夏空

 初めて村上春樹の本に出会ったのは、 

高校の時だった。

「羊をめぐる冒険」は

私を村上の世界にのめり込ませた。

羊男は私の心にもいると、

空想の世界に共感し、

現実とはかけ離れた妄想の世界に浸った。


細かな心の動きと

繊細で艶やか男女の表現

時に残酷なまでの人の醜さ

を感じずにはいられなかった。


私の人生なんてなんのドラマもないと、

どこかで現実味の無い世界に憧れと刺激を、

求めていたのかもしれない。


卒業と同時にやりたい事もみつからず、

地元のスーパーでアルバイトにあけくれた。

親元からアルバイトに行き、

洗濯もしなければ、

食事も作らない。

何不自由なく生きていた。

今思えばただ現実と向き合う事から目を反らしていたのかもしれない。


あの日も思っていた。

鬱陶しいのは早く働き口を見つけて家をでろという母親と、

朝はあんなに燦々としていた太陽が、

強烈な夕立に変わった事。

新しく買った靴が濡れて汚れて行く事に、

苛立ちそして落ち込んでいた。


当たり前の毎日はいつまでも続かない。

普通でいる事は幸せな事だった。

夏の夕暮れの様に

雲行きは変わりやすい

眩しい太陽は…

昨日までの幸せは…

一つの出来事で 

一瞬で闇を成す。

青天の霹靂

私の人生はあの日を境に一転したのだ。

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