第4話 臨時収入です!いちまんえんです!


 気がつくと自室のベッドで、携帯を片手に寝転がっていた。


 なるほど。ゲームに召喚されたときの状態で、人間世界に戻されるわけね。


 スマホの画面に目を向けると、プレイ中だったサバゲー画面。長時間放置したため、ログアウト状態になっている。


 起き上がって服を見ると、魔物にやられたときについた血の跡が、そのまま残っていた。


 これはまずいと慌てて着替え、血のついたシャツをベッドの下に突っ込む。あとでこっそり洗っておこう。


 ベッドに腰掛け、ふうと息を吐く。


 率直に、疲れた。


 ゲームとはいえプレイするのは自前の肉体だ。戦闘そのものは銃器を使用しているため、体力の消耗は少ないけれど、あちこち動き回るのにかなりのスタミナを用する。


 移動がもっと楽になる方法があれば……ああ、そういえばメニューには、車やバイクなど乗り物の購入画面もあったなぁ。


 動かし方は多分、現実世界のものと同じなんだろう。今のうちに手順を覚えておこうかな。


 スマホを手に、車やバイクの操縦方法を検索しようとすると、見慣れないアプリが入っていることに気がついた。


 サンクチュアリーバトル。と英語とカタカナで表記されている。


 そういえばトビリノメカミが、神々のゲームの公式アプリをインストールさせておくとか言ってたっけ。


 ていうか、あるんだ公式アプリ。一体どこが作って……株式会社関野コーポレーション?


 うーん、聞いたことがない会社だ。おそらくはどっかの神様が、関係している会社なんだろうな。


 アプリを立ち上げてみると、幻想的なイラストのトップ画面。凝ってるな〜などと思いつつメニューを見ると、まず最初にランキングが表示されていた。


 チーム別と個人別に分かれ、さらにシーズン別、月間、週間、デイリーと、トップ3のチームと選手の名前が。


 いやー、知らん名前だなぁ。まぁ、今のところ俺には関係がないか、ランキングなんて。


 チームランキングをタップしてみると、読み込まれたページに翔利野女神の名前が。数百あるチームのうち、中堅どころの250位にランクされていた。


「へぇー、そこそこのチームなんだなぁ」感心すると同時に、ちょっと誇らしくなる。


 まぁ、チームリーダーがめちゃくそ強いもんな。それにゲームを楽しむ他の神々と違って、大義のある試合にしか出場していないみたいな言い方してたし。


 調べてみると上下の他のチームに比べて、試合数そのものが少なかった。うん。できればポイント稼ぎの試合も行って欲しいところだが、そこは主神の方針。人間であり雇われ傭兵のような立場にいる俺には、文句をつける権利もないだろう。


 個人別のランキングを見てみると、なんとデイリーの560位に、天野鷹斗という名前が!


 おおー! ……しかし圧倒的に、下から数えた方が早いランクだ。しかもデイリーだし。まぁ当然なんだけど。今日しか出場してないし。


 シーズンを見てみると、最下位の35871位に、天野鷹斗(8350)という表記がある。


 一つ上の選手とは、倍以上のポイント差がついているようだ。しかしまぁ、こんなもんだろうな。頑張って撃破しまくったとはいえ、相手はポイント100の雑魚がほとんどだったし。


 シーズンランク一位の選手の獲得ポイントを見ると、億越えの桁違いの獲得ポイントが表示されていた。


 やべぇなこいつ。理道秀一って、普通に日本人っぽい名前だけれど……。


 選手名をタップすると、個人戦績の画面に飛ばされた。


 所属チーム理道一家。ふむ。もしかして主神? あるいは主神の秘蔵っ子とか、そういう立ち位置にいる眷族なのかも知れない。とにかく雲の上の人物(神物?)であることは間違いないだろう。


 戦績から出場試合の動画閲覧もできるようだ。しかし動画を見るには、100ポイントが必要だった。ケチくさいぞー!


 100ポイントはさすがに勿体無いなぁ。動画は見てみたいけれど、ポイントに余裕ができてからで構わないだろう。そんなすぐに対戦するってわけでもなかろうし。


 ふと、画面の右上にマイページのリンクがあることに気づく。


 開いてみると、所属派閥、翔利野女神。戦績一勝0敗0分。との戦績が表示された。


 あ、今日の試合は勝ったんだね。試合が終わって待機ルームに戻された直後に、現実世界に帰されたから知らなかったけど。


 てか普通なら試合後に、反省会とか作戦会議があっても良さそうなものだけど……それだけ、味噌っカス扱いってことなんだろうな。まぁいいか。……ちくしょう。


 そのままマイページを確認していると、ポイント交換画面とやらに、飛べることに気がついた。


 ああ、ゲーム内で購入できるアイテムが、ここで確認できるってことね。


 何気なくページを開く。


 待機ルームやゲーム内で見た初期メニューから、またさらにいくつか新しいメニューが追加されているようだ。ふむふむ。こうやって新しいメニューが増えるたびに、出来ることも増えてゆくってわけか。中々にやりがいがあるじゃないの。


 また、アイテムや能力購入だけでなく、ポイント譲渡、神力変換、換金という三つの項目もある。


 なんじゃこりゃ?


 ポイント譲渡はそのままの意味として、神力変換と換金とは? ああ、ポイントを神の力、要は魔力だかマジックポイントだかと、交換することもできるのね。


 しかし換金とは……これも読んだままの意味なのだろうか。だとしたらすごいけど。


 試しに換金をタップすると、ポイント入力画面が出てきた。


 なになに? 1ポイント十円とな?


 え? これまさか、マジに換金できるってことか?


 ということは、口座番号の登録が必要? だけど俺の通帳、母さんが持ってるから使えないんですけど?


 とりあえず所有ポイントは5000ほどあるが、全部変えたとしたら……五万円!?


 いや、さすがに全額突っ込んだりはしないけれど。次の試合の分がある。またポイント最初から集めるなんて酷すぎる。あんなの糞ゲーすぎる。もうやりたくない。


 試しに1000ポイントを入力し、換金を押した。これで口座番号の登録画面が出れば、マジでポイントを金に変えることができるってことになる。


 モチベ半端ないんですけど!? などと思っていたら……。


 不意にヒラリと、スマホの裏側に何かが落ちた。


「うん?」


 とスマホを動かし、床を見ると、そこにはなんと、燦然と煌めく一枚の諭吉様が!


 マジ!? いつもニコニコ現物支給ですか!?


 画面を見るとポイントがきっちり1000ポイント減っている。


 プルプル震える手で御札を拾い上げ、しげしげと眺めた。


 うん。どこからどう見ても本物だ。


 いやいや、油断するな鷹斗。これは何かの罠だ。そうに違いない。


 震える手で御札を握り締め、無駄に部屋の中をキョロキョロする。


 こ、こういうときは問い合わせだ!そうだ公式に問い合わせよう。そうしよう。


 スマホを操作し、トップページ下部の問い合わせをタップした。と、メールする前に、という注意書きがあり、良くある問い合わせの項目が。


 ああ、どこのサイトにもあるやつですね。やけに人間臭いな神様のアプリのくせに。……まぁいいや。


 ええーっと、現金現金。あった、ここだな。


 ポイント譲渡・神力変換・換金機能について。


 えー、なになに? ポイント譲渡と神力変換については、使用ポイントの二割が手数料として必要と。


 …ふむ。そうなんですね、としか思いようがないけれど。だって人間だもの。神力とか貰っても何に使えばいいのよ?


 えー…換金機能については、1ポイント十円、100ポイント(千円)単位で換金可能。一回で換金できる限度額は、十万ポイントまで。これは当社から現金をお手元に転送するための重量制限の問題のため、十万ポイント以上を換金希望の場合は、お手数ですが複数回に分けてご使用ください、と。


 ああ、百万円以上も、問題なく換金できるってことね。まぁ今の俺には関係ないか。


 えーと…現金につきましては、SGM(サンクチュアリーゲームマシン)と連動した本アプリを使って購入できる他のアイテムや能力とは違い、神力で構成されたものではなく、本物の現金を転送する必要があるため、重量制限が設けられていることをご了承ください。


 え? てことはこれ、本物のお金ってことか!


 一万円札を握り締める手が、さらにプルプルと震え始めた。


 い、いかんいかん、シワになってしまう。慌てて漫画本に挟み、ギュ〜っと押しつけてシワを伸ばした。


 ハァハァ……どげんすんねこれ? とてつもない臨時収入ですたい!


 あ、あかん、方言めちゃくちゃやん。落ち着け俺!


 し、しかしこれはアレじゃないか? 貴重なポイントを換金なんかしてたら、あとで神様に怒られたりするんじゃなかろうか?


 だけど俺が稼いだ分は、好きに使っていいって言われたし……。


 しばし手元の一万円札と、じっと睨めっこをする。


 ……うん。使っちゃっていいんじゃなかろうか? しばらくののち、俺の中の悪魔が、そんな素敵な結論へと誘ってくれた。


 ていうかすでに換金しちゃったし、在る物は使わないと腐ってしまうじゃないか! ……お金は腐らないが。


 いや、これはアレだ。物は考えようというやつで、試合で活躍するための英気を養うためならば、むしろ率先して使うべきものじゃなかろうか! だってそうだろう。戦いに疲れた戦士には、休息が必要だ。そのための必要経費だと考えれば、神様だって笑って許してくれるに違いない!


 換金バンザイ。諭吉様バンザイ。


 すぐさまSNSを使って、登録されてある友達に連絡を入れた。


 学校の五人のゲーム仲間のうち、関根君、野田君、健吾君の三人から、すぐさま既読がついた。


 臨時収入入ったからメシ食い行こうぜ!の呼びかけに、最初に食いしん坊の野田君、そして夜の外出も比較的自由な関根君からOKの返事が入り、片親ながら怖い親父さんのいる健吾君は、もうちょっとしたら親父が酔い潰れるから、それから抜け出す、と返事が入った。


 おし、それじゃ場所は、いつものファミレスで! スマホをポッケに突っ込み、諭吉様を財布に大事に大事に仕舞い込む。


 さて。俺もどうやって抜け出してくれようかな。そっと部屋のドアを開けて階段の下を覗き込むと、リビングに明かりが。テレビの音も聞こえてくる。


 両親共に、まだ起きているようだ。まぁ、まだ八時だから当たり前だけど。


 うーん、こりゃ俺も抜け出すの苦労しそうだなぁ。窓からでも抜け出せれば楽なんだろうけど、二階だもんなぁ。空でも飛べれば……


 と、そこでふと思った。


 そういえばアイテムや能力購入画面、普通に購入ボタンがあったけれど……もしかして今も購入できる?


 い……いやいや、さすがに現実世界では使えないよな? ゲーム内だけだよな?


 どうしても気になってしまい、良くある質問の欄を熟読した。


 うん。どこにも現実世界では使えないとは書いてない。


 このスマホを所有していれば、待機ルームや拠点に限らず、どこでもアイテムや能力が購入できるとは書いてあったけれど。


 ええい、ものは試しよ!


 これからもお世話になるであろう、SMGを購入してみる。と、右手に今日散々お世話になった、ウージーレベル1が出現した!


 やっぱり! ポイントさえ消費すれば、どこでも購入できるんじゃん!


 パンパカパーンと頭の中で天使がラッパを吹き鳴らす中、ふと問題に気がついた。


 い、いや、しかし……どうすんのよコレ? こんなん持って歩いてたら、警察に職質されるどころじゃ済まねーわ。


 どっかでぶっ放して弾丸消費しないと消えないんじゃ……思った瞬間。右手から、ウージーの姿が忽然と消え失せた。


 はい?


 スマホ画面に目を向けると、レベル1ウージー、ストックされましたとの表記が。


 あー、ストック機能があるのね。そいつは知らなんだ。


 ストック数2/15。


 ん?


 2?


 疑問に思ってストック画面を確認すると、どうやら十五個ストックできるらしいアイテムに、レベル1ウージー(60)とレベル1治療能力(1)との表記があった。


 あ、ウージーの球数増えてる。それと治療能力、使い切ってなかったのね。てっきり一度切りだと思って、あのあとは使用しなかった……というか、ガチガチに芋りプレイやってたんで、使用する機会がなかったんだけど。


 ふむふむふむ。なるほどなるほど。ストック機能か。


 調べてみると、どうやらストック状態のアイテムは、死亡しても消えることはないらしいことが分かった。


 めっちゃ便利じゃんこの機能! いや、普通のゲームでは当たり前の機能だけれど。とにかく、収納していれば、死んでも消えることがないってのはありがたい!


 ウキウキ気分で鼻歌を歌っていると、SNSに連絡が。早よ来い、と野田君がご立腹だ。


 あかんあかん。急がねば。


 特殊能力から、浮遊レベル1を選択。


 残りポイントは3250。


 使ってみると、床から足がふわりと浮いた。残り時間なのか頭の中に、100と表示される。


 が、このポイント、低く浮いたら少量減り、早く動いたり高く浮いたら、減りが早くなる仕様のようだ。ちょっと部屋の中で試してみたら、最大限に早く動けるのは、精々が早歩き程度のものだった。


 高さは分からんが……まぁいいでしょう。そのうち試してみればいい話よ。


 部屋の窓を開けて、辺りに誰もいないことを確認すると、外へと飛び出した。


 ゆっくり庭に着地し、玄関に回ってそっとドアを開けると、靴を引っ張り出して玄関を閉める。


 ふっふっふ。脱出成功。


 今度から靴を一足、部屋に匿っておくこととしよう。


 さーて、何食べようかなー。一応、学校から帰ってすぐに晩飯は食ったけれど、夜遊びのご飯は別腹ってやつだ。ご飯の後にはカラオケにも行こう。なぁに、軍資金はたんまりとあるんだ。


 鼻歌混じりにスキップしながら、野田君らの待つファミレスへと急いだ。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る