第6話〜ガイア空洞説〜

 

「おーい。おはよう。おーい!」


 誰かに体を揺すられ、ボクは目を覚ました。知らぬ間に、ぐっすりと眠っちまったらしい。

 体を揺すっていたのは——プレアデスだった。


「あ、おうお前か、プレアデス……もう朝か?」

「おはよう、ゴマくん。魚の缶詰買ってきたよ。みんなで食べよう」

「おっ、また美味そうなものを。おい、ルナ起きろー!」

「んんー……ふぁーあ……、あ、おいしそうなにおい!」


 プレアデスは、部屋のカーテンをササッと開けていく。

 地上と同じような分厚い雲がいくつも浮かぶ空は相変わらず綺麗なピンク色だが、お日様——セントラル・サンだっけ?——の光は雲に遮られていて、外は若干薄暗い。


 席についたプレアデスが魚の缶詰をプシュッと開けると、美味そうな匂いの爆弾がボクの嗅覚を直撃した。

 ボクの意思とは関係なくヨダレが口の中に溢れ出る。眠気が吹き飛んだボクは、たまらず缶詰に飛びついた。


「ちょっとー、どんな食べ方だよ。これ使ってよ」

「あん? 何だその棒は」

「お箸だよ。食べる時は行儀良く、ね」


 箸だと……? まさかニンゲンと同じように、箸で食えというのか。

 だがボクとルナは当然ながら箸なんか上手く扱える筈もなく、その辺を魚汁だらけにしながら、ひたすらにむさぼり食うだけだった。



 プレアデスは溜め息をつきながらボクらが撒き散らした魚汁を拭き取りながら、改めて質問をぶつけてきた。


「もう一度聞くけど、ゴマくん、ルナくん……、君たちはほんとに地上世界から来たのかい?」

「ああ、何度も言ってるだろ。逆にボクらにとっちゃ、地の底にこんな世界がある方が驚きだよ。なあルナ」

「うん……」

「……そっか、わかった。じゃあ、君たちにこの世界のことを簡単に説明するね。あ、お皿は洗っとくから置いといて」


 プレアデスは、持っているカバンからデッカい紙を取り出し、バサっと机の上に広げた。

 その紙に、青のマーカーペンのような物で、円を描き始める。


「これが僕たちの住む星、【ガイア】さ」


 プレアデスはペンの先で、描いた円を指し示した。


「ガイア? なんだそりゃ」

「僕たちが住む星の事さ。ちょっと描き足すから、よく見てて」


 ガイアとは要するに、ボクらの住むチキューの事らしい。

 ボクらがチキューという星に住んでるって事は、少し前にムーンさんから教えてもらった事がある。


「一体お前は何を描いてるんだ」

「ふう、描けた。これは、ガイアの断面図だよ」


 円の内側にくっついて立つように、3匹のヘッタクソなネコの絵が描かれている。

 プレアデスは解説を続けた。


「このように、ガイアの重力の中心は、地殻ちかくにあるんだ。つまり僕たちは今、地上の裏側に重力でくっついてるってこと」

「……どういう事だ?」


 プレアデスは頷きながら、今度は青の円の中心に、黄色のマーカーで小さく円を描いた。


「この黄色い丸が、地底世界を照らす“セントラル・サン”。ガイアの中は空洞になっていて、その中心に、“セントラル・サン”が浮かんでいるんだ。つまり、この地底世界では空の上がガイアの中心で、この地面が、ガイアの表皮の裏側で……」

「おい、待て待て。訳が分からねえよ」


 頭が追いつかない。チキューの中に、もう1つのお日様があるって事か?


「要するに、ここの世界の地面を真っ直ぐ掘って行くと、地上に出るってこと。わかる?」

「わからねえ。あはは。ルナ、コイツ頭おかしいぜ」


 ところがルナは、涼しい顔して言う。


「……つまりここは地球の内側の端っこで、地球の内側のど真ん中に、2つ目のお日様が浮かんでるんでしょ?」

「その通りだよ、ルナくん!」


 ルナは得意げにヒゲを動かしながら、プレアデスの顔を見上げた。


「つまり僕らは今、地上世界の真裏にいるんだよ。だからこの世界ではお空の上が、地球の真ん中。そこに2つ目のお日様があるって事じゃない?」

「そうそう、そういう事!」


 プレアデスはうんうんと頷いて、声のトーンを上げる。


「……ルナお前、頭いいな」


 ルナの説明で、ボクはようやく飲み込む事が出来た。

 ボクらが住むチキューの中は、実は空洞になってたんだ。そして地面の真裏に、ネコだけが住む世界が広がっていた——という訳だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る