第44話〜命がけのシューティング・ゲーム〜

 

「ヴィーナス、死者や負傷者は出てそうか?」


「ネズミさんたちはみんな、地下避難施設に避難したから、まあ大丈夫でしょ」


「だが、見ろ! 街が……街が、壊されて行く!」



 空を埋め尽くす円盤の大群が、無数のレーザー光線を放ち、街に立ち並ぶビルを攻撃し始めている。レーザー光線はあっという間にビルやオブジェを溶かし、薙ぎ倒して行く……。

 あの円盤どもは、一体どうやってこの世界に持ち込みやがったんだ……?



「フォボスさん、あの円盤とかもみんな〝ワームホール〟とやらを通ってきたのかよ⁉︎」


「結界を通過する〝ワームホール〟……。ライムが持ち帰った後、プルートによって改造され、量産されたと聞いた」


「だったらあの時、ブッ壊しとくんだったぜ、クソッタレ!」



 こうしてる間にも、街の建物は次々と破壊されていく。ボクらは急ぎ、街へと足を進めた。


 ——響き渡る、聞き覚えのある低い声。



「遂に、この時が来たのだ‼︎」



 広場に着陸した巨大な円盤から聞こえてきたその声の主は、ライムだった。



「……出たな、ライム‼︎」


「ライム、あなた……」



 ムーンさんがまた、悲しげな表情を見せた。

 着陸した巨大な円盤のハッチが開くと同時に、再びライムの声が街に響き渡る。



「我々ニャンバリアンが、この資源豊かな街をいただくのだ。手始めに、邪魔な建物は全て始末し、その後は我々の思い通りの、新しい理想郷ユートピアをここに築かせてもらう。行け、飛行戦艦ウラヌス&ネプチューン‼︎」



 下向きに開かれた円盤のハッチから2機の飛行戦艦が現れ、轟音と共に空へと飛び立った。

 次の瞬間、2機の戦艦から多数のミサイルやレーザーが一斉に放たれた。閃光と白煙と共に、街の建物が灰へと変わっていく。


 ——何て事しやがるんだ。許せねえ……。絶対ぶっ潰してやる、ライム‼︎



「敵は飛行部隊だ。我々も戦闘機に乗って戦う!」


「おう!」



 ソールさんたちの声。戦闘機だと⁉︎ そんなものもあるのか。

 


「守護神アポロ‼︎」



 ソールさんが天に向かって剣を掲げ叫んだ、次の瞬間——夜空にキラリと光が現れたと思えば、彗星のように何かが飛んでくる。

 それは、アルファベットのAのような形をした白色の戦闘機だった。飛来した戦闘機はソールさんの近くの地面に降り立ち、扉が開く。

 ソールさんに続き、ムーンさんたちも剣や杖を天に掲げながら叫ぶ。



「守護神アルテミス!」


「守護神ヘルメス!」


「守護神アフロディーテ!」


「守護神アレス!」



 すると、夜空からまたしても4機の、それぞれ形の違った戦闘機が彗星のごとく現れた。

 戦闘機が全て地上に降り立つと、ソールさんたちはそれぞれ操縦席へと向かった。



「ゴマくんは、ムーンの〝アルテミス〟に、スピカさんはヴィーナスの〝アフロディーテ〟に乗ってくれ!」


「フォ……フォボスさんは私の〝ヘルメス〟に。ダイモスさんは、マーズの〝アレス〟に! い、急いでね!」


「了解だ!」


「ゴマ! こっちです!」



 ボクは、ムーンさんの戦闘機〝アルテミス〟に搭乗する事になった。紫色の三日月形のウイングに、小型の砲台が4つ、搭載されている。

 操縦席に入ると、そこには訳の分からねえ機械やら計器やらがゴチャゴチャと搭載されていた。こんなもんを操作できるのか、ムーンさんたち。

 フン、それにしてもすげえ体験だぜ。帰ったらルナの奴に自慢してやろう。



「ムーンさん、ベルト締めたぜ!」


「では、行きますよ! 〝アルテミス〟発進‼︎」



 ……うおお! 一気に地面が遠ざかる‼︎ 

 ニンゲンに抱っこされた所から見える高さよりもさらに高度が上がったところで、〝アルテミス〟は、2機の飛行戦艦の追跡を開始した。ソールさんたちの戦闘機も、〝アルテミス〟とほぼ同じ速度で周りを飛んでいるのが見える。



『一機でも多く敵の円盤を撃墜しつつ、戦艦を追うぞ! 全機、散開!』



 ソールさんからそう通信が来ると、ソールさんたち他の戦闘機は、一瞬でどこかに行ってしまった。



「ゴマ、少し揺れます。つかまっててくださいね。後方の確認を頼みますよ」


「わかった、ムーンさん!」



 2機の飛行戦艦の周りに、何十何百もの円盤が飛び回っているのが見える。ニャンバラ空軍め、なんて大軍なんだ……。

 円盤の大群に近づくと、敵の円盤はレーザー光線をこっちに向けて撃ってきた。



「やべえ!」


「しっかりつかまっててください!」



 〝アルテミス〟はスピードを上げて旋回し、無数に撃たれるレーザーを避けている。景色がグルグルして、目が回る……!



「行きますよ! レーザーキャノン発射ファイヤ!」



 〝アルテミス〟の両翼から、紫色のレーザー光線が発射された。

 ——レーザー光線は敵の円盤を一瞬で貫き、円盤は爆発、墜落する。



「うおおお‼︎ すげえ! すげえぞムーンさん!」


「……敵機撃墜!」



 攻撃をけながら、次々に敵の円盤を撃墜していく様子を見て、ボクは思わずグッと手を握りしめた。



「凄え! ボクもやりてえよ!」


「……いつかは、ね。ゴマ、あなたならきっと出来ます」



 ソールさん、マーズさん、マーキュリーさん、ヴィーナスさんの戦闘機も、次々と円盤を撃破していく。うじゃうじゃといた敵の大軍も、あっという間に半分より少なくなったように見えた。


 調子良く敵の円盤を撃ち落とし続けていたその時だった。

 突然の衝撃と揺れが、ボクらの機体を襲う——!

 敵の光線を食らっちまったようだ。



「ぐあああ! 食らった‼︎」


「大丈夫です。多少の攻撃には耐えられます」



 冷静にそう言うムーンさんに、ボクの鼓動は落ち着きを取り戻した。引き続き敵の円盤を撃ち落としながら、2機の飛行戦艦を追う。



『みんな、今だ! 戦艦を狙うぞ!』



 ソールさんの通信の後、星光団の戦闘機5機は合流し、水平に並んだ。



『行くぞ! 3、2、1、発射ファイヤー!』



 ソールさんの合図で、星光団の戦闘機は一斉に、2機の飛行戦艦に向けてレーザー光線を放った。白、紫、赤、水色、黄色のレーザーが並び、一直線に敵戦艦へと向かう!

 爆発と黒煙が巻き起こった。——やったか⁉︎ だが、飛行戦艦は2機とも攻撃に耐えたようで、フラつきながらもライムのいる巨大な円盤の方へと逃げて行く。

 ——次の瞬間。



「おのれ星光団、やはり出て来やがったかぁああ‼︎ 全機ぃ、帰還せよ‼︎」



 ライムの声が響き渡った。

 円盤の群れの残りが、巨大な円盤へと帰っていく。



『逃がすか! ライムの母船に向けて一斉掃射!』



 ソールさんからの通信だ。行け、一気に叩き潰してやれ!

 ——だが。



「……待って! ライムを……殺さないで……!」


『ムーン⁉︎ なぜ撃たない‼︎』



 ムーンさんが攻撃をためらう。〝アルテミス〟以外の4機が、カラフルなレーザー光線を巨大な円盤に向けて放った——が、銀色に輝く円盤の機体に、レーザーは全て反射されてしまっている。全く攻撃が通じていないようだ。

 ムーンさんは声を震わせて、つぶやく。



「……ソール、みんな……。ごめんなさい……」



 ボクはムーンさんにどう声かけたらいいか、わかんなかった。

 自分の娘を殺さず、救いたい——その気持ちをまだ、ソールさんたちには理解してもらえてないのかも知れない。


 そんな事を考えている間に——目の前には、恐るべき光景が繰り広げられていた。

 何と、敵の2機の飛行戦艦が飛びながら変形し、ライムのいる巨大な円盤と合体して行く……!



「ハハハハ‼︎ 星光団、新しき理想郷ユートピアが築かれる様を、見ているがいい。……行け、機獣王きじゅうおう・レオパルム‼︎」



 合体した円盤と飛行戦艦は何と、巨大ロボットに変形していく。

 円盤は完全に変形して、ネコをかたどった顔の部分と、逆三角形の胴体へと変化した。飛行戦艦は2つに分裂、それぞれ腕と脚へと変形、合体。肩の部分に砲台が2つずつ、胴体の真ん中にはひときわ巨大な砲台が1つ出現した。

 直後、ネコをかたどった顔の目の部分から紫色の光線が、草叢の方角へと放たれた。——草叢の方から地響きがする。



「ムーンさん! 森の方! 何だ、あれは!」


「……ライムの魔力で、クレイ・ゴーレムソルジャーと、エビルトレントが……巨大化していきます……!」



 巨大ロボットから発せられた紫色の光が、泥兵士と木の化け物を、みるみるうちに巨大化させていく。


 敵の巨大ロボットに、2体の巨大な化け物が、ボクらの前に立ち塞がった。どいつも、Chutopia2120に立ち並ぶビルと同じくらいのデカさだ。

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