では、相手が思っているから、自分の夢に現れると信じられていた。

小町はそうではなく、自分が恋しいと思って眠ったから、相手が自分の夢に現れたと詠み、目覚めたことを悔いている。

結局は、小町の夢の中だけの逢瀬であって、恋の成就の見込みも何もないことも、理解しての悔いと嘆きなので、これはなかなか辛い。


ただ、それはともかく、絶世の美女小野小町との逢瀬、夢であっても果たしたい。

古来、それを思う男性たちは、多かったのではないだろうか。


※小野小町:出自未詳。仁明朝(833~850)・文徳朝(850~858)頃、後宮に仕えていたことは確からしい。絶世の美女との伝説あり。

六歌仙、三十六歌仙。小町の名での勅撰入集は総計六十五首。




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