第50話 悠斗君

俺がまだ小学生1年生のときだった。

母は仕事で帰るのが遅かったので、放課後に俺は毎日公園でサッカーをしていた。

俺は小学生のときはクラブチームには入っていなかった。

なぜなら、クラブチームに入ると母が練習の手伝いのため出席する必要があるからだ。

俺はサッカーが好きだった。

ただテレビで見たプロの選手を見て、強く強く憧れた。


俺の練習は我流だった。

当然のことだ。

教えてくれる人なんていなかったんだから。

しかし、ある夏の日の練習の最中だった。


「君、サッカーが好きなの?」


「うん!」


話しかけてきたのは当時高校生だった人だ。

名前は橘悠斗。

俺の師匠だった人だ。


「君、サッカー上手くなりたい?」


「なりたい!プロになりたいもん!」


「じゃあ俺が教えてあげるよ」


そうして俺と高校生のサッカー練習が始まった。

教わりはじめてから、俺は彼を悠斗君と呼ぶようになった。

練習は基本的に毎日やっていた。

後に教えてもらったのだが、悠斗君は当時とあるサッカーの強豪校にいたらしい。

その中でも悠斗君は1年の頃からスタメンに選ばれるほど上手かった。

しかし彼はその上手さを妬まれた。

悠斗君と入れ替わりでスタメン落ちした先輩や同級生は悠斗君をいじめた。

陰口や物を隠すといったことから始まり、やがては暴力へと発展した。

そして悠斗君はサッカーをやめた。

しかし、俺の姿を見て昔の自分を思い出したらしい。

その練習は俺が小学校を卒業するまで続いた。

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