第31話〜渾身のひと噛み!〜
「ルナ、大丈夫だからね。星光団は絶対勝つ。信じましょ」
「うん、メル姉ちゃん。僕、信じる!」
〝星光団〟と〝サターン〟との、戦いの火蓋が切られた。
——ネコとは思えねえバカぢからと身のこなし。火を出したり冷気を放ったり、呪文を唱えて岩を動かしたり、空間から光の弾を出したり……。
化け物のような能力の数々を見て、ボクは体が震えた。巻き込まれたら、ケガどころじゃ済まねえぞ。
「うおおおお‼︎」
剣同士のぶつかる音が、暗闇の森に響く。火花が飛び散り、その度に戦っている2匹の周りが照らされる。
「喰らえ!」
「お前が喰らえ‼︎ うおおおおおッ‼︎」
星光団の剣士、マーズさん。
サターンのリーダー、タイタンの二刀の斬撃をかわした直後、炎を纏った剣技を放って反撃に出る。
「ハハハ、その程度の火の斬撃など、俺には効かぬわ!」
「クッ……やるな。だが剣士として負ける訳には行かないぜ! かかって来い!」
タイタンはマーズさんの斬撃を喰らっても、平然としてやがる。そのまま反撃に出るタイタン。マーズさんは再び、軽々と二刀の連続攻撃をかわす。
——マーズさん、絶対、負けんじゃねえぞ!
「奇術! 毒拡散弾!」
木の上から、紫色に光る玉が降り注ぐ。
——危ねえぞ、ソールさん‼︎
「抹消‼︎」
「バカな、僕の技がかき消されただと⁉︎」
星光団の魔道士、ムーンさん。
何やら呪文を唱えたと思ったら、サターンの妖術師テティスが放った紫色の玉の数々を、一瞬で消滅させた。ボクらは息をひそめながら、その様子を見守った。
「ライトニングアロー!」
サターンの弓師ディオネは、電撃を纏った矢を木の上から大量に放った。
——あんなの喰らったらひとたまりもねえ! マーキュリーさん、危ねえぞ‼︎
「ぎゃーー‼︎ ヴィーナス、助けて! もうダメー‼︎」
星光団のくの一、マーキュリーさんは、ディオネの電撃矢をもろに喰らってしまった。耳をつんざくほどの音を立て、スパークする電撃矢。
ああ、もうダメだ! 見てらんねえ!
「ふん。自分で何とかしなさいよ。……ユグドラシルの癒し‼︎」
「ありがとうヴィーナス! でも次食らうとダメかも……私たち負けちゃうかも……」
「マーキュリー! 何でいつもいつもネガティブにしか考えられないの! ほら、早く立ちなさい‼︎」
「あう……またネガティブになっちゃった。私って本当ダメダメなくの一だ。うう……」
「だーかーらー! そういうのがネガティブだっつってんの‼︎ 」
電撃矢をまともに喰らったマーキュリーさんの周りに、ホタルが集まったような金色の光が現れ、マーキュリーさんを包み込んでいく。受けた傷が、みるみるうちに治っていくのが見えた。
癒し手ヴィーナスさんは、一瞬でケガを治す魔法が使えるらしい。
「星光団、反撃だ! このまま一気に攻めるぞ!」
「おうっ!」
ヴィーナスさんは、再びさっきのユグドラなんとか……とかいう技で星光団全員の傷を回復させたようだ。反撃のチャンスだ。
——行け、星光団! ニャンバラの馬鹿野郎どもを、叩き潰してしまえ‼︎
「クソっ、強え‼︎ おのれ星光団め!」
「退却だ! 早くトンネルに!」
勝てないと悟ったサターンの奴らは、尻尾巻いて逃げていく。ざまあみろってんだ!
「奴ら、逃げるぞ! 早く、〝ワームホール〟をブチ壊すんだ! マーズ、頼む‼︎」
「おう!」
「させるかああああ‼︎」
——その場で跳び上がったタイタンは、その巨体を地面に叩きつけた。
森の中に轟音が響き渡る。地面が震え、その辺の木々がへし折られ、岩という岩が砕け散る。
「きゃあああああ‼︎」
ソールさんたちも、衝撃でその場に転がり込んでしまった。その隙に、サターンの奴らは逃げて行ってしまう。
隠れていたメルさんたちは、大丈夫だろうか。
「メルさんっ! じゅじゅさん! ルナ‼︎ 大丈夫か!」
「わ、私は大丈夫! ルナもじゅじゅが守ってくれたわ!」
じゅじゅさんの脂肪だらけの体に、ルナはしっかりと守られていた。
「いっぱい食べといて、良かった〜」
「じゅじゅ姉ちゃん、ありがとう……」
態勢を立て直した星光団は、再びタイタンに立ち向かって行く。が、タイタンはすでに次の攻撃への態勢を整えていた。
「無駄だ。もう一度〝ジャイアント・インパクト〟をお見舞いしてやる」
「……クソッ、あんなのを連発されたら手も足も出ん!」
ボクはタイタンの動きを、よく見てみた。奴は案外隙だらけだ。油断しているのか、それともじゅじゅさんに負けず劣らずの脂肪が仇になってやがんのか。
やるなら、今だな。ボクだって、戦うぞ。
————喰らえ!
「ミマス、あいつらを引き連れて早くトンネルへ逃げろ! 俺はここで星光団を食い止める!」
「わかった。タイタン、後は頼んだぞ」
「ああ任せとけ。さあ星光団、もう一度〝ジャイアント・インパクト〟を喰ら……⁉︎ ぐわああーー‼︎ 痛え‼︎ 痛えっ、誰だ、俺の尻尾に噛みついてる奴は‼︎」
ボクは隙を突いてタイタンの後ろに回り込み、めいっぱいの力で、奴の尻尾に噛みついてやった。
——どうだ、痛いだろう。これはボクらみんなの気持ちだ。死ぬまで噛み付き続けてやる。
「ゴマーー! 危なーい‼︎」
地響きと共に、砂煙が舞い上がる。
「……どうだ。思い知ったか、デカブツ」
ボクの渾身の噛みつきを喰らったタイタンは、気を失って地面にブッ倒れやがったんだ。
——ボクの勝利だ。
「……ゴマ……!」
メルさんが涙を浮かべて駆け寄ってくる。気にせず、ボクは言い放つ。
「どんなもんだ! ボクだって戦えるんだぜ」
ドヤ顔で星光団の方を見ると、ソールさんたちはみんな、微笑みながらボクを見て、拍手をしてくれていた。
そうだ。ボクだってこの世界を守るために、戦うんだ!
「……はは、素晴らしい。ゴマくん、君は勇敢な戦士だ。十分に、戦う資質はあるようだ。ゴマくん。これからは、一緒に僕らとニャンバラ軍を……」
「ダメ‼︎ 絶対ダメ‼︎」
ソールさんの言葉を、メルさんが遮る。
「これ以上この子たちを危ない目に遭わせたくないの! もし何かあったら、私……!」
ボクはもうこれ以上、メルさんたちには心配をかけたくない。それでも、ボクにはもう抑えきれねえ思いがある。その思いをボクは、星光団の5匹に伝えた。
「これは、負けられねえ戦いなんだ。そうだろ? この平和な世界が、何の罪も無えネズミどもの世界が、ニャンバラの奴らの勝手な理由でメチャメチャにされるのって、おかしいだろ⁉︎ それを指をくわえて見てろってのかよ! ボクとルナは、ネズミの家族の優しさに助けられたんだ。……そうだ、次はボクらが、助ける番なんだ」
「ゴマ」
ムーンさんが、ゆっくりと歩み寄る。
「……一緒に、戦いましょう」
「ムーンさん……‼︎」
ムーンさんは今まで見た事が無いぐらいの温かな眼差しでボクの顔を見つめた。だがその表情の裏から、ボクは大きな覚悟を感じ取った。背筋がゾクッとする。そう、その覚悟は、ボクも持たなきゃいけねえものなんだ。
「ムーンさん……。ボク、絶対ニャンバラの馬鹿野郎どもをギャフンと言わせてやるから。そして、ムーンさんの大事な娘のライムさんの企みを、絶対止めてみせるから……!」
——決まりだ。
星光団のリーダー、ソールさんは手を出して、ニコッと笑って言った。
「ゴマくん、今日から君も、もふネコ戦隊〝星光団〟の一員だ。よろしくな!」
「ああ、よろしく頼むぜ‼︎」
ソールさんとボクは手を重ね、しっかりと握り合った。
♢
「……クソ、こんなガキごときにこの俺が……」
捕らえられたタイタンは縄でグルグル巻きにされ、
——さあ、どんどん来やがれ。ボクの必殺技〝尻尾噛みつき〟で、ニャンバラの馬鹿どもを全員ブッ倒してやる。
そんなボクをよそに、ソールさんたちは作戦会議を始めていた。
「タイタンを捕らえました。どうしますか?」
「ひとまず、仮設基地の牢に閉じ込めておくことにしよう。だが他のサターンのメンバーは〝ワームホール〟を通って逃げてしまった。とりあえず〝ワームホール〟は壊さずにそのままにして、見張っておこう」
「そ……そうね、私もマーズの意見に賛成。でも本当にこの先、うまくいくかしら……」
「まだ残党がいくらか、ここChutopia2120にいるはずだ。〝ワームホール〟がここにあるということは、奴らはおそらくここへ戻ってくるだろう。下手に動かず、いつでも戦えるように、装備を整えて待機するんだ」
「おう!」
ソールさんたちの話を聞きながら、ボクは考えていた。
星光団のメンバーになったという事は、きっとボクも武器や防具をもらえるんだろう。その自分の姿を想像し、胸が高鳴る。
「さあ、ゴマくん! 戦う準備だ。こっちへ!」
「お、おう! ソールさん!」
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