第28話 日課

「ご主人。ごはんたべよ?」


赤髪の少女にシチューを渡し、この日の営業は終了した。

余ったシチューについては今日の夕飯になるだろう。ピザの売り上げが良かったので純益については問題なく当初の予定通りであり、余った生地を焼く必要はなかった。

明日以降の売り上げについて期待する。数量限定での販売の効力は市井の住民がどれだけ必要とするかに係っているのだからどれ程素晴らしい物であるのかを吟遊詩人に歌わせる計画もある。その時はコロや路地裏の貧乏人たちでも使おうか。


以前焼いたパンがあるので切り分け、余ったピザソースにチーズを掛けてトーストする。シチューについては温め直してそのまま器によそった。これに加えて適当な野菜を炒めて塩と東方のマギで味付けて風味の良い野菜炒めの完成。


「よし、コロ。出来たぞ」


正直パン食に飽きて来た。私は小麦粉のグルテンに対して胃腸が弱い。米が欲しいのだが、露天商で見たことが無い。これはアクィタニア帝国の気候を考えると仕方ないが米で育って来たのだ。貿易商を使っても欲しい物だった。それか自分で作るか・・・。土地に気候に水が必要で、このアクィタニア帝国にはある程度は備わっているが水の使用は帝国が権利を握っているので領地を下賜されなければ生産できない。


金が溜まったら商人に頼んで取り寄せてもらうか?ティベリスにでも頼んでみる事にする。


「スープおいしい。なんで売れなかったんだろうね」


「帝国民は看板を細かく見る事が少ないからだな。今日で良く解った。明日以降はスープは作らずにピザだけ売るか」


「もう作らないの?」


コロは残念そうに顔を伏せる。


「・・・偶に作ってやろう。機械を作らなければバターの精製に苦労する」


一応。従業員の希望を聞く事で作業効率を上げる。


「そっか。じゃあ機械が出来たら作ってね」


コロはほにゃりと笑い言った。

馬鹿な家畜を飼っている気分になった私は自分の心の変化に驚いたのだった。従業員として買った奴隷に対して情が湧いてしまっているのは、同じ場所で同じ飯を食べ、交流を繰り返しているからだろう。


貴族と違い奴隷を奴隷として扱えないのは器の大きさか。生まれついての王では無いので情のコントロールをすることが出来ていないのが今まで自分でも知らなかった私の弱点だった様だ。


「ああ。お前にはその分働いてもらうぞ」


「わかった。がんばる」


食事も終わり、ピザを販売するための作業を行う。朝方早めに起きて作るのはパン生地のみで、ピザソースや酵母やチーズも作らなければならないので非常に苦労する。しかし、他人に技術を盗られないようにするためには自分一人でやるしかない。


知財登録をしたが、他人が勝手に技術を使っていても抗議出来る場合と出来ない場合がある事を察して居た私は十全に帝国の法を信用している訳では無いのだ。

何処にでも例外はあるのだから。


仕込みも終わり、薪で温めた湯でコロと一緒に身体を拭く。1日の終わりにベットに潜り込んで今日やったことを思い出し、改善策を出していった。素養以上にスープが売れなかった事やピザの販売速度が遅かった事。これは知名度の低さ故に比較的高価なピザに手が伸びにくいと言う理由からだろう。

大抵の露店は大量に売りさばき、利益を得ているが私の販売方法は労働者の中でも高給取りの労働者を客層として考えている。


他の露店よりも美味い事は確かであるし、ティベリスの館でメイドたちからも一定の評価を貰っている。貴族にも通用すると確認した以上は宣伝こそがこの高価な食品を売る為の重要な部分である事は否定できないだろう。餌は撒いた。明日、ピザの売れ行きの速度から知名度を判断し改善する事にして眠りに入る。


早朝から忙しくなりそうだった。


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