第41話〜巨大な地下避難施設にて〜
「ゴマくん! 森の方へ急ぐぞ!」
ソールさんが、
燃え盛る森は目の前だ。だがその前に何百体もの泥兵士が、平原を埋め尽くしてやがる。
倒しても倒しても、無限に地面から湧き出てきやがる。
「ソールさん! この土人形の群れ、全部始末しとかねえとやべえんじゃねえか?」
「森の方はもっとまずい状況だ! ムーンたちと合流するのを優先した方がいい!」
——だが、目の前にはウジ虫のように湧き出てくる泥兵士の大群。
よっしゃ。ならば一丁、ブチかましてやるか。
さっき目を瞑った時に見えたボクのステータスが本当なら——今のボクは、まさに〝最強〟なんだ。
ボクは地面を蹴り、空高く飛び上がった。
そして剣の先を地面に向け、ダイブする。風を切りながら、力の限り思い切って、剣身を地面に叩きつけた。
「デス・アースクエイクゥゥゥゥッッ‼︎」
ボクが叫ぶと、地面に突き刺さった剣から衝撃波が巻き起こり、轟音と共に地面を揺り動かした。そこから大地が割れ始め、平原を真っ二つに切り裂く!
何百体もの泥兵士が、地割れの隙間の、奈落の底へと飲み込まれて行く——!
「あ、やべえ‼︎」
ボクの足元の地面も、瞬時に暗闇の奈落へと変貌した。地割れは、ボクまでも飲み込もうとしている——!
「ゴマくん‼︎」
「やべえ! ソールさん‼︎ 助けてくれ‼︎」
ボクは割れた地面の端にしがみついた。地面が揺れ続ける。パラパラと手元の土が崩れる。クソ、まだ死にたくねえ……!
すぐさまソールさんが駆け寄り、手を差し伸べてくれた。ボクは力を振り絞り、その手を掴んだ。
「う、うりゃあああ‼︎」
「うお⁉︎」
ボクは平原の上に投げ出された。——助かった。ソールさんが力一杯引っ張ってくれたおかげで、ボクは生き延びる事が出来たんだ。
——気付けば、泥兵士は全て谷間に飲み込まれたらしく、どういう訳か地割れも消滅して、元通りの平原になっていた。
「ゴマくん! 今のはゴマくんがやったのか⁉︎」
「ああ、すまねえ。慣れねえ大技ブチかましたら、このザマだ」
「……信じられん、何という潜在能力だ。とりあえず、森へ急ごう。フォボス、ダイモスは先に行ったから、追いつくぞ!」
「お、おう!」
ボクは息を整え、ソールさんの後をついて行った。
星光団は今も、炎に包まれた森のような草叢の中でニャンバラ軍と交戦中らしい。
街が攻められる前に、何とか抑えなければ。
「森の中に、地下通路への入り口があるんだ。ネズミ族は、巨大な避難施設としての街を、地下に作っていたらしいんだ。みんな、そこに避難しているよ」
「よくわかんねえが、そこにチップたちもいるってのか?」
「ああ! 僕はこの後、森の中でムーンたちと合流する! ゴマくんはひとまず、ネズミのみんなに会ってくるといい。スピカさんもそこにいる。入り口は、こっちだ」
煙の匂いにむせながらソールさんについて行くと、茂みに隠されたマンホールのような入り口が目に入った。フタのようになった扉をソールさんが開くと、階段が地下へと続いているのが見えた。
「この階段を降りて通路を行くと、地下避難施設の入り口だ。施設内の地図を渡しておく。A-3街区の筒状の建物だ。そこにゴマくんの知り合いのネズミたちがいる」
「分かった!」
「おっと、それからこの通信機を持って行ってくれ。これで僕らと連絡が取れるからね。みんなと会ったら、いつでも戦えるようにしておいてくれよ!」
「ああ、ありがとよソールさん!」
ソールさんと別れ、ボクはマンホールに入って階段を降りた。中は壁や床全体が光っていて、通路の端まで見通せるほどの明るさだ。チリ1つ見当たらねえほど、しっかりと整備されている。
真っ直ぐに伸びる通路の奥にある、鉄製の大きな扉を開くと……、そこに何と、もう1つの巨大な街が現れたんだ。
ネズミの奴ら、地下にもこんな場所を作ってやがったのか。家がある、ビルもある、公園もある、森や小川もある。
ビルの何十階分以上もの高さに広がる天井全体が光っていて、街全体が昼のような明るさだ。
道路は全部真っ直ぐで、十字路ばっかりの
——A-3街区……。幸い、入口からはさほど距離は無い。小走りしていると、こぢんまりとした筒状の建物が目に入る。あの建物だ。急ごう。
「あ! イケメン‼︎ 来てくれたんや!」
——この声は。
「スピカ‼︎ 無事だったか!」
「イケメーン! 会いたかったで‼︎ いきなり居なくならんとってーや!」
「イケメンじゃねえ! ゴマだ‼︎ ……そうだ、ネズミどもは?」
「みんな建物の中やで。とりあえず入ってゆっくりしとき! 疲れたやろ」
筒状の建物に到着し、部屋に入ると……。
9匹のネズミの家族の姿が見えた。みんな元気そうだ。無事で良かったぜ。
5匹のネズミのガキども……、トム、モモ、チップ、ナナ、ミライ。ボクを見るなり、5匹とも目を輝かせて叫ぶ。
「ゴマくん‼︎ ゴマくんだ!」
「来てくれたのね!」
「ゴマくんー! あの時は無理に帰ってもらっちゃってごめんね!」
「ゴマ兄ちゃんー! もうダメかと思ったようー!」
「ねこのおにいさん、またきてくれたー!」
ケガとかも無さそうだ。ボクはふうと安堵のため息を吐いた。
ネズミのガキどもと戯れていると、フォボスさんとダイモスさんの声が耳に入った。
「ゴマ。どうやら無事のようだな」
「良かったぜ! あの変な泥の兵士はなかなか厄介だったが、大丈夫だったか?」
フォボスさんとダイモスさんも、ここに来てたんだ。
「フン、あんな奴ら、ボクの敵じゃねえ。ボクの必殺技で一掃してやったぜ」
「ほう、ゴマにはやはり素質があったか」
「さすがだな。ゴマ、これから期待してるぜ! ハハハ」
フォボスさんとダイモスさんに褒められてすっかり得意になっていると、チップとナナが駆け寄ってきて、ボクの黒い鎧をペタペタと触り始めた。
「ゴマくんその格好……すごい! カッコいい‼︎」
「すごーい! キラキラ光ってておもしろーい!」
——あ、いけね。転身を解くの忘れてたぜ。
「このカッコはな、ボクが戦う時のカッコなんだ。大活躍してやっから、見てろよな! ……そうだチップ、テメエらの家は大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。あの不思議な妖精さんが、いざとなったら魔法で戦ってくれるって言ってくれたんだ!」
「ミランダの事か? アイツそんなに強えのか」
ボクはチップたちに鎧を存分に触らせた後、転身を解いた。ずっとこの格好だと、首が凝って仕方がねえ。
満足したチップとナナを見届けた後、ボクはスピカの方に目をやった。
スピカは黙って椅子に座りながら尻尾をパタパタさせていたが、チップが通りかかった時、すっくと立ち上がり、チップを呼び止めて言った。
「チップくん、ウチも戦うさかい。あんたらネズミの街、守らせて」
「スピカ姉ちゃんも、ありがとう!」
スピカ——。
こっち側についてくれるのはありがたいが、それはきっと……〝元仲間〟とやり合う事にもなるだろう。辛いはずだ。ボクは声をかけた。
「おいスピカ、戦ってて辛くなったらいつでもボクに言え。その、うまく言えねえが、少しでもテメエの支えに……」
——そう言いかけた時。
ピピピ……と、ポケットから音が鳴った。ソールさんから渡された通信機だ。よく分からないまま、ボクは通信機を耳にあてた。
『ゴマくん、みんなには会えたかい? ゆっくりしてもらいたかったが、新手の敵が現れたんだ。すぐに戻ってきてくれ!』
「……おう、分かった!」
——どうやら、一刻を争うようだ。
「スピカ、一緒に行こうぜ。ボクらも戦うんだ」
「……せやな。こんなとこでじっとしとったらあかへんな。ネズミさん、ウチらちょっと行ってくるわ!」
フォボスさん、ダイモスさんも、装備を整える。
「俺たちも行こう」
「絶対、ニャンバリアンの好きにはさせねえから! 安心しな、ネズミさん」
9匹のネズミの家族と、またしばしの別れだ。
ネズミの街に平和が戻ったら、また一緒に飯作ったり、遊んだり、山行って食いもん集めたりしようぜ。
「……ここは、みんなが大好きな街なんだ」
「お願い、私たちの世界を守って!」
「ゴマくん! 本当に来てくれてありがとう! 負けないでね!」
「早く悪いネコさんやっつけて!」
「がんばってね、せいぎのネコさん!」
ボクは5匹のネズミのきょうだいの目を順番に、しっかり見据えて言った。
「トム、モモ、チップ、ナナ、ミライ。またあのヒミツキチとやらで絶対一緒に遊ぶぞ。約束だ」
5匹のきょうだいに続いて、ネズミのじいちゃん、ばあちゃん、父ちゃん、母ちゃんも、玄関まで見送ってくれた。
「みんな、頼んだよ。わしらの世界を、守っとくれ」
「無理して怪我したりしないでねぇ」
「きっと、また帰ってきてくれるって信じてるからね。がんばって!」
「ゴマくん、スピカちゃん、フォボスさん、ダイモスさん……。あなたたちも大切な家族だから。ほんとに、気をつけてね」
ボクは、静まり返った地下の街をぐるりと見渡してから、見送ってくれる9匹のネズミたちに向き直し、勝利宣言をした。
「ああ、心配すんな。あんたたちの思い、ボクが受け取った。必ず勝利して、また帰ってきてやる!」
——ボクらは9匹のネズミの家族と勝利の約束を交わし、A-3街区を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます