第2話 レンタル・ラボ
レンタル・ラボ。
それは学生・研究者たちの夢のゆりかご。
あらゆる技術振興に力を入れている
トライウェイ政府は
才能ある人材に資金を提供し
新たな技術・製品の開発を促していた。
しかし、そのほとんどが
才能ある個人の着想を実現する事すら
出来ずにいた。
理由は簡単。
彼等の研究は自宅のガレージで
パソコンを開発しているのと
さほど変わらない有り様だったのだ。
まともな設備や機器が無ければ
どんなに優れた発想・着想でも
何らかの成果を上げる事は難しい。
ならば、こちらで設備を用意して
そこで研究してもらえば成果を上げる事が
出来るだろう。
そんな発想から政府直営の賃貸研究施設が
オープンしたのは250年程前の事だ。
最初は20室程度の小さな施設だった。
しかし、そこから生まれた新たな
技術・製品は50年で30以上にのぼった。
それらは莫大な利益を生み出し
大金を掴んだ研究者は
新たな会社を起こしてトライウェイの発展に
大きな功績を残したのだ。
この成果を民間企業が黙って
見ているはずもない。
こぞって研究施設を建築し
名もない研究者に貸し出すようになった。
貸し出す企業は研究が利益を上げた際に
その何割かをマージンとして受け取る
契約を結ぶ。
さらには家賃として毎月一定額の
収入を得る事が出来る。
研究が当たれば莫大な利益。
そうでなくても家賃収入があるので
最低赤字にはならない。
ローリスクでそれなりのリターンを見込める
優良な投資物件と言う訳だ。
瞬く間にトライウェイ全土に
レンタル・ラボは拡大し
今では300以上の施設が存在している。
今回のターゲットはそんな施設の1つ。
首都、ゲートウェイから
20分ほどの郊外に建っている。
7フロアで50室ほどの
比較的小規模な施設で
それぞれのラボではあらゆる物が
研究されているのだ。
工業用の新素材。物理公式の再検証。
経済モデルの新構築。
そんな大学で行われるような学術的な物から
イリュージョンのステージで使われる
新ネタのセットの開発。
自作PCで処理速度の記録更新を目指す。
新食材を美味しく食べる方法など…。
いったい何のための研究なのか
判断しかねる物まで。
まさしくカオスと言える状況。
何が出てくるか分からない伏魔殿とは
まさにこの事だろう。
そして、その中に恐ろしい細菌を
開発しているラボがある。
No.608。
私は夜の闇に溶け込みながら建物に
近付いて行く。
正面からぐるりと回って裏側へ出た。
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