メタルナ -魔女達の微笑み―

隼 一平

第1話 月夜に影は走る

深夜3時。

今夜も灰色の月が辺りを照らし出していた。

惑星トライウェイの首都、

ゲートウェイの郊外。

私の前には

複雑な外観を持ったビルがそびえている。


今回のターゲットはここ。

レンタル・ラボの一室に忍び込み

惑星規模の災厄を招く危険な細菌を

回収する事が目的だ。


何でも主食である小麦に感染させて

結実出来なくさせるらしい。

バラ蒔かれたらトライウェイの食糧生産は

壊滅的な打撃を受ける事間違いなしだな。

だから、《魔女》である私の出番と言う訳。


『ねぇ。どうやって侵入するの?』


突然、頭の中に私ではない誰かの声が響く。

あぁ、そうだった。

まだ、寝かしつけてなかったんだ。

『屋上からだよ。装備も用意してあるから

大丈夫さ。』

言葉には出さず意識の中で返答する。

『ターゲットのラボはNo.608。

このビルは7階立てだから

屋上から入った方が移動距離が短くすむし

監視に見つかる可能性も減るわけよ、OK?』

『了解。

でもさ、本当に迷惑なヤツだよね。

小麦を枯らして収穫出来なくしようなんてさ。

自分の食べるパンも無くなっちゃうって

分からないのかな?』

『何か用意してあるかもしれないし。

天才となんとかは紙一重とも言うからね。

コイツを計画した天才生物学者様に

訊いてみないとどうにも答えようが

ないわね。』


ちょっとお喋りが長くなってしまった。

そろそろ仕事を始めないと。


『ここからは集中しないといけないから

私1人でやるからね。OK?』

『はい。気をつけてね。』


彼女と私は二心同体。

だけど私1人になる事も出来る。

私があるワードを口にすれば

彼女の意識は眠りに着き

別のワードでまた目覚める。


今は任務の成功のために1人になる時だ。


私は映画の撮影をイメージする。

カメラの前に立つ私に監督から声が掛かる。

「アクション!」


意識が澄み渡り、

体に力がみなぎってくる。

さぁ、仕事を始めよう。


あ、自己紹介をしてなかったね。

私は アンジェリナ・クルトー。

《魔女》W.I.C.Hのメンバーで工作員。

そして、さっき出てきたもう1人の私。

彼女は ルナ・アケヅキ。


私の「本体」だ。














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