ガン・オン・グレイス

藤原埼玉

第1話

 神よ…なぜあなたは僕を見捨てたのでしょうか?


「…であるからして…神は飲酒を認めたもうた」


「…はい?」


 青々とした晴天の下ハーブ神父は木庭の一番小高いところに陣取ってウィスキーを直にあおる。そんな神父の行動に集まった子供たちは当然ドン引きだ。


 今日のミサの列席者が子供だけであることに気を良くしたハーブ神父はこんないい天気はミサは外でやるに限るの一点張り。僕の静止など問題にならないことはいつものことだ。


 そもそもまともな信徒がミサに寄り付かなくなったのもこの神父の滅茶苦茶な振る舞いによるところが大きいのだがそんなこと今更本人に言ったところで全くの無意味だろう。


「モルト酒、エール酒、蒸留酒に葡萄酒。なんでもええ。聖者とされる者…みなみな酒にこそ救いを見つけたりや…神の使徒であるワイら神父様様にアルコールを捧げる信徒は末永く神が祝福を…」


「ちょっと待ってください!?そんなの聖書のどこに書いてあるんですか!」


 流石に聖書への冒涜甚だしい発言に矢も楯もたまらず僕は横から口を出した。


 そもそもこの神父…教導師のくせにまともに聖書を読んだことがあるかすら怪しいと僕は正直常々思っている。


「そうだそうだー!」


「ウィステリオのいうとおりだ!」


「シスターにいいつけるぞー!」


 集まった子供たちは口々に神父に反旗を翻す。延々と繰り出される無為を通り越して迷惑な長話に子供たちの我慢も限界を迎えたのだろう。


 だが、当然ここで怯むようなハーブ神父ではない。


「じゃかあしいわアホンダラ!餓鬼にはワイの崇高な教義が分からんのじゃ!帰ってママンのおっぱいでも吸うとけやボケ共が!」


「わかってたまるかばかー!」


「のんだくれー!ダメにんげん!」


「うわっ!?石投げんなや!?危ないやろ阿呆!クソが!木登るなんて卑怯や!!降りてこんかい!降りてこんと天国に行かれへんくなるで!痛っ!このハゲ!お前なんか地獄行き決定じゃこのカスが!」


「…」


 目の前で繰り広げられる初等科レベルの諍いに僕は自らの無力感を呪う。


「いっだァ!?今の顔当たったぞクソがァ!オマエ顔覚えたで!次のミサで見かけたらただじゃおかんからなこのクソハゲェ!」


 そう…これはこのハーブ・サブシスト神父が初めての教導師となった僕こと哀れな神父見習いウィステリオ・フィールドの話である。


「…っはぁぁぁぁぁぁ…」


「おいそこ!?クソデカため息やめろや!」

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