第5話 冷蔵庫
No.608の内部。
扉が開くと、まず左側に進む通路になる。
そして現れるのが汚染拡散防止の
エアロックゲート。
レンタルラボは研究内容に
「基本的に制限はない」。
つまり、爆発物や細菌など事故や
何らかの事情で周囲に被害をおよぼす
可能性のあるものだろうと
研究する事ができるのよ。
レンタルラボは研究内容に合わせて
内部をカスタマイズするのが一般的で
契約時に運営会社が各種オプションを
用意してリフォームしてくれる。
このNo.608は微生物研究用に
セットされていて出入口に
エアロックゲートがある訳よね。
研究には想定外の出来事がつきもの。
本来、人間や家畜に無害の細菌・ウィルスが
突然変異を起こして致死的な物に
なるかもしれない。
もし、そうなった事に気づかないまま
ラボの外へ持ち出してしまったら…。
あるいは、非常に繊細な酵母のような
微生物を研究しているなら
外から別の微生物が侵入してきた場合
その研究が壊滅的被害を受ける可能性も
あるの。
一例を挙げるなら
日本酒の醸造元を訪れる際には
「朝食に納豆を食べてはいけない。」
と言うルールがある。
なぜなら、唇や手指に付着した納豆菌が
持ち込まれた場合。
その驚異的な繁殖力によって
醸造元が管理している酵母を駆逐してしまい
その醸造元の日本酒が作れなくなってしまう
可能性が出てくるのよ。
このエアロックゲートはラボの内外を
汚染させないためには必須って訳よね。
エアロックゲートに入り
失明防止用のアイマスクをつける。
この中で強力な紫外線放射を受け
殺菌するの。
放射時間は0.5秒ほどなんだけど
カメラのフラッシュの数十倍の閃光が
発生するから
コイツを装着しないといけないのよね。
壁についてるコントロールパネルを操作して
殺菌完了。
反対側のゲートを開いて
さらに中へと足を進める。
通路の行き止まりは右に曲がっていて
その先はちょっとした事務所のような
スペースになっていた。
執務机に応接セットがあるものの
ソファーはもっぱら
仮眠に使われているらしく
毛布がグシャグシャになって置かれてる。
まったく、研究者と言う人たちは
ひとたびスイッチが入ると寝食を忘れて
研究に没頭すると言うけれど
ちゃんとした食事と睡眠をとって
体調万全にした方がパフォーマンスも
上がって効率よく研究を進める事が
出来ると思うんだけど。
まぁ、疲労して意識朦朧となってる時に得た
ヒラメキが重要な発見につながるとか…
よく聞く話よね。
そんな事を思いつつ
パーティション区切られた奥に進む。
そこにはまさしく研究室と言った風景が
拡がっていた。
大きな作業台が中央にあり壁に沿って薬品や
器具の入ったキャビネットが並ぶ。
幾つかの分析装置も配置されていた。
さらに奥には透明な壁で仕切られた
培養室があった。
残念ながらそちらには用がないのよね。
私のターゲット。麦結実阻害ウィルス。
この部屋には不釣り合いな家庭用冷蔵庫に
保管されているんだから。
冷蔵庫に近付いて周辺を確認する。
何かアラームセンサーが付いているかもしれない。
私のような人間にとっては油断は命取りになる。
あくまで慎重にやらなくては。
OK。特に何も無いようね。
冷蔵庫の扉に手をかけゆっくりと開く。
事前に得た情報によるとウィルスは
金属製の密閉ボトルに詰められている。
それをゲットして素早く脱出すれば
任務完了だわ。
早く帰ってシャワーを浴びて
冷えたビールを流し込みたいものね。
冷蔵庫の扉は開いた。
……どういう事なの?
私は困惑して眉をひそめる。
確かにボトルはそこにあった。
ただし2本。
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