第112話〜菊花の剣〜

 

 ガイアドラゴンを倒すために、ボクらは〝菊花きっかの剣〟を探しに行く事になった。

 しかしそんな剣、一体どこにあるというのか。



「あまりモタモタしてる時間もない。とりあえず、行くしかない! 手がかりを探そう!」



 出発する前にボクは、ガイアドラゴンに釘を刺した。



「テメエ……絶対何もせず待ってろよ!」


「アア、約束シヨウ……! 我ガ理性ノ保テル限リ……」



 ♢



 イーリスのウイングのお陰でスター・マジンガ・改に飛行能力がついたので、そのまま離陸して火口を離れ、一度仮設基地へと向かう事になった。


 ニャンバラの街が、真っ赤に燃えている。

 火山の溶岩が流れ込んだのか、それとも地震によるものなのか。大洪水の次は大火災だ。このままだと、ニャンバラの街が全て焼き尽くされてしまう!



「これはまずいな……手がかりを探す前に、先に街の消火活動にあたろう」


「あそこにまだ住民たちがいます! 近くの空き地に着陸しましょう!」



 マジンガは、燃え盛るニャンバラの街の広い空き地に着陸した。

 すでに四方は炎に囲まれてしまい、住民のネコ10匹ほどが逃げられずに途方に暮れている。

 そこにはライムさんと、プレアデスがいた。



「プレアデス! ライムさん!」


「……来てくれたか。この通り、住民の誘導中に周りを火に囲まれてしまった。助けてはくれまいか」



 建物を焼き尽くす炎を見ながら、住民のネコは泣き叫ぶ。



「もうダメかも……!」


「怖いよー! うわぁぁーん!」


「お、俺の大事な家が……財産が……‼︎」



 マーキュリーさんが住民の方へ駆け寄った。



「も……もう大丈夫よ! 私に任せて! ……水遁の術‼︎」



 滝のような水が空から降り注ぎ、燃え盛る炎をかき消していく。



「……どうかうまくいってくれ。今、ネガティブ思考になられたら、手も足も出ねえよ」


「なあ! あれ見てみ! やばいで‼︎」



 スピカが指差した先を見ると、炎が竜巻のように空高く巻き上げながら、こっちに迫っていた。

 周りを見回すと、炎の竜巻はいくつも生まれ、街の建物を巻き込み焼き尽くしていく。



「あれは火災旋風だ。近づくと危険だぞ!」


「住民を、マジンガに乗せて下さい! 安全が第一です!」



 ソールさんとムーンさんはすぐに、住民のネコたちを誘導し始めた。



「プレアデス、お前もマジンガに乗っとけ! 勝手に操縦したりすんなよ!」


「……うん! ありがとう!」



 住民たちはソールさんたちに誘導され、スター・マジンガ・改の中へと避難する。

 マーキュリーさんは全力で水の忍術を使い続けるが——炎の竜巻は全く消える気配が無い。

 そればかりか折角火を消したのに、炎の竜巻のせいでまた周りが火に囲まれてしまった。……まずいぞ。このままじゃまた、マーキュリーさんの心が折れちまう。

 ……だが。



「……ダメなんかじゃない! 私たちには仲間がいるの! 諦めないから‼︎」



 歯を食いしばりながらそう言って、水の忍術を発動し続けるマーキュリーさん。

 そうだ——ボクらは今まで力を合わせ、どんな困難だって乗り越えて来たんだ!



「成長したわね、マーキュリー。さあ、マーズ。何とかしなさい」


「おい俺かよ! またヴィーナスの無茶振りかよ!」



 変だ。どんなにマーキュリーさんが水を浴びせても、全く消える気配が無い。このままじゃ、街の建物が全て灰になってしまう。

 もしかしたらこの炎の竜巻——ただの火じゃねえかもしれねえ。ボクは試しに、ステータス分析をしてみた。



 フレア・トルネード

 魔造兵

 Lv.50


 属性……火


 体力 260

 魔力 177

 攻撃力 58

 防御力 76

 敏捷性 133

 魔法力 509


 耐性……水

 弱点……火


 必殺……

 無し



 やっぱり、この炎の竜巻、あのクレイ・ゴーレムソルジャーやエビルトレントと同じで、意思と魔力を持ってやがった。

 水が効かず、火に弱いようだ。



「マーズさん! 炎の竜巻、弱点が火だぜ!」


「なら任せろ! フレイムスラッシュ‼︎」



 眼前に迫るフレア・トルネードを、マーズさんは炎の剣技で切り飛ばそうとした。

 ……が、ヤツは余計にデカくなり、火の勢いが増しただけだった。



「やっぱり! 火が火で消せるわけねえ! ゴマ、お前ステータス見間違えたんじゃねえのか⁉︎」


「いや、弱点は確かに火だったんだ! 信じてくれマーズさん!」



 マーズさんはその後、じっとフレア・トルネードを睨んでいたが、何かを閃いたのか、ポンと手を打った。



「そうか! ! ……やるぞ、ライム!」


「な、何をすれば良いのだ……?」


「とにかく炎を出せ! 目いっぱいデカイ炎をだ!」



 ライムさんはマーズさんに言われるがまま、魔法で巨大な炎を呼び起こした。

 マーズさんがその炎に斬りかかり、風を起こす。すると炎は大蛇のようにうねり、回転し、巨大な炎の竜巻と化した。



「喰らいやがれ!  えん りゅう‼︎」



 フレア・トルネードと、もう一つの巨大な炎の竜巻、〝火燕流〟が衝突する——!


 フレア・トルネードは一瞬にして、爆発四散した。〝火燕流〟はさらに勢いを増し、他の小さなフレアトルネードたちを次々にかき消していく。



「す、すげえ‼︎」



 火燕流

 火属性 威力……280 消費魔力……30

 特殊効果……無し

 瞬間的に大気を燃焼させ、敵を焼き尽くす。



 フレア・トルネードの最後の1体をかき消すと、火燕流は天に昇り、消えていった。



「よし、おおかた炎の竜巻は片付いた! あとは任せた、マーキュリー!」


「……うん! 頑張る!」



 安全を確認した住民たちはスターマジンガ・改から出てきて、歓喜の声を上げた。



「我が街を守ってくれてありがとう、星光団!」


「助かった! 助かったのね、私たち!」



 マーキュリーさんの活躍で、街の火はほとんど消し止められた。住民たちはマジンガに乗せて、仮設基地横の避難所へ連れて行く事になった。まずは、ひと安心だ。


 その道中、マーズさんの独り言がボクの耳に入った。



「あの技を俺1匹だけで使えるようになれば、奴も……レアも倒せる! 必ず探し出して、倒してやる……!」



 まだあの変な剣士レアに負けた事を根に持ってたのか、マーズさん。

 

 でも今は、厄災竜カラミティドラゴンの暴走を止め、ミラをブッ倒すのが先だ。——そう、世界を守るという使命を果たすために!



 ♢



 無事、住民を避難所へ送り届け、ボクらはまた仮設基地の作戦会議室に戻った。

 地震は、全く起きなくなっている。約束通り、ガイアドラゴンは何もせず待っててくれてるんだ。



「プレアデスくんは、菊花の剣はどこにあるか知らないかい?」



 ソールさんに尋ねられ、プレアデスは少し間を置いて、答える。



「プルートの研究所に一つ、菊の花のような模様が描かれた剣が管理されていた気がする。その剣かどうかは分からないけど」


「よし、すぐ行こう! 時間が無いんだ!」


「でもプルートの研究所へは、飛行機や戦闘機じゃ行けないんだ。もちろん、あの巨大ロボットもダメ。近くに地上へ繋がる穴があって、その場所は機密事項なんだ。今も内密にしてなきゃいけない。だから、途中から山道を歩く事になるよ」



 プルートの研究所——。

 最初にニャンバラに迷い込んだ時、プレアデスとあの暗い獣道を小一時間歩いたんだった。

 またあの気味悪いジジイと会うのか……。


 そうだ、ミランダに頼めばあの面倒な獣道を通らずに済むんじゃねえか?



「おいミランダ、プルートのジジイの基地までワープゲートを出してくれ!」


『……ダメ。不思議な魔力が働いていて、繋がらないわ。山道の入り口までならいいわよ』


「……チッ、めんどくせえ」



 やはり、あの不気味な山道を行くしかねえみてえだ。



 ♢



 メシも済ませて、出発準備が整った。

 その前に誰かが1匹でも、避難所に残らなきゃいけねえのだが……。ライムさんが手を挙げた。



「避難所での仕事は私に任せてくれ。星光団全員で、その剣を探しに行け!」


「ありがとう、ライムさん。では、出発だ!」



 ライムさんと、引き続きフォボスさんが避難所に残る事になり、ボクらはミランダのワープゲートで、研究所へと続く山道への入り口へとワープした。



『……やっぱり、山の入り口に不思議な魔力が働いてる。ごめんね。気をつけて行ってきて!』


「ああ。また地上に異変があったらすぐ教えてくれ、ミランダ!」



 ここからはプレアデスを先頭に、ボクらはプルートの研究所へと続く、暗く不気味な山道を歩いて行く。

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