夢と幻想
春嵐
夢と幻想
夢と幻想の区別が、つかなかった。
いつが起きているときで、いつが寝ているときなのか。目の前が、夢なのか、それとも、違うのか。
なるべく、がんばって生きた。がんばって。勉強をして。仕事をして。誰かを助けて。そうやって生きて、なんとか、なりそうだと。そう思ったときに、夢から覚める。
自分のがんばりは、全て、夢の中のできごとだったと、自覚する。そして、目の前が。夢から覚めた直後の景色が。実際にそこにあるとは、限らない。
現実という言葉が、好きではなかった。私には、現実を把握するための、術がない。目の前のできごとに対して、ただ、がんばることしか、できない。
「つかれた」
がんばることにつかれたのか。生きることにつかれたのか。分からない。
ただただ、消えてしまいたい。
そう思ったとき、決まって、誰かが夢の中に現れる。自分ではない、誰か。存在しない、誰か。誰なのかは、分からない。
消えてなくなりそうな自分を、引き返させる。そして、目覚めてしまう。幻想的な気分だけを、残して。また今日が始まる。
あなたは、誰。
私を助けてくれる、あなたは。
胸に手を当てる。あなたは、私の中にはいない。あなたは、私ではない。
私は、あなたに会いたい。会って、話がしたい。私のことを、どう思っていて、どうして、私を引き戻すのか。
手を伸ばす。
「あなたのところへ」
連れていって。
言葉と腕は、むなしく宙を泳ぐだけ。
「わたしは」
どうすればいい。
「どうすれば、ここから、抜け出せますか?」
ここは、たぶん現実。けだるい重力が、全身を支配している。
「わたしは」
私は。がんばってきた。私は。
ここにいたい。
でも。
あなたといたい。
心と身体が、引き割かれるような気分。
「ちがう」
違う。自分に言い聞かせるように。
「違う」
強く思う。違う。心と身体は、引き割かれてない。
心と身体を繋ぐ、ちょうど中間の、境目の部分。そこに、あなたはいる。心のなかにも、身体のなかにも、あなたはいない。私のなかに、あなたはいない。誰の心のなかにも、あなたはいない。
私だけが。感じられる。覚えていなくても。たとえそれが夢でも。感じる。あなたを。
「私は」
あなたを追いかける。会えないとわかっていても。それでも。
夢と幻想 春嵐 @aiot3110
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