エリスの様式

「おはよう、起きてる?」

 こちらが了解を示す前にアルルは部屋に入ってきた。これがこの世界の流儀であるということはなんとなくわかってきたのだけど、一応未婚の女扱いされてるのでもう少し気を遣ってほしい。

「さっき目が覚めたところ。着替えるから、出て行って」

 寝間着姿のままふわふわ浮いてるのを見てすぐに状況が分かったらしく、アルルは竜皮をしっかり閉じて出ていった。

 私がここに来てから二週間ほど経っていた。ここの土地の人間は彼が言っていた通りに非攻撃的な性質で、得体の知れない私に少しびくつきはしながらも、邪険に扱うことはしなかった。それどころか体質上普通のベッドが使えないことを考えてくれて、特製の寝間着を作ってくれた。

 ベッドが使えないなら厚着をして布団代わりにすればいい、という発想で、赤子に着せるものを参考に大人用に作り直してくれたらしい。私にとっては「浮いてしまう体質」は本当に信じられないものなのに、彼らにとっては慣れたもののようで、私の持ってるほかの体質についてもいろいろと対策を練ってくれているみたいだった。

 寝袋と着物のあいのこのような寝間着を脱いで、折り畳む。厚みがある布で作ってあるから、置くのに少し場所をとるけれど「この家にはベッドを置く必要がないから特に問題はなさそうだね」とアルルは言っていた。私はクローゼットを使うのに慣れていたから、実を言うとちょっと不便だと思ったけど、それは黙っている。ここの土地は狭い部屋で生きる方向に特化しているようだから仕方ない。アルルの使っているベッドも、やってるのを見たときは驚いたのだけど、三つに折り畳むことのできる構造になっていた。

 寝間着を少し空中に置いている間に、棚に置いてあった服をとった。服と言っても一枚の布切れだ。細長い布を背中に当てて、前で結び目を作る。適当に整えたらそれで完成。布が置いてあった場所に寝間着を置き直して、部屋の端に置かれた鏡を見た。体全体を一瞥してから、近くに置いてある磨き石で表面を磨く。アルルのお母さん曰く、これを日課にしないとすぐ錆びるそうだった。

 磨きながら視線が鏡の中の自分に向かった。上半身で布に覆われているのは胸元だけで、腕も腹も露出している。元の世界に居たときはこんな服装をする日が来るとは思わなかった。

 下半身は特別なときでもない限り着替える習慣はあまりないらしいから、着替えないままでいる。それでも新品の服は布がくたびれてなくて見栄えが良い。長方形の袋に足を出す用の穴を二つ作って、そこから足を出しているような簡素な服。腰だけはお洒落兼鞄としてリボンを結びつける。私は特に小道具をつけたりしないから、後ろに結びを作った。

 上半身の服装は、男は腰から腹あたりにするさらし布、女は胸元にする結び布と差があるけど、下半身の服装については基本的な構造もお洒落の道具も変わらないらしい。アルルは「本当にやる気がない日は腰布もつけずに家でごろついたりするけどね」と言っていた。けど私にはいつ何が起こるかわからないから、いつもそれなりに見えるように気遣うことにしている。

 ふわふわと浮かぶリボンの先には、多少の錘代わりにならないかと考えてくれたらしく(ここの人としても意図しないタイミングで飛んでしまうのは可哀そうだと思うらしい)、大きめの白い巻貝が付いていた。実際その意味は成してないのだけど、黒に近い緑色をしている大きなリボン……ここで採れるツタ、もとい海藻みたいだけど、それと合わせてみると、非常に映えて見えた。貝殻はアルルの幼馴染の女の子が見立ててくれたみたいで、私の髪とよく合っていると言っていた。

 一番上の棚に雑に重ねているアクセサリーからいくつか輪を選んで、適当に腕やら足やらに通す。ここだと足にアクセサリーを付けるのは普通らしい。アルルもあんまりお洒落に関心がないわりに足輪を着けていた。着けっぱなしにしても邪魔じゃないわりに見栄えが整うから、着けてる男性はわりと多いとのことだった。

「準備できたよ」

 そう外に呼びかけると、ざっと竜皮の扉が開いた。アルルは当然のように左腕を差し出している。それでちょっと困惑した。まだ今日は何をするのか聞いていない。

「朝ご飯でもあるの?」

「いや。エルフが調査に来たみたい。うちの村長がエルフと話してるのを見かけたから、どうせならこっちから行ったほうが調子掴めると思って」

「調査って何……?」

 彼は私のほうを見て意外そうにしていた。行き場を失った左腕は少し動きが迷ってから、元の位置に戻っていく。彼は私が分かってるほうが自然だと思っているみたいだけど、そもそもあの日以来エルフについて何も聞いてない。エルピスにとってどんな存在なのか、そもそもエルピスがどういう扱いを受けてるのかも正確にわかってないのにそんな顔をしないでほしい。

「フェーニャが来た日、大きな岩が落ちてきたんだよ。エルフってのんびり屋だから、今日になってどんな感じか調べに来たんだよね」

「もう二週間も経ってるのに……?」

「時間間隔が違うから仕方ないんだよ。困ったことがあったらなんでも言ってくれって言ってるわりに、解決策出してくるの一か月後だったりするんだよね。しかもその間音沙汰無しで」

「それはちょっと……付き合いにくい相手ね」

 なんとなく力関係が見えた気がした。頼りがいがあって実際力があるんだけど、その分横暴な相手というのは扱いづらいものだ。

「まあでも悪い人たちじゃないんだよ。なんかこうやたらに上から目線で絡んでくるけど。悪い人じゃないんだよ」

「自分に言い聞かせてるように見えるんだけど」

 不安げに呼びかけると、彼は少し笑って「冗談だよ」と言って、もう一度左腕を差し出した。他にやることもないだろうし、仕方ないから彼の腕を掴むことにした。


 最近はツタの道を歩こうとするのを諦めていた。アルルの腕や肩に掴まって移動するのが定番になっていて、一人で移動したことがない。飛んで移動することに関しては、本当はもうだいぶ感覚が掴めているので、一人で出歩いても構わないくらいにはなっていた。けど、臆病な記憶喪失少女ということを考えるとさすがにもう少し先だろうと思ってやらないでいる。私は最初に助けてもらったアルルに懐いていて、どこに行くにも基本的に一緒に居る、ということになっている。

 記憶喪失ということにしたのは単純に都合が良いからだったのだけど、思いがけない効果があった。アルルが説明するところによると、私の体質は全体的に赤ん坊と近いところがあるらしい。その上で記憶に関してもまっさらというのが一部の女性に刺さるらしく、随分と丁寧に構われている。錘代わりの大きな巻貝も、本来は結構珍しいものらしいのだけど、天使さま扱いやら赤ん坊扱いやらの補正で巡ってきたそうだ。

 物は言いようだけど、要は無垢なイメージが張り付いているんだろう。警戒されにくいだろうし、その方向でいいか、と、巡ってくるものについてはだいたい大人しく受け取っている。おかげでやたらにアクセサリーが増えてきているのは考え物な気もしているけど。

「あ、おはよー天使さま、今日は早いね、狩りの見学にでも来るの?」

 一本隣の道を歩いていたリャタがこっちに飛んできた。最初にそれを見たときは光景が怖くてびっくりしたのだけど、アルルが注意をして「絶対、真似しちゃだめだからね」と厳重に言ったので、危ない行為なのだと知れる良い機会になった。彼はアルルの言うところの『行儀良くない』タイプらしく、わりとしょっちゅう宙に浮いていた。今も私の視線に合わせた位置くらいに飛んでいる。

「それはリャタの願望でしょ。悪いけどまだ狩りの現場には行かせないからね」

「いやー過保護すぎない? 見た感じ結構飛び慣れてるぽいし大丈夫でしょ、俺も守るし」

 ここについて慣れるまでの間、あまり喋らないでいようと思っていたので、彼らの会話を大人しく見守っていた。とは言っても全く参加しないのも居心地が悪そうなので、どちらかが喋るたび、相手の顔を見るようにしている。

「そもそもリャタそんなに大物狩り上手くないじゃん。いつも罠の回収しかしてないから」

「それ今言わなくてもよくない?」

 そこそこショックを受けたような顔をしていた。初めて会ったときからわりとこんな調子だったので、こういう性格なのかと思っていたのだけど、実は結構見栄を張っているほうなんだとアルルから解説を受けている。本人には内緒だ。

「そんで結局今からどこ行くの? あれだったら俺もついてくけど」

「さっきエルフが村長たちと話してたんだよ。だから一応挨拶しようかと思って」

「え? エルフに?」

 表情があまり良くないので不安になった。という顔をした。リャタはこちらの様子に気が付いたらしく、あわててフォローを入れた。

「いやその、俺あんまりエルフのこと得意じゃないっていうか、ちょっと苦手なんだよね。だからあえて連れてくのはどうかなって思っただけだから、そんな顔しないでっ、アルルはその辺平気だしっ」

 アルルのことが話題に出たのでアルルの顔を覗き込んだ。

「うん、まあリャタはわりとエルフと相性が良くない性格だからね。心配しないで。黙って一緒に居てくれればいいから」

 不安感はぬぐえないけどとりあえず従おう、という感じの顔をしといた。リャタは狩りの見学を提案しといたわりに、私が不安な顔をするのが良くないと思ったらしく、アルルに少しだけ反論をした。

「でも今日あえて連れてく必要はないんじゃないの」

「今日こっちから行かなかったらたぶん次会うときはもっと威圧的にやってくると思うんだよねー」

「それは……まあ、そうか……」

 あっさり論破された。威圧的という言葉を聞いて少し心配だという表情でアルルを見たら「大丈夫だよ、彼ら別にあえて威圧的に振る舞ってるわけじゃないから」とフォローなのかそうでないのかわからないフォローをしてきた。

 そのあたりで道が分かれた。リャタは「俺朝の回収が終わったら食事場に居るから、あとで会おうね~!」と言ってまた道をショートカットし始めた。心臓に悪い絵面なので悪ぶるのはやめてほしい。

 リャタを見送ってぼんやりしていたらアルルがまた歩き始めたので、合わせて前進する。

「あのさ」

 周りに聞こえないように配慮した、小さな声だった。聞きづらいので顔に近づいて「なに?」と返事する。

「なんか君のああいう態度、毎度笑っちゃいそうになるんだけど」

「今笑ってるじゃん」

「いやだって、仕方ないでしょ」

 声を静め気味にしても笑えてきてしまうらしく、貝殻の耳飾りが小刻みに揺れた。そんなにおかしいことだろうか。どちらかというとそんなにおかしいことの前で平然とやり取りできてたアルルのほうがよっぽどおかしいと思う。

 というか今まで一度もそんなこと言ってこなかったから、てっきり何も感じてないのかと思った。今更言ってきたのは、二週間経って気が緩んできたからだろうか。

「あのね、あの場所以外でそういうこと言わないで。誰がどう聞いてるかわからないから」

「わかったよ。でも出かける予定が立ったら前日に声かけてね。いきなりだと凄く眠いから」

 それから彼は黙ったので、私も黙ることにした。食事場の近くをかすめて、火山のあるほうと反対側の地面に向かってるようだった。

 エルフとはどういう外観なのだろう。アルルは「エルピスと変わらない見た目をしている」と言っていたが、どうにも妖精の類のイメージが頭にかかっていた。

「そういえばこっち側に来るのは初めてだったよね。こっち側は主に狩場になってるんだ。といっても今回行くところは手前のほうだから、あっても小さな罠程度だけどね」

 ということは無闇に触ったり地面に降りたりしないほうがよさそうだ。小さいとは言っても殺傷能力のあるような罠にかかったら大変そうだった。

「君はわかってそうだけど、今回は地面に降りたり、周りのものに触ったりしないでね。また今度罠について解説するからさ」

 一応といった具合に忠告された。まあ意識しなければ地面に触れることはないし、肌と、あと錘が触れないように見ておけば大丈夫か。

 ツタの道の終わり、崖に辿り着いてから三、四回上に跳んで、地面が見えてから、一度だけアルルから手を離した。彼はぎょっとしてこちらを見たけど、気にせず腰布の蝶結びを触りなおす。

「錘が触れるかもしれないから」

 そう言うと彼は納得したようで、じっと私を待ってくれた。蝶結びの輪を大きめに引っ張り上げて、これがどこかに触るのも面倒そうだったので、輪自体でまた軽く結びを作る。それからまたアルルの肩に触れると、彼は先に進み始めた。目的地はすでに見えている。しばらくはただっ広い平地が続いていたからだ。墜落した大岩の近くに数人、人が立っている。

 遠目に見ながら服装を観察していた。どうやら普段交流のある層とは違うタイプの人間が出張っているらしい。ここじゃ見たことのない装飾を身に着けている男たちだった。下半身の装備はアルルと同じだが、上半身に簡単な構造の服を身に着けている。ぱっと見た感じ、古代ギリシャの服装とよく似ていた。というか構造は同じみたいだ。単純な構造から起こる布のしわと、両肩の金具が印象的な服装。古代ギリシャのものはワンピースとして扱うのが基本だった気がするが、ここではあくまで上半身を隠すのが目的らしく、丈が短い。

 三人のうち二人は上半身に服を身に着けていたが、そのうちの一人はさらにネックレスもしていた。どうやら高貴な立場のようだ。彼らはもう一人のしている作業をじっと見つめていた。

 作業をしている男は、素朴な服装をしていた。装飾は片方の足に着けている足輪だけで、腕輪も腰布の飾りも着けていない。上半身の服も身に着けていなかった。

 彼は膝をついて岩肌をさすっているようだった。真っ黒な肌に、周りの人間よりも手足が長い体格のバランス。明らかな黒人。エリスでは珍しい。というか会ったことがない。険しい顔をしている。ということは何かの専門職だろうか。調べに来た専門職ということは、この黒人がエルフなのだろうか。

「ああいう肌の人は僕たちの住む村だとまだ見たことないよね、真珠の加工職人の多い村だと結構いるよ」

 黒人のほうをじっと観察していたからか、アルルから説明が入った。どうやらここは私の予想してた以上に様々な人種が居るらしい。

「村長、おはようございます。フェーニャを連れてきました。エルフさまにお目通り願いたいのですが」

 敬語のわりにずかずかとした態度で割り入っていく。どうやらメンツの一人は村長だった。私も一度会ったことがある老人だ。そのときの上半身の服装はさらし布だけだったが、今服装が違うのはエルフ“さま”と居る機会だからだろうか。

 アルルが来たことに気が付いて、黒人は立ち上がってこちらを眺めた。

「アルルか、君にしては早いじゃないか」

「エルフさまが来るだろうと聞いていたので、近頃は早めに起きていたんです。彼女のために」

 わかっていたのなら言っておいてほしかった。とりあえず私は、見たことのない見かけの人間と、見たことのない人間が居る環境に、不安の混じる顔を作っていた。心持ちアルルに近めに寄り添っている。

「族長様、紹介してもよろしいですかね」

「構いませんよ」

 ネックレスを掛けていた男は族長だった。なるほど、代表が二人来ている、という図だったのか。族長の年齢は……わからない。若者ではないが、老人というほどでもないということ以外見てとれなかった。白人以外だと年齢予想がそれくらいしかできない。白人の血も感じるが、アジア人の血も感じる顔立ちだ。

「オティエノ様、こちらはフェーニャです。そちらの岩が落ちてきたときにこちらのアルルが発見いたしまして、今共に生活しております」

 村長が紹介すると、黒人は私のほうに体の向きを変えた。黒人の名はオティエノというらしい。岩との関連性を知って一瞬ぎろりと私の顔を見たが、怯えた表情を見せるとすぐに笑顔になった。

「初めましてお嬢さん、私はオティエノと申します」

「フェーニャ、と呼ばれています……」

 呼ばれている、という言い回しに、彼は少し疑問を持ったようだった。表情の変化に気づいたアルルが、素早くフォローした。

「オティエノさま、私はアルルと申します。彼女は記憶喪失で、自分の名も覚えていなかったので、私が名付けました」

 実際には、そういうことにしていた、が正しかった。アルルが私の名を知った手前、そのままの名前を使ったほうが過ごしやすいだろうと言って「フェーニャって感じがするから」という感覚ごり押しで周囲を納得させ名付けたのだった。

「記憶喪失とは、どういうことなんです?」

 オティエノは村長のほうを見て問いかけた。

「アルルが発見したとき、彼女は気を失っていまして、ほら、今も宙に浮いてるでしょう。彼女はこういう体質なんです。アルルが言うところには、彼女は岩陰から現れたらしいのですが、おそらく、墜落する岩に眠ったままぶつかって、強く頭を打ったんではないかと考えられているのです」

 現時点のざっくりとした推測がこれだった。

「そういうことでしたら、そのことも早く教えてくださればよかったのに」

「いえまあ、このとおりフェーニャは記憶以外は健康でして、あまり大事にするつもりがなかったのです。本人もそこまで強く過去に執着している様子は見せていませんし。それにエルフの方々はのんびりとしていますから……」

 どのみち来るのは遅かったろうとまでは言わなかったが、言いたいことは伝わったようだった。かといってオティエノは機嫌を悪くするわけでもなく、それもそうか、といったような顔つきだった。

「わかりました。おそらく私たちにも記憶喪失に対してできることはあまりないでしょうし、本人が過去について気にしていないのなら、無理に記憶の治療を勧めることもしないでしょう。まあ、私は医者ではないのですが……」

 それからオティエノは私のほうを見て、数歩近づいた。存在感に圧を覚えて少しだけ後ろに退いたが、その間も彼の顔をじっと見ていた。近づいてみるとわかる。背の高いひとだ。地に足をつけているのに、浮いている私とかなり目線が近い。

「フェーニャさん、私は地質学者なので力になれませんが、他のエルフにあなたのことを話せば、あなたの過去を取り戻すのに協力してくれる者が居ると思います。しかし、あなたはその権利を無理に使わなくてもいい」

 穏やかな目線に優しい口調だった。きっとこの人は本心からこのことを語っているのだろう。

「もしも過去に関心が向いたら、村長や族長に頼んで、私たちに伝えてください。できる限りのことをしてみせましょう」

「……はい」

 現状その予定はないのだけど。少し安心したといった雰囲気で返事をした。自分に協力的な人間が増えるのは良いことだ。

「それでは私はもう少しこの岩の調査を続けます。帰ったら皆にもあなたのことは伝えます。ひょっとしたら関心のあるエルフが赴くかもしれませんので、そのつもりでいてくださいね」

 それから彼はまた大岩に向き合った。もう私に用は無さそうなので、アルルは空気を読んで「それではそのときはよろしくお願いします」と一言伝えてから後ろを向いた。

 大岩から離れる最中、彼らの会話にじっと耳を傾けていた。どこかに隠れて様子を見ることはかなわなさそうなので、それくらいしかできることがない。

「アルルさんは良い子ですね、礼儀が正しいですし、賢そうだ」

「ええ、あれで面倒見も良くて、フェーニャも懐いてるんですよ。ところでさっきからずっと険しい顔をなさってますが、何か気になるところでもあるのですか」

「ええ少し」

 ここで彼は小さな声で「この近くの岩じゃない」と語った。私はどきりとしたけれど、そこから先はもう崖のところに辿り着いていて、聞くことができなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る