第51話 悠斗君の妹

そんな練習に途中からもう一人参加していた。

正確に言うならば参加ではなく見学だが。

それが菜月だった。

菜月のフルネームは橘菜月。

そう、悠斗君の妹だった。

俺と菜月は同じ小学校であり、同じ学年であった。

クラスは別であったが、その可愛さから学年で知らない人はいなかった。

何より目を奪われるのは彼女の銀色の髪と青い目だろう。

ちなみに悠斗君は黒い髪に青い目だ。

二人の父は日本人、母はロシア人だ。

俺も会ったことがあり、綺麗で優しかったことを覚えている。

菜月はその母の特徴を強く受け継いでいた。


俺が菜月と初めて話したのは、悠斗君が初めて菜月を連れてきた小学3年のときだった。

その当時から菜月は不思議な子だった。


「俺は風間晋也。悠斗君にいつもサッカーを教えてもらってる。よろしく」


そう言った俺に彼女は、


「……うん」


とだけ返した。

人と話すのが苦手だったり嫌いだと考えたが、悠斗君曰くそれは違うらしい。

彼女は基本的に自分からは滅多に話さない。

返事も基本「うん」とかしか言わない。

しかし理由は分からないが俺にはなついてくれていた。

学校では休み時間になると俺にビッタリくっついていたしな。

当時の俺は妹が出来たようで嬉しかったのを覚えている。

そんな彼女はある日を境に学校にも、練習の見学にも来なくなった。

悠斗君に聞いても「家の事情」としか教えてもらえなかった。


もう会えないと思っていた。

そう諦めていた。

その菜月がここにいたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る