第38話〜芽生える〝想い〟〜
——翌日。
「もう、安心なんだね」
「じゃあさっそく、遊びに行こうよ!」
「うん! やったあー!」
チップとナナが、キャッキャと声を上げながら遊びに行く支度を始める。
「ねえ、スピカ姉ちゃんも行こうよ」
「んー、そこのイケメンも行くなら! うふふ」
「ゴマだっつってんだろ。しゃあねえなあ、行くか」
ネズミのガキども、ボクとルナ、ポコ、そしてスピカ。
カラッと晴れた空の下、みんなで野原を目指して走った。
「よおし、レッツゴーだよ!」
「行ってらっしゃーい!」
綿のような雲が流れる青空の下、秋の少しひんやりした風が、ボクらの横を駆け抜けていく。
「スピカお前、腕をつかむな! こら、離れろ!」
「ええやんー! こんなイケメン男子、ウチほっとかれへんわ」
何なんだコイツは……。
スピカの奴は家を出るなりずっと、ボクにピッタリとくっついて来やがる。
「君たち仲良しなんだね。ウププ」
「うぷぷー。結婚したら?」
「ルナ! ポコ! 何笑ってんだ‼︎ 馴れ馴れしいんだよこの女! ……それよりポコ、ユキは置いて来ていいのか?」
「ネズミさんたちいるから大丈夫でしょ。僕だってたまにはパーっと遊びたいもん」
「じゃあ後で洞窟探検な」
「……怖いのは嫌だよ」
「ポコ、お前もそろそろヘタレを治せよな」
「うるさい。ゴマこそスピカと上手くやれよ」
「だから、そういう関係じゃねえって!」
ユキは妊娠中って事で、ネズミたちの家でゆっくり休ませてもらっている。
……あの気の強えユキが、怖がりでヘタレのポコなんざと付き合った理由は、きっと危なっかしくてほっとけないからなんだろうな。そんなユキにポコの奴はもうデレデレのありさまだ。そんなポコにからかわれるなんざ、全く気に入らねえ。
ボクは腕に何度もしがみ付いてくるスピカを振り払いながら、チップたちを追いかけた。
♢
「みんなー! ネコさんのお友達連れてきたよ!」
チップが、いつも遊び場にしている洞穴〝ヒミツキチ〟に向かってそう叫ぶと、中からネズミのガキが7匹出てきた。
「あー! 僕が前に見たネコさんだ! ね、喋るネコさん本当にいたでしょ⁉︎」
「すごーい! アルが言ってたことは本当だったんだね!」
そういえばチップたちネズミの家族と出会う前に、ボクとルナはすでにネズミの奴らに見つかってたって話をチップから聞いたっけ。本当、一体いつ見られてたんだろう——。
ボクはふと思い出し、ヒミツキチのすぐ外の草地を指差した。
「おい、ちょっと前にあそこに落とし穴掘ったのはお前らか?」
そうだ。飲まず食わずで途方にくれていた時、ルナと一緒に、あそこにあった落とし穴からヒミツキチの中に転げ落ちたんだ。そこで、風の精霊ミランダと出会ったんだった。
「はあーい僕だよ! あ、もしかして引っ掛かったの、君たちだったの? うぷぷー!」
いかにも
「うぷぷーじゃねえよ! 待てコラ! 食ってやろうか!」
「わー! 逃げろー!」
「ほらほら、早くかくれんぼ始めるよ!」
チップたちも入れて9匹のネズミのガキと、ボクら4匹のネコが一緒になって遊ぶ。
野原、丘、小川、ヒミツキチ。久しぶりに思いっきり、走り回れるんだ。
「じゃんけん……」
「ぽんー!」
……おい、じゃんけんってどうやるんだ。
「あ! 僕が鬼だ! いーち、にーい、さーん……」
よく分からねえままルナが鬼になったらしく、みんな木陰やら岩やらに隠れ始めた。ボクもどこかに隠れなきゃいけねえ。さて、どう隠れてやろうか。ルナの奴は意外とカンが冴えてやがるから、油断できねえ。
「ゴマ! あっち行こ!」
考えていると、スピカが声をかけてきた。
「お、おう! こら待てスピカ!」
勝手にどこかへ行こうとするスピカを、ボクはひたすら追いかけた。いつの間にか山道に入り、真っ赤な落ち葉に埋もれた坂道をどんどん先に行くスピカ。
「おい、あんまり遠くまで行くなよ、はあ、はあ」
「こっちやこっち! 見てみー!」
はあ、やっと追いついた。
そこは、山の上の開けた場所だった。地平線まで見渡せる景色。青天井の真下には、赤やオレンジに染まった森がじゅうたんのように広がっている。森の向こうには、ネズミたちの街が見える。そびえる建物の数々が、太陽の光を反射してキラキラと光っていた。
「……こんないい景色が見える所があったんだな」
「綺麗やんなあ。……昨日色々話して思ってん。ウチはもう、こんな綺麗な世界を壊したくない」
ボクらはただただ、その光り輝く景色を見続けていた。
「……スピカ、お前これからどうするんだ」
「あんたらと一緒にいる。ライムさんには悪いけど、アイツらには好き勝手させへん。ニャンバラの資源が無くなったんは、ウチらニャンバリアンの責任や。それを棚に上げて、全く関係ないネズミさんたちんとこを占領するなんて、絶対おかしいやん?」
「そりゃそうだろ……」
「ウチら、あんだけネズミさんたちを恐がらせてしもたのに、あのネズミさんの家族は、こんなウチに優しくしてくれて……」
「……もしまた奴らが来やがったら、ボクも一緒に戦ってやるから。大丈夫だ。あんま気にすんな」
「おおきに、ゴマ」
——柔らかな感触がボクを包む。
……おい、コラ! 何抱き着いてんだよ‼︎
ボクは思わず、スピカの両腕を振り払った。
「待て待て‼︎ 何だよ、びっくりするじゃねえか」
「ごめんて。カッコ良かったさかい、思わずギューってしてしもたわ! あはは。ゴマはやっぱイケメンやわー」
顔がほてっていくのを誤魔化しながら、ボクは顔を拭うフリをした。
全く、ほんと何なんだよコイツは……。
「はあ、はあ。見つけたあ……。どこまで行ってたんだよもう」
「うわルナ! 何てタイミングで……!」
ルナが息を切らしながら駆け寄ってくる。後ろには、ポコとチップたちもついて来ていた。
抱きつかれてるところ、見られなくて良かったぜ……。
全員見つかって、ボクらを探しに来たんだろう。
「あはは、ルナくん、スピカちゃんたちをずっと探してたよ!」
「えー? ずっと見つからへんかったんやからウチらの勝ちやん?」
「ずるいよー。罰としてスピカ姉ちゃんずっと鬼にしようよ」
「そら堪忍やわ……」
ルナ、もっと言ってやれ。まったく。
「あはは……! さ、帰ってお昼ご飯食べようよ」
「さんせーい!」
♢
昼からも、ネズミのガキどもと遊びまくり、ボクらは泥だらけになって帰って来た。スピカの奴もすっかりネズミどもと仲良くなったようだ。
風呂から出てスッキリしたボクは、1階の広間に寝っ転がりながら存分にくつろがせてもらった。
「お風呂、次はお姉ちゃんたちだよー!」
「はあい。スピカちゃんも一緒に入る?」
「そうするわー。あ! ゴマ、覗いたらあかんで」
「誰が覗くかよ全く。そーいうの、面倒くせえぞ」
ネコの女性陣はみんな風呂に行ったので、その間にボクは、ルナ、ポコと一緒にネズミたちの晩飯作りを手伝わせてもらった。
台所に満ちるメシの匂いに、ボクの腹が唸りを上げている。
「ふふ、賑やかになったわね」
「ネズミの母ちゃん、悪りぃな。メシの調達、大変だろ? 特に魚とか」
「いいのいいの。たくさん手伝ってもらってるし。賑やかな方が楽しいじゃない。そういえば、ユキちゃんのお腹、少し大きくなってたわ」
「そうか。ほんと、無事生まれりゃいいな……」
——ユキ、無理するなよ。
再びニャンバラ軍が来た時は多分、ユキは動けないだろう。ボクらで、しっかり守ってやらなきゃ。
「うっまーー‼︎ おかわり!」
「スピカ、お前ボクの2倍くらい食ってねえか?」
「ふふ、たくさん食べてね。まだまだあるから」
……もうずっと、ここに住みてえなあ。でも、アイミ姉ちゃんとこにも帰りたい。何とかして、自由に行き来できたりしねえのだろうか。
9匹のネズミたちと、ボクら家族、そしてスピカ。いつ来るか分からないニャンバラ軍の襲来に備えながらも、ボクらは数日の間、森の中での生活を楽しませてもらった。
——そして、ある日の事だ。
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