第20話 異世界奴隷商の洗礼
奴隷との交流である。
労働環境をある程度保証しなければ、やる気に関わってくる。折角労働力を買ったのに怠惰に過ごされては此方の丸損になる。
「何故無いのだ?親はどうした」
「成人するまで名前は付けられない」
「ふむでは、これからお前をコロと呼ぶ。以後、応える様に」
「うん、わかった。ご主人」
コロとは昔、実家で買っていたゴールデンレトリーバー犬の名前であった。
穏やかで優しい犬で、学生時代は朝方10km程の長距離の散歩が日課になった為、運動と勉強の均衡が良い状態に取れたのか、学業の成績にも良い影響を及ぼしていた。
私はコロを家族の様に思っていたが、私との散歩中、車に轢かれそうなネコを助けるために犠牲になったのであった。彼の凹んだ腹は今になっても鮮烈に覚えている。
コロは私との将来よりも、目の前の猫を救うために命を投げ出した。
私は口汚く運転手を罵倒し、法的なケジメを付けさせたが今でも思い出すたびに怒りが蘇る。
そして、思い知ったのだった。
私がどれほど大切に思っていようとも相手が同じように思ってくれているとは限らない。
弁護士に事故の相談した結果、社会的な犬の立ち位置は家畜だった。社会的に家族では無いと証明されたのである。
それと同じで、目の前にいる奴隷も、アクィタニア帝国の法では人権の無い家畜と言うことになるのであった。
「魔法はどの様に使う?」
「全身に力込めると冷たくなる」
「ふむ」
私も試してみるが、如何にも使えない。
才能が無いと言う事なのだろうか。
分子を整列するイメージで脳内を満たしても水は氷にならなかった。
やはり、私の知る人類とは別の進化を遂げている。
私が、魔法をいかに使うかの練習をしているとアラームが鳴った。
「焼き上がりか」
一度パンを焼き窯から出して串を刺す。残念ながら生地が付いているので生焼けであった。
アラームを20分後に設定しなおして窯の蓋を閉じる。
「コロ、お前の居た国はどの様な所だった?」
コロは顔を上げると私の隣に座り、答えた。
「砂が拡がる国。大きなオアシスの周りに町があった。お父さんもお母さんも病気になって死んだから税金が払えなくなって奴隷になった」
「病気?」
「うん。風砂熱。脚に赤い斑点が出来て熱が出る」
砂漠が有る程の乾燥地域に風邪に似たような症状。赤い斑点に死者まで出るとなると、コクシジオイデス症だろうか。
・・・・・・不味いのでは?
「コロ。お前を運ぶ奴隷商の中に同じ症状で苦しんでいた者は居たか?」
「1人居た」
コロが安い理由が判明した。
此奴はコクシジオイデス症の媒介者の可能性がある。
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