第32話〜謎の〝特殊スキル〟〜

 

 真夜中だってのに、街の方からは悲鳴、銃撃、爆発音が聞こえてくる。


 ——奴らニャンバリアンが、まだ街にいるんだな。だが作戦上、ここを動く事は出来ない。

 ボクらがネズミたちの世界に来た時に通った結界通過トンネル〝ワームホール〟。今のところ、この変なトンネルしかこの世界への出入り口がないから、今街で暴れている奴らがここに戻ってきたところで、まとめて潰すという作戦らしい。


 ボクはソールさんから、自分の顔面ほどの刃渡りの短剣と、体と腕をすっぽり包む鉄の鎧を装備させてもらった。ズシリと体が下方向に引っ張られる。



「いいかい、少しずつ戦いに慣れるんだ。僕が指示した時だけ、手伝ってくれればいい」


「わ……わかったぜ、ソールさん!」



 この後、すぐに実戦なんだ。ボクは息を吸い込んでは吐きを3回繰り返し、覚悟を決めた。



 ♢



 空が白んでくる。街から黒煙がいくつも上がっているのがだんだんと見えてきた。



「いいか? ここでニャンバラ軍の残党を食い止め、全員捕縛。その後は我々は全員〝ワームホール〟を抜けてネズミ族の世界から脱出し、〝ワームホール〟を破壊。これでネズミ族の世界への入口は、完全に封鎖できる」



 ソールさんの説明を聞き、1つの疑問が浮かんだ。

 ネズミどもの世界から外に出てから〝ワームホール〟をブチ壊してしまうと——。

 もう、チップたちには会えねえんじゃ……?


 ムーンさんはメルさんたちに、今後の行動について話している。



「メルたちは、先にアイミ姉さんの所に帰っててくださいね。私はユキとポコを迎えに行き、後から帰ります」


「わかった、母さん! 気をつけてね」



 ボクはムーンさんに、さっき抱いた疑問をぶつけた。



「ムーンさん、もしあのトンネルをブチ壊したら、もうボクらは、ネズミどもの世界には行けなくなるのか……?」


「はい。そういう事です」



 あっさりとそう返すムーンさん。



「おい、それじゃあ、アイツら……、チップたちの家族とは、もう会えないのかよ!」


「仕方ありませんが、そういう事です。でも、皆さんの安全が第一です。どうか受け入れてください、ゴマ」



 そんな……!

 このまま挨拶も無しに、もう会えなくなっちまうのかよ……。



「そんなの、無えよ‼︎」



 ボクは思わず叫んだ。周りにいるみんながボクをまじまじと見る。構わず、ボクは思いをムーンさんにぶつけ続けた。



「あいつら、いい奴だった。また会いてえ。もう一度あいつらと、冒険してえ。あそこは、ボクの第二の故郷なんだ。その作戦、反対だ」



 ムーンさんは言葉を失い、俯いてしまう。無理もねえ、ボクの勝手なワガママなんだ。案の定、メルさんがボクを叱りつけてきた。



「ゴマ! 勝手なこと言っちゃダメ‼︎ またいつニャンバラ軍が攻めてくるかわからないのよ⁉︎ ここでちゃんとトンネルを壊しておかないと、またニャンバラ軍がネズミさんの街に攻めてきて、あのネズミさんの家族も……殺されちゃうかもしれないのよ⁉︎」


「そんなの分かんねえじゃんか、メルさん‼︎ もっとマシな作戦ねえのかよ‼︎ ボクも戦うから! アイツら攻めてきたら、ぶっ潰せばいいんだろ? そうだろ⁉︎」


「ちょっとゴマ、落ち着きなさい!」



 ボクはうっかり、声をデカくしてしまった。そのせいか、知らぬ間に敵に気付かれていたらしい。

 ——茂みの中から、3匹の武装したネコが、姿を現す。



「やはり居たか、星光団」


「ホホホ、ここで待ち伏せしようという作戦ですか」


「ちゃっちゃと倒して、ニャンバラへ帰るで!」



 真っ赤な鎧を着て、身長とほぼ同じ長さの剣を携えたトラネコ。

 群青色のローブをまとい、紫色のいくつもの宝石をあしらった杖を持つサバトラ。

 銀色に光る鎧を身につけ、機関銃を持った、額に星形の模様のあるスラッとした体型の白ネコ。



「……誰だ!」



 星光団は戦闘態勢に入ろうとするが、現れた3匹のネコどもは落ち着き払った様子で、自己紹介を始めた。



「ニャンバラ軍精鋭〝ギャラクシー〟、白熱の星、デネブだ」



 赤い鎧を着たネコは淡々とそう言い、剣を構えた。



「同じく、大海の星、リゲル。我々はここで、星光団を倒すよう命じられています。ホホホ……!」



 続いて青色のローブを着たネコがそう言い、杖を構える。紫色の宝石が光を増していく。



「同じく、暁光の星、スピカや。ほな、行くでぇ! 覚悟しぃや!」



 訛りのある話し方の白ネコの女も、機関銃をボクらの方に向け、構えた。


 さっきの〝サターン〟とやらとは違い、精鋭というだけあって、落ち着き払った様子だ。星光団全員に緊張が走る。

 ボクは右手に短剣、左手に盾を持ったのを確かめた。まだ、手に馴染まない。だが敵は待ってはくれない。



「星光団、行くぞ!」


「おうっ‼︎」



 敵は3匹、こっちはボクも入れて6匹。大丈夫だ。ソールさんたちの強さは、さっきの戦いで証明済みだ。

 ——だが。



「……何っ!」



 ソールさんの剣が、跳ね飛ばされたのが見えた。

 間髪入れず、デネブの大剣が赤色の光をまといながら火の玉を3つ放つ。火の玉は燃え滾りながら、ソールさんたちに向かっていく。



「何っ⁉︎ 剣も魔法も使えるのか!」


「さっきの奴らとは違う! 油断するな!」



 まずいぞ、サターンの奴らとは段違いの強さだ。ボクも戦うぞと凄んだものの、何をどうしたらいいかわかんねえ……。気を抜いたら、死ぬのか……!

 ボクの足が固まって、動かなくなってしまった。



「……あのスピカっていう子、美人だね〜。スラッとしてて。顔も可愛いし。羨ましいわあ〜」



 じゅじゅさんの声が聞こえる。ったく、そんな事言ってる場合かよ……! 

 だが、その空気を読まないのんびりとした声を聞いたおかげで、ボクは落ち着きを取り戻し、再び足が動くようになった。



「ゴマくん! 共に行くぞ‼︎」



 ソールさんの声。

 ——いよいよだな。ボクも命を賭けて戦う時が来たんだ。



「いいか? 僕と動きを合わせ、その短剣で相手を斬りつけるんだ!」


「分かった‼︎」



 ソールさんの動きに合わせて、ボクは短剣を前に突き出した。短剣が煌々と輝き始める——!

 行くぞ‼︎



「ツイン・ライトニングスラッシュ‼︎」



 ソールさんの剣とボクの短剣が雷のように光を迸らせながら、デネブに斬りかかる!



「ふん!」



 炸裂音。後ろに跳ね返される。デネブは大剣でボクらの攻撃をしっかりと受け止めていた。直後、奴は馬鹿力で大剣をソールさんの剣に叩きつける。その衝撃でなすすべなく、ボクとソールさんは茂みへと弾き飛ばされてしまった。



「うわぁぁあ‼︎」


「ぐああーー‼︎」


「ゴマーー! 大丈夫⁉︎」



 メルさんの悲鳴が聞こえた。

 クソ、強え……。2匹がかりでもダメだなんて。

 幸い弾き飛ばされただけで、怪我は無かった。鎧を着ているとはいえ、あの大剣で斬られれば怪我じゃ済まないだろう。

 ボクは態勢を立て直し、心を落ち着けるべく目を瞑った。


 ——すると。

 何かが、見える。瞼の裏に。

 ぼんやりと……、文字や数字が浮かんできた。



 白熱の星デネブ 白ネコ♂ Lv.30

 魔法戦士


 属性……火


 体力 355/420

 魔力 40/40

 攻撃力 180

 防御力 60

 敏捷性 38

 魔法力 55


 耐性……風

 弱点……水


 必殺……

 ホワイト・ヒート



 ——何なんだ、これは一体。

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