第40話〜最強⁉︎ 闇のネコ勇者〜

 

 一段と冷え込んだ、その夜の事だった。

 段ボールの中でルナと団子になりながら、毛布にくるまって寝ていた時。

 またしても他所のネコの鳴き声で、ボクは目を覚ました。



「ふあーおおおおぉぅぅ……」



 こんな冷え込んだ夜に起こされるなど、たまったもんじゃねえ。ボクは無視し続けた。今度こそ、どっかの野良だろう。



「ふあーおおおおうう……!」


「ふにゃあぁぁぉぅ……!」



 だが、鳴き声がどんどん耳元に近付いてくる。

 まさかまたアイツじゃねえだろうな、プレアデス……? いや、声の感じが違う。しかも今度は、2匹いるようだ。

 ボクは気になって仕方がなくなり、毛布から顔を出してみた。



「ふぁぁお……いた。君が、ゴマか」


「ふにゃあお……ゴマ、探してたんだぜ」



 サバシロ柄とグレーのトビ柄のネコの姿が、目に入った。見た事のない奴らだ。



「あ? お前ら誰だよ。こんな夜中に……」



 問うと、2匹のネコは並んで座り、自己紹介を始めた。



「……フォボスだ。星光団の仲間である」


「俺はダイモス。いつも相棒のフォボスと共に、星光団をサポートしてるんだぜ。よろしくな!」



 星光団の仲間だと? 何故こんな所に。



「お、おう……、ムーンさんたちの仲間だったのか。で、ボクに何の用だ?」



 コイツらは何者なんだろう。

 ボクは目を瞑ってみた。前みたいに、コイツらのステータスが見えるかも知れねえ。

 ……だが、何も見えない。あの能力は、使える時と使えねえ時とがあるのだろうか。

 2匹は並んで座ったまま、ボクに訴えかける。


 

「今……星光団が、ピンチなのだ。ゴマ、君も一緒に、もう一度ネズミたちの世界に来て、一緒に戦って欲しい」


「ニャンバラ軍は予想以上の大部隊で、今にもネズミ族の街を襲おうとしてるんだ! 何とか食い止めてるんだが、激しい攻撃に手も足も出ねえ状況なんだ!」



 それを聞き、ボクは歯を食いしばった。ムーンさんが言った通り、やはりニャンバラの奴らはネズミの世界に攻めて来た。この2匹が言ってる事が本当なら……チップたちももしかしたら、無事じゃないかも知れねえ。

 クソッタレ……こんな事なら、ムーンさんたちの反対を押し切ってでも、ネズミの世界に残るんだったぜ。



「分かった。すぐに行くぜ」


「ミランダとは連絡を取っておいたから、間も無くここにワープゲートが開くはずだ」


「他のネコたちは起こすなよー!」



 ——赤に染まった月の光だけが射し込むガレージの床に、虹色に輝くワープゲートが現れた。



「ワープゲートが開いた! 飛び込むんだ!」


「おう!」



 ——全く、またメルさんに怒られるじゃねえか。だが、大事な〝仲間〟のために。

 ボクは、戦いに行くぜ。



 ♢



 光に包まれ、景色が変わってゆく。やがてネズミたちの街、〝Chutopiaチュートピア2120にいいちにいぜろ〟の風景が、虹色の光の中から出現した。到着だ。


 ネズミの世界も今は真夜中だ。街はひっそりとしていて、幸いまだニャンバラの奴らには襲われていないと思われる。


 ——待てよ。ボク、四足歩行のままじゃねえか。フォボスさんもダイモスさんもだ。

 前はあの不思議なトンネル〝ワームホール〟のおかげでネズミの世界でも二足歩行になれたんだが、〝ワームホール〟はもう無い。まさか、このまま戦いに行けってのか?


 どうすればいいか分からず、ボクは夜空を見上げた。その時。



「……お待たせ、みんな。◯△※……」



 突如ミランダが現れ、呪文を唱え始めた。ボクとフォボスさんとダイモスさんが光に包まれる。

 体の感覚が変わり、気づけばボクらは二足歩行になっていた。

 同時に、近くに短剣と銀色の鎧が現れる。



「うお、凄えぜ! ミランダ、お前何でも出来るんだな!」


「あの時は無理やり帰してゴメンね! さあ早く着替えて! それじゃまた何かあったら呼んでね!」


「あ、おい!」



 ミランダは光に包まれ、消えてしまった。

 ボクは二足歩行に体を慣らしつつ、短剣と鎧を身につけた。

 フォボスさんもダイモスさんも二足歩行になり、ミランダの魔法で出現させたであろう剣と鎧を身につけている。



「よし、行こう。まずはソールと合流する!」



 ボクはとりあえず、フォボスさんとダイモスさんについていった。

 森のように茂った草叢の上空が、真っ赤に染まっているのが見える。火の粉が夜空に巻き上がっている。ニャンバラ軍は、まず森に火をつけてネズミどもを脅し、次に街を襲うという手立てなのだろうか。ネズミたちは今、どうしてるんだろう。



「フォボス! ダイモス! それにゴマくん! 来てくれたか!」


「ソールさん‼︎」



 声がしたので振り向くと、見る影もなくボロボロになったソールさんの姿があった。着ているものは破れ、あちこち怪我をしてる。ムーンさんたちも同じようにボロボロにされちまってるんだろうか。心配だ。



「ソール、住民は?」


「地下や森に避難したが、つい先ほど、森に火を放たれた! フォボス、ダイモス、先に森へ行って、他のみんなを助けてくれ!」


「分かったぜ! じゃあゴマは、ソールと共に行動してくれ! 行くぞフォボス!」


「頼むぞ、ゴマ」



 フォボスさんとダイモスさんは、燃え盛る森の方へ走って行ってしまった。

 ——瞼の裏に、チップの笑顔が浮かぶ。チップたちの家族、そして一緒に遊んだチップの友達……。 



「ソールさん! アイツら……チップたちは無事なのか⁉︎」


「ネズミ族たちはすぐに避難させた! 安心してくれ! さあ、我々も支度して、森へ向かおう! それと……」



 その時だった。



「ソールさん、危ないッ‼︎」



 突然目の前に——。

 何と、泥で出来た身体の、ボクと同じくらいの背丈の剣を持った兵士が3匹、飛びかかってきやがった!

 防ぐすべもなくボクは、あっという間に泥兵士に羽交い締めにされてしまった。



「しまった! ゴマくん、大丈夫か⁉︎」


「くそ! ソールさん、助けてくれ!」



 こうしてる間にも新たな泥兵士が地面からニョキニョキと生え、増えていく……。何なんだコイツら。ニャンバラ軍の奴らの仕業なのだろうか。



「大丈夫だ、すぐ助ける!」



 ソールさんはそう言うと、右腕を天に掲げた。



「聖なる星の光よ、我に愛の力を!」



 叫んだ直後、ソールさんは黄金に輝く光に包まれる。ジェット気流のような音と共に光が乱反射、目を細めて見ればそこには黄金色の鎧、剣、盾が一瞬で装備されたソールさんの姿があった。

 ——そうだ、〝サターン〟と戦ったあの時の、ソールさんの姿だ。



天光てんこうの騎士……ソール!」



 変身したソールさんは、次々に襲い来る泥兵士を、白く光る剣で切り裂き、なぎ倒していく。傷も、どうやら完全に治ってしまったらしい。

 泥兵士の群れを切り抜けたソールさんは、ボクを捕らえていた泥兵士も瞬時に叩き斬り、助けてくれた。



「ソールさん、すまねえ!」


「ゴマくんも、早くするんだ!」



 ——テンシン?



「何だ、テンシンって?」


「さっき僕が言ったアレを言うんだ! ……〝聖なる星の光よ、我に愛の力を〟! それでゴマくんも僕と同じように、パワーアップ出来るんだ!」


「わ、わかった! それを言えばいいんだな!」



 ボクはソールさんと同じように右腕を空に掲げて、叫んだ。



「せ、聖なる星の光よ、わべっ!」


「……噛まないようによく練習するんだ! 時間が無い、僕は先に行く! 自分の力を信じて、切り抜けるんだ!」


「ちょ、ソールさん! 待ってくれ!」



 ボクは泥兵士から距離を取り、軽く深呼吸をしてから、もう一度言ってみた。



「聖なる星の光よ、我に愛の力を!」



 今度は、噛まずに言えたぜ。

 ——と、次の瞬間、紫色の光が瞬く間にボクを包み込んだ。何だ、何が起きてるんだ。ジェット音の唸りと光の交錯に、ボクは思わず息を飲む。見れば短剣と銀の鎧が消え、入れ替わるように紫色の光が黒色の鎧、剣、盾を形作り、体に装着されていく……!



暁闇ぎょうあんの勇者……ゴマ!」



 ——無意識に、ボクは叫んでいた。


 以前は短剣と銀色の鎧を即席で装備させてもらったが、あれはただのお試しモードだったんだろう。

 こっちが、本当の〝星光団〟としてのボクなんだ。

 ——身体に、力が漲ってくる!



「かかって来いよ、泥兵士ども!」



 ボクは、紫色に輝く剣を取り、構えた。

 泥兵士は10匹がかりで、ボクに飛びかかってくる。

 ボクは剣を、水平に一振りした。



「グボウァアアアア‼︎」



 10匹の泥兵士どもは全て、一瞬で真っ二つに切り裂かれ、地面に落ちて動きを止めた。死んだ泥兵士どもは青色の光へと姿を変え、空中へと消えていった。

 どうやらコイツらは、土に魔力をつぎ込んで動かしているただの人形のようだ。

 なら、遠慮なくぶっ潰していいってわけだ。——よし、行くぜ‼︎



「おらああああ! 喰らえ‼︎」


「グギェエエエエ‼︎」


「グブォアァァァ‼︎」



 ボクは無数の泥兵士を切り刻みながら、ひたすら進む。真っ赤に燃えている森まで、もう少しの距離だ。

 だがその手前に広がる平原には、何百という泥兵士の大群が居やがる。


 ——そうだ、あの能力は使えるか? ボクは目をつむった。



 クレイ・ゴーレムソルジャー Lv.7

 魔造兵

 属性……陰


 体力 33/33

 魔力 5/5

 攻撃力 22

 防御力 30

 敏捷性 44

 魔法力 0


 耐性……無し

 弱点……陽


 必殺……

 未習得



 よしよし、見えたぜ。

 この分析能力を活用すれば、戦いを有利に進められる。

 引き続き泥兵士を蹴散らしていくと、先を行くソールさんの姿が目に入った。ようやく追いついた。ボクは声をかける。



「ソールさんっ!」


「おお、ゴマくん! その姿は……!」


「ソールさん、ヤベえぜ、コレ! ボクめちゃくちゃ強くなったぜ!」


流石さすがだ、暁闇ぎょうあんの勇者、ゴマくん! その調子で、敵をどんどん倒すんだ!」



 そうだ、ソールさん。……あんたの能力もちょっと見させてもらおう。



 天光の騎士 ソール 白ネコ♂ Lv.37

 騎士

 属性……陽


 体力 212/220

 魔力 49/51

 攻撃力 92

 防御力 110

 敏捷性 80

 魔法力 10


 耐性……全属性(ダメージ半減)

 弱点……陰


 必殺……

 必殺剣・ライジングサン



 さすがは星光団のリーダー。強えわけだ。

 体力は大体180、その他のステータスは100あたりが、〝強い〟といえる基準のような気がする。


 ——そうだ、ボク自身の分析も出来るのか? やってみよう。



 暁闇の勇者 ゴマ 白黒♂ Lv.99

 勇者

 属性……陰


 体力 182/999

 魔力 45/320

 攻撃力 999

 防御力 999

 敏捷性 740

 魔法力 999


 耐性……全属性(ダメージ半減)

 弱点……無し


 必殺……

 ギガ・ダークブレイク

 ホワイト・ヒート

 メイルシュトローム

 イラプション

 デス・アースクエイク

 ディバイン・ヒール

 ブラック・ホール



 ……は?

 ……おい待て、何だこの破格のステータスは……。

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