第18話 2020年4月30日 追証③

俺はコンビニで先ず自分の口座に入金をし、それを即インターネットバンキングでCFD口座に送金した。

これで追証が間に合わず強制ロスカットという事態は避けられるはずだ。

一安心といったていで自宅に戻った。


今度は茂名義のキャッシュカードを美奈に気付かれないように戻しておかねばならない。

だが、美奈はダイニングルームに戻っておりうつろな眼でテレビを見ていた。

カードを戻すべきキャビネットは美奈のすぐ隣にある。

俺は今すぐにカードを戻すことはあきらめ、ただいまと小声でつぶやきそのまま二階へと上がった。


自分の部屋に戻るなり、俺は早速スマホをポケットから取り出し株価を見た。

予想以上の急上昇だ。

20,300円に到達してしまう。

これでは逆指値の20,300円で決済させるために入金したようなものだ。


どうするべきか。


俺が取れる道は二つ。

一つ目は、このまま運を天に任せて今の逆指値、20,300円を変えない道。

仮に日経平均株価が20,300円に到達する前に反転すれば一安心だが、失敗すれば俺の個人で運用している金融資産+息子の茂の将来の学費を失ってしまう。


二つ目は、逆指値を一時的に変更し、今日のこの急騰きゅうとうをやり過ごすというものだ。

21,500円まで上げておけば決済されることはないだろう。

だが、今日は大丈夫でも来月到達したら?

いや、そんなことはあるはずがない。

日本は不況になるのだ。

経済学者達はみなそう言っていたではないか。

大体、今の株価でも21,500円よりは19,000円の方が近いではないか。

俺はそんな風に自分で自分を説得し、逆指値の値段を20,300円から21,500円に変更した。


十数分後、日経平均株価は暴落後の最高値となる20,365円を記録した。

俺は逆指値を変更したことにより損失を確定せずに済んだことを安堵あんどした。

だが、含み損は大きくふくらみ800万円を超えるまでになった。

なんとかしなければ。


石橋 順子にもう一度相談してみよう。

俺は順子の顔を思い浮かべた。

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