第109話〜暗闇の嵐竜〜

 

「ぐわああああああーーーーッ‼︎ 飛ばされる‼︎」



 ニャンバラに戻ってきた途端、ボクは吹き荒ぶ突風に煽られた。横殴りの雨が頬をぶっ叩く。



『ゴマくん、大丈夫⁉︎ すぐ建物の中に入って! 今ニャンバラはますます嵐が激しくなってるの!』


「ミランダ! そういうのはワープゲートに入る前に言ってくれ!」



 ソールさんが言っていた通り、ニャンバラは、再び凄まじい暴風雨に見舞われていた。


 仮設基地の作戦会議室に戻ったが、ソールさん、ムーンさん、マーズさん、マーキュリーさん、ヴィーナスさん、スピカもプレアデスもライムさんも、みんないない。どこ行っちまったんだ。

 ボクはニャイフォン2で連絡してみた。すぐにソールさんが出る。



『すまない。我々は今、ニャルザルに居るのだ。アストライオスに乗って、ゴマくんも、こっちに来てくれるか?』


「分かった……! いや、ニャルザルには一度行った事があるから、ミランダに頼みゃあ、一瞬で行けらあ!」



 プレアデスとライムさん、フォボスさんは、ニャンバラの住民の避難誘導に行っているらしい。

 ボクは再びミランダを呼び、ニャルザルのソールさんたちの居る場所へワープゲートを繋げるように頼んだ。



『今度は前もってちゃんと言うわね! 気をつけて! あの猛烈な台風は、ニャルザルに上陸したの。今の中心気圧は895hpa。建物の中にいなきゃダメよ! って事で、いま星光団がいるのは、ニャルザル軍の基地の建物だわ! 建物の中に、ゲートを繋げるわね!』


「ああ! 頼んだ!」



 ♢



 出た場所は、暗くジメジメした部屋だった。

 ソールさんたちは一体何処だ……?

 ボクは部屋を飛び出し、ニャルザル軍の基地の出入り口の扉を探す。

 せっかくミランダが教えてくれたのに、ボクは焦る気持ちのあまり、外が大暴風雨だって事を忘れてたんだ。出入り口を見つけたボクは、体当たりでドアをこじ開けた。



「うぎゃああああ‼︎」



 風に煽られ、吹き飛ばされ、ボクは基地の外壁に激しく叩きつけられた。



「馬鹿な‼︎ 我らが科学技術の粋が……!」



 この声は。聞き覚えがある。

 ニャルザル軍最高司令官——オレオだ。



「そんなはずは! 自然は科学の力で制圧出来るはずだ……!」



 目の前には、風でバキバキにぶち壊された皿のような形をしたアンテナが散乱している。

 そんな中、何匹かのネコがニャルザル軍の奴らを避難させようと説得しているのが見える。……風がうるさくて声が聞こえやしねえ。

 説得していたのは——転身したソールさん、ムーンさん、マーズさん、マーキュリーさん、ヴィーナスさん、そしてスピカだった。



「クソ、先に転身しとくんだったぜ……風が強すぎて動けねえ……」



 と、その時、オレオの奴がボクの方に吹き飛ばされてきた!



「う、うわあああああ‼︎」



 オレオがボクにぶつかり、はずみでボクもオレオも、基地の出入り口の扉の方へ吹っ飛ばされる。そのままボクらは基地の中へと転がり込み、直後バタンと扉が閉まった。

 しばらくうずくまっていると、先にオレオは立ち上がり、再び基地の外へ行こうとする。



「テメエ、危ねえぞ……!」


「納得出来ぬ。科学に不可能は無い……。気象操作は成功したはずだ……」



 オレオは無惨に散らばったアンテナを見ながらこぼした。多分あのアンテナの電波で、無理やり嵐を止めようとしてやがったんだ。

 ボクは言ってやった。



「無闇に自然を操作しちゃいけねえんだ! ネズミのじいちゃん言ってたぞ!」



 オレオは無視して、再び外に出て行っちまった。

 仕方ねえ——!



「聖なる星の光よ、我に愛の力を! ……暁闇の勇者、ゴマ!」



 ボクは転身し、基地の外に出た。

 体に力が漲り、暴風雨をもものともしない。


 ソールさんたちは相変わらずニャルザル軍の奴らを説得している。オレオは風に耐えながら、ソールさんの方へ向かって行く。


 その時——風が唸り、今までにないほどの威力で、大嵐が吹きつけた!

 竜巻がいくつも生まれ、周りの木々や、アンテナを塵のように吹き飛ばして行く——‼︎



「うわあああああ‼︎」


「早く中へ‼︎」



 星光団のみんなは、何とかオレオはじめニャルザル軍の奴らを、基地の中へと避難させた。



「ゴマくん! 君も早く中へ! 危ないぞ!」


「ゴマー! 何してるんや! 来るん遅いで!」


「いや、ボクは平気だ!」



 ボクの破格の防御力は、どんな暴風もへっちゃらだ。



「……あ、あれは!」



 空の上を見ると——。


 黒く渦巻く嵐の中から——そいつは現れた。

 翼の生えた、黒色の鱗に覆われた巨大な生き物だ。



「何だよあれは! ソールさん、みんな!」



 ボクは急いでソールさんたちを呼んだ。



「どうした、ゴマくん!」



 ソールさんたちは、ヴィーナスさんが作り出したバリアで風を防ぎながら、出入り口からゆっくりと外に出て来た。

 その生き物の姿を見たソールさんたちは、驚きのあまりたじろぐ。



「こ、これが、厄災竜カラミティドラゴン……!」


「何て禍々しい姿なの……!」


「皆さん、気を付けてください!」



 黒い鱗に覆われ、やたらと腹が出てる体型の竜。30階建ての高層ビルと同じくらいのデカさだ。長い髭を2本たなびかせ、背中にはコウモリの羽のような形の翼をはためかせている。

 ボクはすぐに、ステータス分析を始めた。



 漆黒竜・ノア

 飛竜

 Lv.250


 属性……風


 体力 85200

 魔力 2256

 攻撃力 7104

 防御力 5411

 敏捷性 6832

 魔法力 4517


 耐性……水

 弱点……火


 超必殺……

 カオス・サイクロン



「……とにかくデケエ。ここは守護神マシン呼んだ方が良さそうだぜ!」


「ありがとうゴマくん。よし、……守護神アポロ‼︎」


「守護神アルテミス‼︎」


「守護神アレス!」


「守護神ヘルメス!」


「守護神アフロディーテ!」



 ボクもアストライオスを呼ぼうとした時、突然ミランダが話しかけてきた。



『ゴマくん! 地上世界が大変なの! ある地点では超大型のサイクロンが発生して、最大風速50メートルを、最大瞬間風速90メートルを記録したって! 北半球では大寒波が襲って、街中が凍りついている国もあるわ』


「うわ、急に何だ! そんな事言われても、難しいこたあ分かんねえっつの! それはどのくらいやべえんだ?」


『低気圧の大きさが日本列島をすっぽり覆うくらいで、常に竜巻の中にいるようなものよ。日本中、大嵐で大変な事になるわ』


「……とにかくあのドラゴンをとっちめねえとやべえって事か!」



 漆黒竜ノアは黒色のオーラを纏い、空からボクらの方に迫って来る。そして——。



「グキャオオオオオン……!」



 漆黒竜ノアが咆哮を上げると、周囲に幾つもの竜巻が巻き起こった。

 近くの小さな建物、乗り物、木々がまるで紙屑のように舞い上がり、彼方まで吹き飛ばされてしまった。


 そんな嵐の中守護神マシンが、暴風雨をものともせずに到着。ソールさんたちは駆け足で乗り込む。



「スピカ、ボクらも早く守護神呼ぶぞ!」


「そやな!」


「守護神アストライオス!」


「守護神イーリス!」



 オレンジ色のウイングを光らせながらアストライオスが到着し、すぐ後ろに白く輝くイーリスも到着した。

 ボクらも守護神マシンに乗り込み、漆黒竜ノアの方へと向かう。


 移動時は自動操縦だったが、戦闘時は、自分で操作しなきゃダメなようだ。

 ボクは操作板にあるスティックを動かしてみた——が、激しい風雨で、前が見えない……!



『みんな固まって、ドラゴンを攻撃するんだ!』



 ソールさんからの通信が入る。

 ……クソ! 思い通りに動いてくれねえ!

 とりあえず、マーズさんに漆黒竜ノアの弱点を伝えた。



「マーズさん、出番だぜ! ヤツは火に弱いんだ!」


『ん任せろっ!』



 少し、視界が晴れた。

 守護神アレスはバリアを纏いながら、少しずつ漆黒竜ノアに近づいていく。

 吹き荒ぶ風はその間にも木々を薙ぎ倒し、建物を吹き飛ばし、あらゆる物を破壊していく——。



『ニャンバラのカルカン川の堤防が決壊、氾濫しました。すぐに避難してください』



 ニャイフォンから警報が鳴り響く。

 ニャルザルもニャンバラも、漆黒竜ノアによる大暴風雨で大変みたいだ。ここまで凄まじいとは予想外だ。プレアデス、ライムさん、フォボスさん、避難誘導は大丈夫だろうか……!



『ムーン! マーキュリー! ニャンバラの住民の避難誘導に向かってくれ!』


『分かりました!』



 やっぱり、避難誘導にはが足りねえらしい。ムーンさんとマーキュリーさんが避難誘導に向かうため離脱。

 戦力が減り、ソールさん、マーズさん、ヴィーナスさん、ボク、スピカで漆黒竜ノアに立ち向かう事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る