第2話
始まりからして嫌な予感はあった。
「ハーブ・サブシスト…神父?」
まるで冗談みたいにとってつけたような名前に偽名では?という疑念が生まれるのも当然のことだ。
”ハーブ”が西部の隠語でいわゆる”ハッパ”を意味することくらい僕だって知っている。ましてやラストネームはサブシスト(『食す』『~で生命をつなぐ』の意)だ。
「サニーフィールド神父…失礼ですがこの方のお名前は…」
「紛れもなく本名ですよ」
そう言ってサニーフィールド・カンザキ神父はたおやかな笑みを浮かべた。座っていると絹織物のように流れる長髪が宗教画の如く絵になる。
サニーフィールド神父は大陸東方の片田舎にあるこのクリード村出身でありながら大陸の
同郷のよしみということで神父見習いになった僕の教導師となってくれることを幼心に期待していたのだが現実はそんなに甘くはなかった。
僕はサニーフィールド神父から手渡された書類の『ハーブ・サブシスト』という文字列を見つめる。
「ハーブ・サブシスト神父…一体どんな方でしょうか?」
サニーフィールド神父は僕の両肩にそっと手を置いた。
「サニーフィールド神父…?」
「いいですか、ウィステリオ…苦難こそ神の愛です…」
サニーフィールド神父の額に滲む冷や汗が見えた気がしたけれどいつも温厚で冷静なサニーフィールド神父に限ってそんなことはあるはずがないと僕は思い直した。
「どんな苦難があっても決してあきらめてはいけません…どんなドがつくほどの外道であっても神の愛と救いは分け隔てなく…そう、それこそ春の嵐の如く私達信徒の上に降り注ぐのです…そう、たとえどんな人間であっても…痛ましいほど…平等に…」
僕の肩に置かれたサニーフィールド神父の両手は最早隠しようがないまでにぶるぶると震え、爪が食い込もうかと言うほどに力強く僕を鼓舞…いや…あの…真面目に痛いです神父。
「サニーフィールド神父…??」
「…ああ…信徒が呼んでいる…そろそろ行かないと…それではご武運を…ウィステリオ…気を強く持つのですよ…?」
「サニーフィールド神父…?????」
神父はフラフラと教会の懺悔室に向かった。
僕の心中にはただただ不安と嫌な予感が込み上げる。
そしてその予感が間違っていなかったことはそれから二週間後ハーブ神父がこの村に到着した日の夜の宴席で嫌というほど知らされることになった。
…なったのだがその話は今や思い出したくもないレベルの話なのでここではどうか端折らせて欲しい…。
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