第21話 2020年5月2日 コールオプション・プットオプション③
「春雄さ、なんか私に隠してることあるでしょ。
困ってるなら周りくどいのも嫌じゃないけれど言ってみなよ。」
順子はシリアス顔のまま、俺の目を見ながら言った。
俺は
今の俺の状況を洗いざらい話せば、まず間違いなく
あの春雄がなんと馬鹿だったのかと。
だが、この状況では全てを隠しおおすことも難しい。
俺は覚悟を決め、少しずつ話すことにした。
「実はさ、株で少し損をしてるんだ。」
まずは手短に事実を伝え反応を見る。
「ま、そんなことだろうと思ってたよ。
春雄、私が結婚してから一切プライベートで会わなくなったもんね。
そんな春雄が休みの日に数年振りに呼び出すんだから、
それで、いくら負けてるの?」
順子は的確な推理である程度、俺の状況を
俺はそれでも現在の損失金額を伝えるのは流石に抵抗があり、断片的な事実を伝えた。
「3月にダブルインバースで200万
あれを先月、全部
そこから更に600万円負けてるとは言えなかったが嘘はついていない、はずだ。
すると順子は少し難しい顔をしながら言った。
「勝ってたのは100万って聞いてたけど、もっと勝ってたんだね。
で、それを全額吐き出しちゃったと。
うーん……
一言で言うとさ、リスクを取り過ぎてるんだと思うよ、春雄は。
春雄の運用資産の総額は知らないけどさ、資産の5%を超えて変動するようならそれは背伸びし過ぎだと思う。
勝つときは大きいけど、負けるときも大きいからね。」
そこまで言って順子はカフェオレの入ったカップを口元に運びひと呼吸おいた。
「株はさ、退場しないことが第一だよ。
大勝ちしている人の話はさ、話半分に聞いとくくらいがいいと思う。
株はやってる人の9割が負けるって話もあるくらいだからね。
流石に最近はアベノミクスでもう少し勝っている割合は高いと思うけど。」
順子の言っていることはもっともだが、俺は段々とイライラしてきた。
そんな正論はわかっているが、今聞きたいのは正論ではないのだ。
どうやったら
俺は我慢できず口を開いた。
「それで順子はどうすればいいと思う?」
すると順子は真面目な顔で言った。
「取れる道は少ないね。
私が思いつくのは二つ。
一つは一度現在のポジションを解消して、少し頭を冷やす期間を置くこと。
もう一つは、あくまでポジションに自信がある場合だけれど、自分の耐えれる最大損失に
でも、こっちはあんまり勧めないかな。」
「どうして勧めないんだ?」
俺はどちらかというと二つ目で行こうと思っていたので聞き返した。
「人間ってさ、逆指値を設定してもね、動かしちゃうんだ。
勝っている時に動かすのは利益を最大化できるから問題ないんだけれど、負けている時に動かし始めると泥沼にはまるんだよね。
100万円の損失で済んでいたはずが200万、400万ってね。」
まさに俺が先日追い込まれて逆指値を変更した状況だと思い血の気が引いた。
動揺を隠そうと冷え切ったコーヒーを一口飲み、もう逆指値は変えちゃダメだと自分に言い聞かせた。
そして話題を変えたくて、こんなことを聞いてみた。
「俺達サラリーマンがさ、株とかで資産を1億とか持つのって夢物語なんかね?」
言いながら少し切ない気持ちになってきた。
同じサラリーマンとして、この切なさとか無力感を共有したかった。
だが、順子の反応は予想とは違った。
「ちゃんと計画的にやれば無理ではないと思ってるよ。
例えば1億円から逆算すれば……ちょっと待ってて。」
順子はカバンから可愛らしい小さめのノートパソコンを取り出し、キーを叩き始めた。
「んーーー、年利5%だと厳しいか。
10%だと……、うーん。
15%なら、うん、これなら!」
順子を数分
「俺たちでも1億稼げるって順子は思うのか?」
改めて問うと順子は言った。
「可能だね。
100万円を年利15%で回せば、34年間で1億に届くよ。
400万円あれば年利10%でも届くよ。
これは1年延びて35年必要だけどね。」
「そんなの無理だろ。
年間10%を35年続けるのなんて。」
俺は正直がっかりして文句を言うような口調になった。
「じゃあ聞くけどさ、春雄の3月の200万円は年利にして何%だったの?
私の予想だけど10%は優に超えてるよね。
仮に一か月で資産を10%伸ばしていたとしたら年利120%だよ。
春雄が無理って言ったのは、理論なしに勘でトレードやってるからだと思うよ。」
段々と順子の口調が厳しくなってきた。
確かに順子の言うことの方に理がありそうだ。
「そうだな。
もう少し勉強することにするよ。」
俺がそう言うと、順子は表情を緩めて最後にこう言った。
「今日は嬉しかったよ。
春雄が昔みたいに誘ってくれてさ。
困ったらまた相談してよ。
お金は貸せないけどね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます