第4話 変身
怒りに飲まれた真月は目の前の悪魔にとびかかる。鋭い爪で引き裂けば、いとも簡単に悪魔は消えた。もう一体の悪魔も倒すと、どうやらその悪魔で最後だったらしく周囲には倒れ伏した人々だけが存在していた。
「…」
桜賀と日向も真月を心配してか、真月の傍に駆け寄ってくる。我に返った真月は両親の死体を呆然と見つめていた。怒りに支配されたのは一瞬だった。すぐに現実が真月の目に飛び込んできた。
「うっ、ひっく。うっうっ」
ボロボロと止めどなく涙が流れていく。いつから二人が死んでいたのか分からなかったが、それなりの時間が流れてはいるのだろう。悪魔のいなくなった肉体は一掃強く腐臭を発していた。
「はぁ。所詮は低級悪魔。受肉させたところでこの程度か…」
いつの間にか祭壇の前にいた神父の口からため息がこぼれた。思っていたよりも簡単に悪魔を倒されてしまい、期待外れもいいところである。
「ずいぶん余裕そうだな」
明らかに油断している風体の神父に桜賀は苛立ちを覚えずにはいられなかった。まるで自分たちは眼中にないと言われている様だ。
「せやな。取り巻きの低級どもはみんなやられてしもたで?」
「ふっ、必要ない。もう目的は果たされている。お前たちを始末できなかったことは残念だが、今の私は万全ではない。大いなる目的を果たすため、ここは退散させてもらおう」
「逃すと思うか?」
その言葉を聞き桜賀は戦闘態勢をとる。真月を守る様に日向は神父と真月の間に陣取る。しかし、神父は一向に動こうとはしない。相手の動きを牽制する様なにらみ合いが続いた。
「くっくっく」
自身の動きを見逃すまいとする姿に神父は思わず笑う。「何がおかしい」そう桜賀が尋ねようとしたその時。ガシャーン。神父の背後のステンドグラスが割れ、そこから悪魔が飛び込んできた。それを待っていたのか、神父はにんまりといやらしい笑みを浮かべた。
「では、さらばだ」
悪魔に掴まり逃亡を図る神父。完全に虚を突かれた形となり、桜賀と日向は固まってしまっていた。その時、扉から人影が飛び込んできた。人影は刀を一閃し、神父に攻撃する。しかし、それをあざ笑うかのように躱して神父は割れたステンドグラスの向こう側に逃亡する。空に消えていく神父をそこにいた誰もが、見送るしかなかった。
「クソ!一足遅かったか!」
攻撃が避けられたことがよほど悔しいのか先ほど飛び込んできた青年が地団太を踏む。
「あーあ。逃げられちゃった」
いつの間にか扉の傍にいた小柄な人影がぼやいた。もう一人の青年へ向かって歩きながら「ナオが遅いから〜」と青年を責める。
「ハルが道間違えたんだろ!?」
その言葉を聞いて自分のせいにされてはたまらないと、青年は噛みつくように言い返す。
「遥さんと直政さん!遅いやないですか!?」
知り合いなのか、責めるような言葉を吐きながら日向が二人に駆け寄った。
「ごめんねー。ナオがモタモタしてたから」
「だから、人のせいにすんな!」
「はいはい。わかりましたから、ケンカせんといてください」
しかし、二人はいまだに言い争いをしていて、結局は日向が二人を諫める羽目になっていた。
「だれ?」
真月は涙声で近くに来ていた桜賀に尋ねた。両親の前で思いっきり泣き、少し落ち着きを取り戻したようだった。先ほどまで獣化していた手は人のものに戻っており、耳と尻尾が残るのみであった。
「小さいほうが
二人は私服で、全く警察官らしくない警察官ではあったが、今回の協力者であったらしい。分かれて調査を行っていて、この教会についても連絡は入れてあったらしく今になってようやく到着したらしい。
桜賀の話を聞きながら二人の警察官を眺めていると、直政が何を思ったのかこちらへやってきた。
「こいつは?」
ズカズカと真月の傍までやってきた直政は真月の頭に手をやると、無遠慮にぎゅっと獣耳をつかんできた。
「キャン!!」
突然のことに真月は驚いて、声を上げる。そのまま思わず、直政の手にガブリと噛みついてしまう。
「いでっ!!」
直政は噛まれた手を押さえながら真月からバッと距離を取った。真月は放された耳を抑えて悲しげに鳴き声を上げる。
「今のは直政がわるいよ。あんなに思い切り耳を引っ張れば、誰だって痛いに決まってるだろう?」
やれやれと肩をすくめながら遥も真月の傍へ歩いてくる。
「直政がごめんね?痛かったでしょう?」
遥は桜賀の後ろに隠れてしまった真月の頭を労わるように優しくなでる。
「…大丈夫」
遥の手つきが優しくて、真月は思わすそう答えた。そっとなでる手の心地良さに真月は桜賀の後ろから出て来て遥に近寄った。しばらくじっと撫でられていたが、だんだん催促する様に手に頭をこすりつけた。撫でられる気持ちよさで桜賀と日向の存在は真月の意識から外れてしまっていた。気が付くと日向はいつの間にか真月たちの側にやってきて、桜賀と共にことのあらましを遥と直政に話している。しかし、真月にはその話が全く頭に入ってこない。今だ遥は真月の頭を撫でることをやめず、その心地よさに尻尾はユラリユラリと真月の意思に関係なく勝手に揺れ始める。
真月が遥の手練手管に陥落し、抱きつくようにべったりと甘えている内に四人の話し合いは終わっていた。
「…でええか?真月君」
いつの間にか遥に抱きついてぼんやりしていた真月は、日向の言葉の半分も理解できなかった。疲れがどっと出始めたのか、次第にこくこくと船を漕ぎ真月の目蓋は今にもくっつきそうだ。
「これは……だな」
「まあ……やし、疲れたんとちゃうかな………やで?」
「話は…でもう一度………を……てから…」
「それがいい………。ここの処理はこっちで……ああ。その件に関してもこちらで……。そうだ。まず……だろ?」
次第に周囲の音が遠くなっていく。瞼がゆっくりと閉じはじめ、夢うつつで日向たちの言葉を聞こうとする。
「いい。寝ろ真月」
ほとんど眠っている状態に近い真月に桜賀は優しく声をかけた。その言葉を聞き、真月はその眠気に誘われるまま遥の胸元に頭を預け、眠りに落ちた。
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