17
薬を飲み終えた瞳は小さな瓶を引き出しの中に戻し、流しでコップを洗い、それを重ねられて置かれている食器の近くにそっと置いた。
次はなにをするのかと様子を見ていると、瞳は再び流し台に向かった。
台座に乗って、今度は鏡の下の出っ張った板の上に置かれていた歯ブラシの入ったコップを手に取った。どうやら瞳は歯磨きをするようだ。コップに水を注ぎ、それから歯ブラシを使って丁寧に、時間をかけて、自分の歯を綺麗に磨いた。歯磨きが終わると、瞳は曇った鏡の前で大きく口を開けて自分の歯の様子を確認した。歯磨きの出来に満足したのか、鏡の中で瞳はにっこりと笑っていた。
「よいしょっと」
そんな掛け声とともに瞳は台座から降りると、そのままぺたぺたと床の上を移動して、自分のベットの前で立ち止まった。スリッパを脱ぎ、いそいそとベットの上に移動すると毛布をかぶり、「じゃあおやすみ、猫ちゃん」と僕に言ってから、起きたばかりだというのに、すぐにまたベットの中で眠りについてしまった。
眠りについた瞳はぴくりとも動かなくなった。
柱時計を見て時刻を確認すると針は十の数字を指しているところだった。
とくにすることもない僕は、それから丸椅子を利用して、瞳のベットの上に移動してから、瞳の胸の上にちょこんと座って、そこから昨夜と同じように瞳の死体のような寝顔と窓越しに雪の降る外の風景を交互に眺めて時間を潰すことにした。
本当は瞳のように眠ることで時間をやり過ごせれば一番いいのだけど、困ったことに、瞳に拾われてから僕には眠気というものがまったくなくなっていた。そのことに気がついたのは今朝のことだ。時計の針がいくら進んでも、僕は少しも眠くならなかった。冷たい廊下であれだけ眠かったことを考えれば、それはとてもおかしな話だった。あの強烈な眠気はどこに行ってしまったのだろうか? そのことを考えると、すごく不思議な気持ちになった。
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