第61話 義妹(4)
その光景を見た瞬間、私は消えたくなった。今見た全てを忘れたいと願う。
しかし現実は残酷なものでそんなことを許すはずが無かった。私の心臓がズキンと、まるで誰かに心臓を鷲掴みされたかのような痛みがはしる。
私は晋也のことが異性として好きだ。兄妹ではあるが、兄妹だからこそ他の誰よりも近くにいれるし多くの彼を知ることが出来る。
だから油断していた。どこかで自分は負けないって思ってしまっていた。だからこそ胸が張り裂けそうなほど辛い。
私は晋也に声をかける。
「ねぇ晋也?何してるのか教えてくれるよね?」
口から出た声は酷く冷たかった。私はこんな冷たい声が出せることを知らなかった。
こんな女、晋也のタイプでは無いだろうし、嫌われるかもしれない。だけど胸を揺らす強い感情が止まることを許してはくれない。
私は無理矢理抱き付いていた菜月さんを引き剥がした。彼女は拗ねた顔を見せるが無視をする。
そして晋也は菜月とのことについて話し始めた。
話を聞き終えた私から怒りは消えたが、悔しさは残っている。晋也にとって菜月さんは要するに妹のような幼馴染みといった位置にいることが分かったからだ。
晋也の妹は目の前の美少女ではなく私なのだ。だから私は彼女にはっきりと言い切った。
「聞いて。晋也は今は私の義兄ちゃんだから」
そう言い切ると菜月さんは晋也に確認を取った。事実を知り項垂れる彼女を見て、私はまだ負けていないのだと確信できた。
少し上機嫌で部活へと戻った。
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