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「猫ちゃん。おいで」

 僕の存在を最初に思い出してくれたのは瞳だった。僕は優しい瞳の声に導かれるようにして瞳の胸のあたりに移動した。すると瞳は僕の体を僕を見つけてくれたときと同じように、ぎゅっと優しく抱きしめてくれた。

「瞳ちゃん。その猫、どうするつもりなの?」と大麦先生が言った。瞳は伏せ目がちになって、「できれば友達になりたいと思っているんです」と返事をした。大麦先生は秋子さんからある程度僕の話を聞いているのだろう。大麦先生はとても難しい顔をしたが、それ以上の質問はなにもしなかった。

「……もしかして、いけませんでしたか?」と瞳は言った。

 大麦先生は少しだけ間をおいてから、「……いや、いけないってことはないよ。そうだね。瞳ちゃんに友達ができることは、とてもいいことかもしれないね」と瞳に答えた。

 瞳はその言葉を聞いてぱあっと顔を明るくして大麦先生の顔を見た。大麦先生は無言で瞳に頷いた。冬子さんはどこか不満足そうだったけど、文句を言わないところを見ると、そのやり取りを認めるつもりらしい。どうやら僕はこの部屋にいることを大人たちに正式に許可されたようだった。

「ありがとうございます、大麦先生」と元気よく瞳が言った。その言葉を聞いて大麦先生はにっこりと微笑んだ。

「先生。朝の診察をお願いします」と冬子さんが言った。

「ああ、そうだったね。すまない。では早速診察をはじめようか」と大麦先生は言った。

「はい。宜しくお願いします」と瞳は言った。

 瞳は僕を自分の枕元に置くと、それから体を動かして、ベットの脇に腰かけるような体勢になった。大麦先生は冬子さんと一緒になって、瞳の脈を計測したり、体温計を使って瞳の体温を測ったりした。そんな作業を終えると、大麦先生はクリップボードになにかの文字や数字を書き込んでいった。それはどうやら瞳のカルテのようだった。つまり、今の作業は瞳の診察ということらしい。

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