第20話 2020年5月2日 コールオプション・プットオプション②

順子の知識に感心した俺は純粋に興味本位で先物のことをもう少し聞いてみたくなった。


「そういえば先物って、コールとかプットとかあるじゃん。

 あれってどういうこと?」


すると順子は存在しない顎髭あごひげでるように右手で下顎したあごを触ってからしゃべり始めた。

「あれはねー、宝くじみたいなもんかな?

 あるいは肩たたき券?」


「宝くじ?

 肩たたき券?」

ちょっと言っていることがわからなくなりオウム返しに聞いた。


「ああ、ごめん。

 もう少しわかりやすく言うね。

 まず、宝くじって話だけれど滅多めったに当たらないけれど当たると利益が大きいって意味。

 例えば6月の第二週に日経平均株価ってどうなってると思う?」

順子が質問してきた。


「そうだなー。

 わからないけれど18,500円くらい?」

本当はもっと低い値段、自分の願望を言いたかったのだが今の株価とはだいぶ離れていたこともあり遠慮がちに言った。


「まあありうる金額ではあるね。

 で、例えばプットオプションの19,000円を1枚買うとするじゃん、今の時点で。

 で6月の第二週に本当に18,500円になると何が起きるでしょー?」


「えーと、いくらかわからんけどもうかるってことだよね?」

雰囲気的にはそうなんだろうと思い答える。


「ピンポーン!

 19,000円で日経平均先物を売り付ける権利を行使できるので実際の価格との差額だけ儲かりまーす。

 差額の500円掛ける、なんと1,000倍でーす。

 50万円を手にすることができまーす。」


なるほどと思い言う。

「じゃあ、高い値段のプットオプションを買いまくればお金持ちになれる?

 あとそのしゃべり方、二周りくらい周回遅れじゃない?」


そういうと順子はむすっとして普通に不機嫌に話し始めた。

「そんなに甘いわけないじゃん。

 オプションはタダでは買えないからね。

 タダみたいな値段で買えるオプションもあるけど、それはほとん紙屑かみくずになるの。

 有効になるようなオプションは高いよ。

 50万くらいはするんじゃないかな。」


「甘い話はないってことか。

 で、コールオプションは?」

俺は少しがっかりしつつも確認する。


「コールオプションはプットの逆で買う権利だね。

 19,000円のコールオプションを買って、実際の株価が18,500円になると権利行使するのが損になるので紙屑になるんだけど、例えば20,000円になると差額の1,000円かける1,000倍の100万円が手に入るの。

 だけど、滅多に権利行使できることはないから宝くじってこと。」

順子は我ながら上手いことを言ったみたいな顔、いわゆるどや顔をしている。


「なるほど。

 あと、最初に言っていた肩たたき券ってのは何の話なの?」

この例えはさっぱり見当がつかないなと思い聞いてみた。


「これはねー、オプションってのは買うだけじゃなくて売ることもできるの。

 春雄が売ることだってできるんだよ。

 話は少しれるけど、春雄は子供の頃に肩たたき券を作ってプレゼントしたことってない?」

順子はどや顔継続中のまま質問を投げてきた。


「そりゃ、小学生の頃は何回かあるかな。

 父の日とか母の日に。」


順子はそれを聞いてニヤッとする。

「オプションを売るってことは、その肩たたき券を売るのと同じことなの。

 例えば肩たたき券が1枚10,000円で買い取ってもらえるのなら、春雄なら売る?」


「そりゃ売るでしょ。」


「だよね。

 しかも、実際に肩たたき券なんて使われるかどうかなんてわからないから、そうなったら丸儲けだね。

 この丸儲け状態が、オプションが紙屑になった時。

 実際に肩をたたいたらオプションを権利行使されたってことになるの。」


なるほど、わかりやすい。

順子がどや顔になるのも仕方なしといったところか。

そして俺はあることを思いつき聞いてみる。

「そしたらさ、肩たたき券、つまりオプションを自分で発行して売ればお金を簡単に集められるってこと?

 株と違って元手となる資金はいらないんだよね?」


「それについてはYesであり、Noでもあるわね。

 オプションを売れば確かに何もないところからお金を集めることはできるね。

 でも、一応保証金はいるの。

 もちろん戻ってくるお金ではあるけどね。」


「じゃあ俺も……」

言いかけたところで順子の言葉にさえぎられた。


「絶対ダメ!!

 オプションの裸売はだかうり、つまり単独で売ることなんだけど、これはとっても危険なの。

 理論上損失は無限大だし、過去に何度もこれは行使されることはないって金額で行使されたことがあるの。

 オプションだけを売っていてリスクヘッジが無ければ、一発で破産しちゃうよ。

 一生、他人の肩をたたき続ける人生なんて嫌でしょ?」

先程までのどや顔から一転、急にシリアスな顔と口調で順子は言った。

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