第2話 出陣じゃぁぁぁ!
ん? え? あの中に俺が? 困ったなぁ、何言ってるんだろうこの神様。
いや、でもこのお姉さんは繁爺ちゃんが、この人は俺の神様だって太鼓判を押した人物だ。爺ちゃんが言うんだったら、信用できる。
あー、人物ではないか。神様なんだから。まぁとにかく。
これは……もしかしたら俺には、とんでもない力が眠っているのかも知れない! でなければこんなふうに、神々のゲームとやらに招待されるわけはないだろう。現に爺ちゃんだって、ああやって炎の剣を召喚して戦っている。その孫である俺にも、何かしら特別な力があったって、不思議ではないじゃないか!
「今回のルールは少し特殊で、単純に出場者同士が戦う類のものではありません。もちろん普段の試合は、一対一の通称、たいまんばとる、というものがほとんどですが。
ですがゲームのルールは、双方の合意により、様々なものに設定できるのです。このような特殊なルールにおいては、貴方であっても活躍できるチャンスがあるのです」
ふむふむ。まずは状況説明と、ゲームのルール説明からってやつね。その後に、俺の中に眠る力についての説明があるんだろう。
ああ、どんな能力なんだろう。爺ちゃんと同じ、炎系の能力者ってやつか? 血は争えないもんだ。
ううっ……心なしか、右手の奥がジンジンと疼いてきた気がする。おそらく覚醒の時が近づいているのに違いない。
「神々のゲームが始まった当初は、純粋に眷族達の力自慢をするのが主流でした。神々の戦士は一対一で武力を競い、これまで解決することができなかった揉め事に、決着をつけてきたのです。
ですが最近では、ゲーム内で設定できるあらゆる機能を用いて、特別な趣向を凝らした対戦が好まれるようになってきました。ゲームの様子はネットを通じて、国中の神々が観戦することができたのが、大きな理由です。
また出場者は、勝敗やゲーム内で獲得したポイントにより、チーム別と個人別によりランキングも番付されており、体裁を気にするプライドの高い神々にとってそれは、恰好の競技場となりました。
私達のように、不正を正す義を掲げて聖域戦争に挑む者も少なくなり、神々の享楽の場として、賭け事の対象にまでされている始末です」
うんうん。それは分かったから、俺の能力についての説明を、はよ。
「今回のルールは、エリア内に発生する魔物をいかに倒せるか、撃破数を競うものです。双方には本拠地となる屋代があり、それを破壊されても敗北となってしまいます。
相手選手の妨害も可能ですが、今回は撃破数には含まれません。
撃破、つまり死んでしまった選手は、本拠地にリスポーンされますが、そのためにはゲーム内で使用できるポイントか、あるいはマスターである私の、神力が消耗されてしまいます。……ここまでは理解できましたか?」
「え? あ、ああ……了です。つまり、できるだけ死んじゃいけないってことですよね」
まぁそれは、この手のゲームの基本だな。キル厨ムーブは厳禁ってことか。
任せてくれたまえ。野良ムーブと大会ムーブの違いくらい、しっかり弁えていますとも!
「いいえ。貴方の場合は、いくら死んで頂いても構いません。もちろん、限界はありますが」
そしてここぞという勝負どきには、臆せず前に出て、キルポイントを重ね……え? 今なんて?
「貴方は力のない普通の人間、その身に宿す神力も、些細なものでしかありません。なので死んでも、他の者と違い、僅かなポイントで復活することができます。それが、貴方を呼んだ大きな理由でもあります」
ああー、なるほど。RPGでもレベルが低いと、生き返らせるお金が少なくて済むもんね。
ん? ええーっと……つまりそれって、
「もしかして俺……完全に、ただの人数合わせ?」
「そういうことです」と、トビリノメカミが顔を傾けてニコリとした。
なにそれー!?
「で、でも、あの爺ちゃんの孫なんだし、その潜在能力を期待してとか、戦ってたら覚醒して、すっげぇ能力が開花するとかないの!?」
「ありません。貴方は人間です。あの繁夫お爺さんも、生前はただの人間でした。こちらの世界に来たのちに、あれだけの力を手に入れたのです。貴方もそうなりたいのならば、まずは完全に人間としての人生を、終えねばなりません。
とにかく、貴方の役目は、できるだけ味方の邪魔をしないことと、本拠地付近に出現した、低級な魔物を排除することです」
「そ、そんな……期待してたのに」
「期待? 何をですか?」
「いいえ。なんでもありません」
途端に気分がショボーンとなって、肩を落としてため息を吐く。
おかしいなぁ、確かに俺の右手が、何やら疼く感覚を感じたんだが……ああそうか。このところゲームのしすぎで、腱鞘炎気味だったんだった。
それからしょんぼりした気分のまま、トビリノメカミの説明に聞き入った。
本拠地付近は魔物の発生は少ないが、稀に低レベルの魔物がポップすることもあり、地味に本拠地の耐久値を、削られてしまうのらしい。
前線で戦っている仲間が戻って対処するにも、時間がかかってしまい効率が悪く、死んで本拠地にリスポーンするにも、わざとやっていたんでは、いくらポイントがあっても足りない。俺と違って爺ちゃんら神の戦士らは、復活するのにも相当のポイントが消費されてしまうんだそうだ。
そのため現在では、わざと相手プレイヤーを撃破せずに、相手の本拠地、サンクチュアリが破壊されるのを待つという、セコい戦法も横行しているという。
「ふーん。魔物を倒す……殴ればいいんですか?」ブンブンとシャドーボクシングしてみせる。
喧嘩という喧嘩などしたことのない俺だけど、実は友達連中との肩パン勝負だけは、一度も負けたことがない。ふっふっふ。こう見えて、結構自信はあるのですよ。
まぁその友達連中というのは、小学校の頃のあだ名は骨もやしだった関根君や、野豚と言われていた徒競走では万年最下位だった野田君ら、クラスのオタク仲間ばかりだけど。
「貴方が殴ったら、殴った拳が怪我しますよ? 低級な魔物とはいえ、動物で言えば熊やライオン程度の力はあります」
ほう。一番弱い魔物で、熊やライオンくらいの強さなのか。……って、
「勝てるかぁー!?」
アホなの!? 殺す気なの!? なんで呼んだの!?
「心配しないでください。このゲームには、ポイントや私の神力を消費して、プレイヤーに武器や特殊能力を与える機能があるのです。自分の力に絶対の自信を持つ神の戦士ほど、それらの武器を使うことは嫌う傾向にあるのですが、貴方は人間。ゲーム内の武器を使用したとて、誰にも疎まれることはないでしょう。
さぁ、選んでください」
それまで爺ちゃんらが戦う風景が映し出されていたスクリーンに、上部にウェポンメニューと書かれた、ウィンドウが表示された。その下にはズラリと武器の名前と、消費ポイントらしい数字が羅列されてある。
ふむ。すうぉーど……ああ、ソードか。剣ってことね。それに槍やナイフなど、これは近接武器のメニューか。
「これ、別のメニューは? 下にアイコンがあるみたいだけど」
「念じてください。貴方はすでに選手登録されてありますので、操作することが許されています」
念じろとな? またそんなアバウトな。
試しに念じてみると、新しいウィンドウが開き、銃やバズーカなど、新しい武器の項目が追加されてゆく。
うあー。何これ車とかバイク……戦車まであんの!? めっちゃバラエティ豊富じゃん。
「撃破されれば、武器もまた買い直さなければなりません。武器だけでなく、透視能力や浮遊能力などもあります。
最初に断っておきますが、一試合で貴方に回せるポイントは、500ポイントと言ったところです。生き返るには今の貴方ならば、10ポイントもあれば可能でしょうが、武器は一番安いものでも、100ポイントは必要です。500ポイントを消費したあとに、貴方が死んでも、それ以上は復活させるつもりはありませんので、ご注意くださいね」
「え? あの……もし死んだままゲームが終わったら……?」
「ご心配なく。私の神力を消費しようと、ちゃんと生き返らせてお家に帰してあげますよ。このゲーム内での死亡は、現世の理からは隔離されているのです。生き返ることは可能です」
あー、良かった。本当にゲーム感覚でやってるのね。しかしなるほど、それならば……
「ちなみに、魔物を倒せば、ポイント入るんですよね?」
「はい。貴方が獲得したポイントは、そのまま貴方のものにしていただいて構いません。勝敗を競う撃破ポイントとは別ですから、好きに使ってもいいですよ」
「ほほー。つまりは、自分が生き返るためのポイントを稼ぐこともできると」
トビリノメカミは感心したように頷き、
「そういうことです。理解が早くて助かります。さすがは今時の子ですね」胸の前で両手を組むようにして、ニコリと微笑んだ。
しばらくメニューを見ながら悩んだ末に、銃器の中からサイガ12を選択した。ネトゲでも使ったことがある。確かショットガンだったはずだ。消費ポイントは300。
他にもM4だとかAK47だとか、ゲームでよく見かける人気のARもあったけれど、べらぼうにポイントが高くて手が出なかった。まぁ仕方がない。使ったら強いんだろうなぁ。
特殊能力の中からは、治療能力を選択する。どんなゲームだろうと、回復は大事だ。これ初見プレイの基本ね。
まぁ、一番安い治療レベル1のものしか購入できなかったけど。無いよりはマシなはずだ。
残ったポイントは50。とりあえず、五回は死んでも大丈夫な計算になる。
「試し撃ちしてもいいですか?」
「どうぞ。ちなみに弾は、実弾ではなく神力弾が使用されています。普通の弾丸よりも威力があり、風の影響もほとんど受けないので、使いやすいですよ」
神力弾……神の力を使った弾丸ってことか。
後ろを向いて、真っ暗な暗闇に向かって引金を引いた。
ドゥン! とライフルから衝撃が伝わり、軽く一歩後ろにたたらを踏む。
射出された複数の光の筋が、砲身から真っ直ぐに、やや拡がりながら高速で飛んでゆく。
ライフルの上部に表示されていた青白い数字が、6から5へと変わった。おそらくは、残りの弾丸数なのだろう。
「これ、弾が無くなったら、補充できるんですか?」
「また300ポイント消費すれば」
なるほど。つまりは残りの五発で、300ポイント分を稼がなきゃならないってことか。
「ちなみに、一匹倒したら、どれくらいのポイントがもらえます?」
「個体によって差はありますが、最も低いポイントでも、100は稼げます」
おー。てことは、三匹倒せば元が取れるってことか。
んー、もっと安い武器にしといた方が良かったかなぁ。
でも俺が熊やライオンを、剣や槍で倒せるとも思えないし、選択は間違ってないよな?
どんなゲームでも、散弾銃は遠距離には向かず、ある程度は近い距離じゃないと役に立たない。まぁ、逆に言えば、近づきさえすれば当てやすいし、威力も高いものだ。
遠くから狙える狙撃銃の方が安全だろうけど、一番安いSVDでも、一個1000ポイントだもんなぁ。戦車とか十万ポイントもするけど、そんなの一体どうやって……
待てよ? もしポイントをガンガン稼ぐことができれば……。
「質問ですけど、稼いだポイントって、次の試合に持ち越すこととか、できるんですか?」
「できますよ。貴方が稼いだ分は、記録につけておきます。もちろん、消費した分も。
把握しやすいように、あとで貴方の携帯に、ポイントや戦績などの閲覧ができる公式アプリを、ダウンロードさせておきましょう。
頑張って活躍してくれれば、次に貴方が役に立てそうな試合があるときには、また召喚させていただきます」
「それはつまり……役に立てなかったら、もう呼んでもらえない?」
「はい。そういうことです。なんだ、意外に理解力があるのですね。そこは昔よりは成長した部分でしょうか。
とにかく、私も神力に余裕があるわけではありませんので、碌でなしを養うつもりはありません」キッパリと言い切り、ニコリと首を傾けた。
「あ、あはははは。そ、そうですよねー」
こ、これはなんとしても活躍せねば!
購入画面を解除してウィンドウを消すと、試合の様子を映し出すスクリーンには、本拠地らしき青く光を放つ屋代の柱を壊す、黒い影のような魔物の姿が映っていた。
「いけません。どうやら、出番がきたようですよ。まずはあれを駆除してください。そのあとのことは、追って指示します」
トビリノメカミがそう言ったとき、先ほど爺ちゃんが通って行ったスクリーン脇の扉が、ガチャリと音を立てて開いた。
「よぉし……行ってきます!」
勢い込んでスチャっと散弾銃を肩に担ぐと、戦場へと続く扉に足を踏み出して行った。
さぁ始めようか。密かにプロゲーマーを志すわたくしめの、研ぎ澄まされたエイム力をいうのを見せつけてあげましょう!
そして次の試合も、また次の試合も、ずっと呼んでもらうのです。あれだけ多彩な武器や能力メニューを見せつけられて、試すこともできず御役御免なんてありえない。
予感がするんだ。
これは久しく出会えなかった、神ゲーであると!
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