第7話〜急襲〜
地底世界がどんな世界かについては、だいたい分かった。
続いてプレアデスは、今の地底世界の状況について、説明を始めた。
「実は今の地底世界は、僕らが生きていくための資源が無くなりつつあるんだ。植物がどんどん伐採されたり食糧になる生き物が乱獲されたりして、環境が破壊されてしまった……。だから、国同士で資源の奪い合いのための戦争が起きてる。ここ【ニャガルタ】も、とても繁栄した国だったんだけど、今は他の国と戦争してて、資源の奪い合いになってる。僕らはいつか、地底に暮らせなくなってしまうかもしれない……」
プレアデスは俯いて息をフウと吐く。
ボクは、窓の外に目をやった。桃色の空の下で、所々煙が上がっているのが見える。
「ニャるほどな。どうりでどこもかしこも重苦しい雰囲気なわけだ。あちこち煙が上がってたり壊れた建物があったりするのは、よその奴らがやりやがったって訳か」
「そういう事なんだ。だけどね、ここだけの話……」
「ん?」
プレアデスは、声をひそめた。
「地上のどこかに、“ネズミだけが住む伝説の理想郷”があるという噂があるんだ。そこには戦争や兵器などが一切無く、住民のネズミたちは誰しもが平和に幸せに暮らすという世界」
何かと思えば、シリウスの奴と同じような事を言い出しやがる。
しかし、ネズミだけが住む世界だと?
「ネズミだぁ? ネズミって、ボクらネコの食いもんじゃねえか」
「兄ちゃん、とりあえず話を最後まで聞いてみようよ」
ルナがそう言うので、しぶしぶプレアデスの話を聞いてやることにした。思わず溜め息が出る。
「実際に地上に行って、そのネズミの理想郷を見たという研究者がいて、それで噂になってるんだけど……。まだそれが本当かどうかはわからない。そこで、君たちに聞くんだけど……」
「お、おう」
ずいと、プレアデスはボクらの方に身を乗り出した。
「君たちは、そんなネズミだけが住む世界を見たことはないかい!? もしその世界があるというのが本当なら……! 僕たち“ニャンバリアン”は、そこに移住できないだろうか、と思ってね! そうすれば、“ニャンバリアン”は生き残れるんだ!」
目を輝かせるプレアデスに、ボクは色々とツッコミたかった。
まず、そのネズミの国とやらがあったとして、ボクらは本能でネズミを食っちまうだろ。それにそもそも、ネコとネズミはサイズが違う。ネズミサイズの世界が仮にあったとしても、ネコがそこで一緒に暮らすなんて、無理があるだろう。そのくらい、バカのボクでも分かるぜ。
何だよ、最後まで話を聞いてやろうと思ったのに。ふざけた冗談言いやがって。
「……おい、いい加減にしろよ。そんな嘘くせえ話あるわけねえよ。それよりボクらを早く地上に帰せ」
「兄ちゃん、早く帰りたい」
ったく、真剣に聞いてて損したぜ。
それよりも……さっきから外で時々、工事のような音と地響きが聞こえてくるのが気になる。何かが爆発みてえな音もする。そのたびに、カタカタと部屋の食器が音を立てる。
よその国の奴らが、攻めてきてるんじゃねえのか……?
プレアデスも、それに気づいていた。
「……また戦いが起きてるみたいだ。この街も危ないかも知れない。いざという時は、僕について来て。絶対、はぐれないでね」
「チッ……。一体
「怖いよ、兄ちゃん……」
ルナはもうすっかり、震えあがっちまってる。
「ああ、今からその話をする。君たちを地上に帰す代わりに……」
プレアデスが、何かを言いかけたその時だった。
全員のニャイフォンから、ビー! ビー! とけたたましい音が鳴り響く。
『空爆特別警報です! 速やかに避難を!』
プレアデスは、いきなりボクらの頭を押さえつけた。
「いけない! 伏せて!!」
「
突然の爆発音が、耳をブチ抜いた。地震のように、地面がユサユサと揺れる。
「うわあ!! 兄ちゃん!!」
「クソッ! 大丈夫か!? ルナ!」
「まずいな……、【ニャルザル】の軍隊がこの街にも来たみたいだ! 早く部屋を出よう! 地下室に行くんだ!」
待て待て、何が起きてるんだ!
ボクらは訳が分からねえまま、プレアデスに手を引っ張られ、部屋を飛び出した。
部屋の外は、既に火の海だった。焼け落ちる柱が行く手を塞いでくる。
ボクらは襲ってくる炎をよけながら足早に、地下へと続く階段を降りて行った。
「
「うわーん! 兄ちゃーん!!」
素早く1階へと下りるプレアデスは、振り向かずに大声で言った。
「建物に爆弾が直撃したみたいだ!」
「爆弾だと!?」
アパートの入り口から一瞬、外の景色が見えた。
辺りは炎と黒煙に包まれている。ネコたちが、ニャーニャーと声を上げて逃げ惑っていた。
♢
ボクらは何とか、地下室に逃げ込む事が出来た。
電球の灯りが1つあるだけの、薄暗くジメジメした石造りの部屋だ。
しばらくすると、天井の方でゴゴゴゴという音がすると同時に部屋全体が揺れた。
天井のタイルがひび割れ、小さな石や砂が落ちてくる。
「うわああ、兄ちゃん!!」
「クソ……何だってんだよ!」
恐らく、さっきまでボクらがいたボロアパートが、崩れ落ちたんだろう。
地下室に逃げてなかったら、ボクらは間違いなく死んでた。
広いだけ、まだマシな地下室だ。だが何かが腐ったような変な匂いもするし、ジメジメしてて居心地が悪りい。
ボクらは外に出る事も出来ず、当分はこの薄気味悪りい地下室で過ごす事になっちまったんだ。
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