第43話〜ゴマ、大暴走!〜


 ボクは一切戦わずに、その場に足を組んで戦闘の様子を眺めていた。

 スピカは剣を振りながら、顔を真っ赤にして文句を言ってきた。


 

「ゴマ! 何ボケーッとしてんねん! 早よ一緒に戦わんかい!」


「大丈夫だ大丈夫だ。スピカ、後で面白えもん見せてやるからよ」


「あーもう! 何やねんそれ! ただでさえ敵の数多いのに……!」



 気にも留めず、ボクはその場にアグラをかき、戦いの様子を観察した。敵にも強化魔法バフを使ったり、回復したりする奴がいるようだ。

 フフン、みんな手こずってやがるぜ……、いい感じにな。



「これでも喰らえ! 煉獄斬れんごくざん‼︎」


「グギェ‼︎ グブォアア!」



 灼焔しゃくえんの戦士マーズさんは、火の剣技が得意のようだ。



「忍法、影縛かげしばり‼︎」


「ゲグォ⁉︎」


「い、今よ、ソール!」


「おう! 行くぜ、喰らえ……」



 六華りっかの忍びマーキュリーさんは、〝忍術〟という、魔法とは違う妙な技を使う。影が立体になって敵の群れに絡みつき、動きを封じた。



「必殺剣・ライジングサン‼︎」

 


 星光団のリーダー、天光てんこうの騎士ソールさんの放った一閃が、影に縛られ身動きが出来なくなった敵を、真っ二つにぶった斬った。

 が、すぐに木の化け物が、回復魔法をかけ始めやがった。真っ二つになった泥兵士が、みるみる元通りの姿になっていきやがる。



「新月の呪縛じゅばく‼︎」



 今度は、頼もしきボクらの親分—— 望月もちづきの魔導士ムーンさんが振りかざした杖から、紫色の光がほとばしり、木の化け物に絡みつく。

 すると再び、泥兵士が真っ二つになり、消滅した。どうやら、敵の回復魔法を封じたらしい。

 ボクは再び目を瞑り、技のステータスを見てみた。



 新月の呪縛

 闇属性 消費魔力……5

 敵の魔法を封じる(成功率 85%)



 ——こうして見てるのも、中々面白えな。後でみんなの能力もゆっくり見てやろう。



「行くぞ、ダイモス」


「おうよ、相棒!」


双破斬そうはざん流星シューティングスター‼︎」



 フォボスさんとダイモスさんが同時に、一回りデカい木の化け物のボスへ突撃し、瞬時に微塵斬りにした。



「グギャアアアアン‼︎」



 フォボスさんとダイモスさんは星光団のメンバーじゃねえから、ソールさんたちやボクのように転身してパワーアップする事は出来ない。なのに、2匹のコンビネーションで敵と渡り合える。星光団メンバーに引けの取らねえ強さだ。


 ——さて……、そろそろボクも行くとするか。



「ゴマくん‼︎ 危ないぞ! 後ろ‼︎」


「ん……」



 ソールさんの声を聞く前にボクは既に、アグラをかいたままの姿勢で、背後から拳を振り下ろしてきた泥兵士の腕を掴んでいた。



「グギェ……」



 ボクは立ち上がって左方向に回転し、泥兵士を、敵の群れのいる方へと力一杯、ブン投げてやった。



「ギャアアアアア‼︎」



 泥兵士は、敵の群れを次々になぎ倒しながら、端微塵ぱみじんに砕け散ってしまった。



「……さて、どう料理してやっかな。そうだ。あの回復しやがる木の化け物のステータスも見ておこう」



 エビルトレント Lv.10

 魔造兵

 属性……風


 体力 40

 魔力 102

 攻撃力 8

 防御力 45

 敏捷性 10

 魔法力 98


 耐性……水

 弱点……火


 必殺……

 リザレクション



 フン、大した強さじゃねえが、泥兵士と同じく大量に居やがるから面倒だな。

 ボクは敵の群れの方へと足を進めた。まだまだ、泥兵士も木の化け物もうじゃうじゃと居やがる。



「クソッ、キリがない!」


「魔力も少なくなって来ました!」


「ゴマのアホ! 何で戦いに参加せんとぼーっと見とってん! 見損のうたわ!」



 フフ、苦戦しているな。——まあ、ボクに任せとけって。

 まずは、回復されないために、木の化け物を一掃しなきゃな。

 ボクは叫んだ。



「ホワイト・ヒート‼︎」



 すると周囲の温度が急上昇し、近くの草木があっという間に炎に包まれた。

 木の化け物どもが、奇声を上げながら紅蓮の炎に飲まれて行く。



「な……凄い! 一瞬でエビルトレントが!」


「何っ! 俺の炎の剣技をも凌ぐ威力だと⁉︎」


「熱うっ……‼︎ ゴマ! あんた、それデネブの技やん! どこで覚えたん⁉︎」



 どうだ。これで木の化け物は一掃できたな。マーズさんの剣技なんざ、ゆうに超える威力だぜ。

 そしてこの技はニャンバラ軍精鋭〝ギャラクシー〟の、デネブが使っていた技だ。敵の技を使えるってのは、なかなか心地いいモンだぜ。



「もう‼︎ せっかく森の火を消したのに‼︎ 今度は森の木も草も全部燃えちゃうじゃない! バカ‼︎」


「ヴィーナス、落ち着いて……! で、でも……このままじゃ皆燃えちゃう。私の〝水遁の術〟で……。でも、もう無理かも……あう」



 あ、いけね。やり過ぎちまった。

 よし、火を消しゃいいんだな。今度は、リゲルだったか。アイツの技を使ってやろう。

 ついでに、泥兵士を一掃してやる。



「メイルシュトローム‼︎」



 今度は天からドドーーッと音を立てて水柱が降り注ぎ、その場は一瞬で大洪水になった。

 燃え盛っていた火は瞬時に消え、泥兵士は水に押し流され、溶けて行く。



「ゴマくうんんんん‼︎」


「お、俺たちまで、巻き込まないでくれぇー‼︎」



 あ……。またやっちまったか。



「まずい、巨大な渦が迫って来たぞ!」


「皆さん、早く、水から脱出して下さい!」



 そうだ。忘れていた。

 この技……、即死率が5%だった……!



「みんなすまねええええ! 渦にだけは飲まれるな‼︎ 5パーセントの確率で死ぬぞおおおーーーー‼︎」


「何してんのよもう⁉︎ 早く森の外へ逃げて‼︎」


「まだ死にたくねえぞーーーー‼︎」


「……抹消‼︎」



 ムーンさんが杖をかざすと、紫色のエネルギーが辺りを包み込み……、水も巨大な渦も、一瞬にして消滅してしまった。——助かった。



「はあ、もうアカンかと思ったで……」


「正直、敵よりゴマの方が怖いぜ……」



 ムーンさんは息を切らし、ボクに訴える。



「ゴマ……、あなたは能力は凄いですが、それを制御するすべをまだ心得ていないようです……。次に戦う時は、なるべく魔法は使うのを控えて下さい……」


「あ、ああ。すまねえ、ムーンさん……。だが、敵は全部倒せたぜ、ハハハ!」

 


 ——なるほど、デス・アースクエイクを使った時も、自爆しかけたからな。その力を使いこなせるようにならなきゃいけねえって事か。

 ……チッ、ボクだけでいいとこ取りしてやろうと思ったのに。世の中、なかなか都合良く行かねえもんだぜ。



「おい、街へ向かった円盤は、どうなったんだ」



 マーズさんの声を聞いて耳を澄ますと、街の方から、爆発音が次々と響いているのが聞こえた。



「いけない! みんな、街へ急ぐぞ!」


「おうっ‼︎」

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