第113話〜世界を滅ぼすニャークリアー・ウェポン〜

 

「そういや、とか言ってたな。その回数を超えたら、あとは自力でやれだとか……。でも最近、守護神はガッツリ助けてくれてるじゃねえか?」



 山道を歩きながら、ボクはソールさんに尋ねた。



「我々は今はもう、成すべき時は、自力で道を切りひらく事が出来る。守護神たちは、我々を信じて下さったんだ。何もせず頼りっきりにならなければ、いつだって守護神は我々を助けてくれる」



 ボクだって初めは、不幸を誰かのせいにしたり、面倒な事を他の奴に押し付けたりしてたが——。

 ここに来てみんなと出会ってから、他の奴を助けたり、自分も助けられたりしているうちに、色々と大切な事に気付く事が出来たんだ。そう、ボクもみんなも、成長してるんだ。


 そんな事を考えながら、見覚えのある獣道をひたすら歩く。

 最後の急坂を越えたら、不気味な植物の茂みに隠れるように建っている、プルートの研究所が見えた。

 プレアデスがニャイフォンに向かい話しかける。



「プルート、いるかい?」



 しばらく待っていると、入口の扉がゆっくり開き——以前よりもさらに背中が曲がったプルートのジジイが、出てきやがった。



「わ、我が研究成果の科学技術もぉぉぉぉ! こんなことのためにぃ? 使うべきでは、なかったんですぅぅーー⁉︎ うぎゃーーーっ‼︎」



 出てくるなり、大声で叫ぶジジイ。完全に狂ってやがる。一体何があったんだ。



「プルート、落ち着いて! とりあえずみんな、中に入ろう!」



 ……ドン引きする星光団のメンバー。ボクは、プルートは元々イカれた奴だという事をみんなに説明し、何とか研究所の中へとついてきてもらった。



 ♢



「ニャークリアー分裂うううう! 我が研究成果ああぁぁぁッ‼︎」



 部屋に着くなり、プルートのジジイはさっきから白目を剥いて暴れながら、訳の分からない事を言い続けている。



「ニャークリアー分裂のぉぉぉ! 中性子をウランに当ててぇー! バリウムが発生しぃー! 私の研究成果ははあああ、発電などに使える事を公表したのですう! しかーし! その力で奴らはあああああああああっ‼︎ ニャークリアー・ウェポンを作ってしまったのですぅぅう」


「ダメだ分かんねえ。プレアデス、通訳してくれ」



 唖然とするソールさんたちに少しでも理解してもらおうと、プレアデスは必死にジジイの言葉を聞き取り、答える。



「えっとね、難しい事はおいといて……。要するにプルートは、ニャークリアー分裂という化学反応を発見したんだ。それを利用すれば、環境を汚さずに電気エネルギーなどを生み出せる。だけどね……」



 発狂するジジイはプレアデスの後ろで、のたうち回りながら暴れている。声がデカイ。ボクもみんなも、必死にプレアデスの声を聞き取っていた。



「ニャークリアー分裂による放射線が、とても危険な物だと分かったんだ。もし事故などで放射性物質が漏れ出したりすると、生態系に大きく影響するばかりか、何百年もそれが残留する。ボクらの住む星ガイアは、大きなダメージを受けてしまうんだ」



 何だ、このイかれたジジイ、そんなとんでもねえ物を生み出しやがったのか……。



「しかも最悪な事に、ニャルザル軍がこの研究データを強奪してしまった。このニャークリアー分裂を利用した、とても危険な兵器を製造しているらしいんだ。……ニャークリアー・ウェポン」



 ニャークリアー・ウェポン——。

 思い出したぞ。ニャルザル軍の基地でオレオの奴が話してやがった。

 そういやあの時、奴らはプルートの事も話してやがったな。



 ⭐︎



「我々ネコ族はもはや、神と同等の力を持ったのだ。」


「ニャガルタの首都ニャンバラの科学者……プルートの研究成果ですね」


「科学技術の粋、ニャークリアー分裂の研究による兵器も完成した。どのような兵器の威力をも凌駕する、ニャークリアー・ボム」



 ⭐︎



 プレアデスが話している事は、マジだった。

 まさか、そのニャークリアー・ウェポンが、こんなに恐ろしい物だったとは——。

 もしまた戦争が起きて、そいつを使われてしまったら、取り返しのつかねえ事になっちまうんじゃねえか。



「他にも、気象操作などの技術データも、ニャルザル軍に持っていかれてしまった。ニャルザルは、今起きてる災害も、無理やり科学技術を利用して抑え込もうとしている。……プルートは、こんな事のために科学技術を研究してきたんじゃないんだと、嘆いてるんだ」



 黙って聞いていたソールさんたちが、口々に言う。



「そんな事をし続けていたら、この地球の波動が……!」


「地球そのものが、もう生命の住めなくなる星になってしまうかもしれないですね……」


「何としても、ニャルザルの奴らを止めなければな!」


「……何よマーキュリー、何か言いたい事あるなら早く言いなさいよ」



 ヴィーナスさんにそう言われてハッとするマーキュリーさん。ずっと何か言いたげだったが、ようやく口を開いた。



「み、みんな、早く〝菊花の剣〟を見つけなきゃ……」



 そうだった——!

 ニャークリアー・ウェポンの話に夢中で、ガイアドラゴンとの戦いの事がすっかりぶっ飛んじまっていた。急がなきゃ。



「プレアデス! プルートに早くその剣のありかを聞いてくれ!」


「うん! 待ってて!」


「はよせなあのドラゴン、痺れ切らしてまたごっつい地震起こしよるかも知らへんで!」



 プレアデスは、床に倒れ震えているプルートのジジイに、剣のありかを尋ねているようだ。ジジイ、ちゃんと教えてくれてるんだろうか。



「……ついてきて!」



 あまり信用ならねえが、ボクらはプレアデスについていく。

 研究所の地下室への暗く真っ直ぐな階段を降りて行くと、長く開けられていないであろう、錆びついた扉の部屋に着いた。


 扉を開けると、カビ臭さが鼻をつく。

 薄暗い部屋の広い空間に、ゴチャゴチャと訳の分からない大小のガラクタが散乱していて、一体どこに〝菊花の剣〟とやらがあるのか全く見当がつかねえ。そもそもそれが〝菊花の剣〟なのか自体も、不確かだというのに。



「とにかく探そう! それらしい物が見つかったら、報告してくれ!」


「おう!」



 焦りだけがつのる。本当にあるのかよ。

 ボクらは数々のガラクタを押し退け、埃に塗れながら、ひたすら探した。


 30分ほど経った頃だろうか——。

 ブリキか何かで出来た箱の中に、ボクは錆びついた剣を見つけた。



「……おい、これじゃねえの?」



 その剣はカビだかサビだかで青白く変色してしまっていて、とても使い物になるとは思えなかった。

 多分、ハズレだろう。



「どれ、見せてくれ」



 ところが!


 ソールさんがその剣を手に取ると、剣の根元にある16方向に伸びるように象られた花びらが、光り輝き始めた——!

 瞬時にしてその剣のサビは消え、7色に輝き、薄暗い部屋を真昼のような光で照らした。



「間違いない! これが……、〝菊花の剣〟!」



 その剣を手に取ったソールさんの姿を見た時——、ボクはピーンと来たんだ。



 ⭐︎



「この世界には、……〝〟が生きていると言われていて、彼は太陽の神様の言葉を聞き、生きとし生けるものに伝えるという……。この書を見て。このような、ネコのような姿じゃ。不思議な力を使いこなすという」


「何だこれ、ヘッタクソな絵だな」



 ⭐︎



 スピカと一緒にネズミのじいちゃんの話を聞いていたあの時。

 じいちゃんが見せてきた巻物に描かれていた、太陽の子孫のネコの絵と、〝菊花の剣〟を手にしたソールさんの姿が、重なったんだ。

 つまり——!



「……見ろよスピカ。やっぱソールさんが、ネズミのじいちゃんが言ってた、〝太陽の子孫〟だったって事なんだ」


「そういう事やったんか……」



 今は時間がない。この事をソールさんたちに知らせるのは、後だ。



 ♢



「プレアデスよ、ジジイはほっといていいのか?」


「そのうち大人しくなるから大丈夫さ。さあ、また山道を下りるよ」



 無事〝菊花の剣〟を手にしたボクらは、再び不気味な山道に入って行った。


 ……とその時——‼︎

 地響きと共に、突き上げるような揺れが、ボクらを襲った。



「な、地震⁉︎」


「おい、崖崩れが起きるかもしれない! すぐに姿勢を低くしろ!」



 ボクは必死で地面にしがみついた。

 バカな! ガイアドラゴンめ、地震を起こさず待ってるって約束したじゃねえか!



「斜面に近づくな! 崩れるぞ!」



 揺れがおさまってくる。何とか、みんなはぐれずに済んだようだ。

 振り返ると、轟音と共にプルートの研究所が崩壊し、土煙に埋もれていくのが、目に入った。



「あ、あのバカドラゴンめ! 約束が違うじゃねえか!」


「手遅れだって事か……⁉︎ とりあえず揺れがおさまっているうちに山を下りよう! 早くガイアドラゴンのところへ戻るぞ!」

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