第30話〜もふネコ戦隊〝星光団〟〜

 

 ボクとルナは、メルさんとじゅじゅさんの後について行き、森の中の岩場に身を隠した。


 ムーンさんと、ソールとかいう奴が、さっきボクらを襲ったミマスって奴と戦ってる。

 ムーンさんの攻撃でミマスは負傷した筈だが、奴はすぐに起き上がって、ムーンさんたちに続けざまに銃撃を浴びせた。——が、ソールの盾がすべて弾き返している。

 かなわないと悟ったのか、ミマスは攻撃を止めてニヤリと笑った。



「ククク……。唯一の外界との連絡口であるこの結界通過トンネル〝ワームホール〟を破壊して、我々の侵攻を防ぐつもりか。だが、それをやるとお前らも、元の世界に戻れなくなるぞ」



 ムーンさんたちは無言で構えながら、ミマスと対峙している。

 そんな。もし〝ワームホール〟を壊されちまったら、もうボクらの住処には帰れねえってのかよ……!



「なあメルさん、大変な事になっちまったぞ……。それよりもふネコセンタイ? セイコウダン? って何なんだよ?」


「地球の平和を守る、5匹の戦隊よ。まさか母さんがそのメンバーだったなんて、私も驚いてる」


「チキューの平和を守るだと? そんな大役を、ムーンさんは背負ってたってのか」


「詳しい事は私もよく知らないのよ。でも……母さんならきっとうまくやる。大丈夫。母さんは、絶対死なない」



 ルナは、戦うムーンさんたちを見て震えている。



「やだよ……、怖いよ……帰りたいよ……」


「ルナ、大丈夫よ。大丈夫だから」



 岩陰に隠れながら、ボクらはただムーンさんたちを見守っていた。


 ——が、その時。背後からしゃがれた声が聞こえた。



「フハハ、見つけたぞ」



 ——また別の何者かが、ボクらを狙っている!



「……しまった! じゅじゅ、ゴマとルナを守って!」


「分かった〜!」



 何と今度は、4匹も出てきやがった。剣や鎧、杖やローブを装備したネコどもだ。

 間違いねえ。この街を襲ったニャンバラの奴らだ。

 ミマスと、何か合図を交わしてやがる。おそらく仲間なのだろう。



「そこにいるネコども。大人しく出て来い」



 先頭の、剣を持ったデブのトラネコ。

 刃をこっちに向け、メルさんに近づこうとする。

 が、その時——!



「……うちの子たちに、手を出さないで下さい‼︎ 」



 ムーンさんが駆け寄り、デブのトラネコに飛びかかった!



「母さん!」


「ムーンさん‼︎」



 だが、デブのトラネコは身体に似合わぬ動きでそれをかわし、ボクらの目の前に立ち塞がった。

 他の4匹も、あっという間にボクらの周りを包囲しやがった。



「〝サターン〟全員集合だ。戦える奴は、5対2だな。ハハハ、残念だがお前らに勝ち目はない」



 デブのトラネコは、笑い声を上げながらそう言い放った。

 ——ムーンさんと、ソールって奴しか、戦えるのがいねえのか⁉︎ クソッタレ、ボクにも戦う力があれば……!


 そんな事を考えていると突然、包囲していたニャンバラのネコどもは、1匹ずつポーズを取り始めやがった。



赤熱せきねつの剣士、タイタン!」


蒼氷そうひょうの騎士、エンケラドス!」


白雷はくらいの弓士、ディオネ!」


碧毒へきどくの妖術士、テティス!」


黒闇こくあんの狙撃手、ミマス!」



 それぞれが順番にポーズを決める。最後に一ヶ所に集まって、決めポーズを取りながら全員で叫んだ。



「我々はニャンバラの選ばれし偵察部隊〝サターン〟‼︎」


「ダッセぇ……」



 思わずボクは言ってしまった。

 何がやりてえんだコイツら……。学芸会かよ。何だこいつら、遊びに来たのか?



「おいガキ、今、ダサいっつったな」



 あ、聞こえてやがった……。



「あのガキをせ!」


「応!」



 ——何だと‼︎ 速ぇ‼︎



「ゴマ! 危ない‼︎」



 白黒柄の、騎士エンケラドスとやらが、一瞬で間合いを詰めて、刃の部分が顔の3倍くらいのデカさの斧で斬りかかってきた。



「——はあっ‼︎」



 ガキンと音がする。……ムーンさんが、エンケラドスの斧を杖で止めてくれている。



「ゴマ! 早くお逃げなさい!」


「ムーンさん、すまねえ!」



 ボクは、心配そうな目でこっちを見てるメルさんたちの方へダッシュした。



「ゴマ、こっちよ。ここなら安全だわ」


「メルさん、ルナは?」


「大丈夫、じゅじゅが守ってくれてる」



 ルナは泣きながら、じゅじゅさんに頭をこすりつけてガクガク震えている。ボクはそっとルナの背をさすってやった。

 ——再び戦闘音が耳に入る。



「クッ……! ムーン! もう少しで、マーキュリーたちも駆けつけるはずだ!」


「ええ、それまで耐えましょう。次の攻撃が来ますよ、ソール!」



 目をやると、ムーンさんは一瞬姿を消して、敵の背後に回り込んだのが見えた。……一体何をしたんだ?



「何! 消えた⁉︎ 馬鹿な!」


「喰らいなさい!」



 ムーンさんが叫ぶと、白く光る玉がいくつも空中に現れた。

 光る玉はエンケラドスの顔面に叩きつけられ、爆発する!



「ぐ……! グワァアアアーー‼︎ 」



 いいぞムーンさん……! 

 ……と、今度はムーンさんの頭上から、白煙を上げながら紫色の液体が降ってきた。

 緑色のローブを羽織ったサバトラの妖術士、テティスって奴の仕業だ。



「危ないぞムーン!」



 ソールは、持っている剣を光らせながら一振りする。降ってきた液体は、全て跳ね返された。



「助かりました、ソール!」


「あれは毒液だ。マズイぞ、このままだとジリ貧だ」



 白ネコの弓師ディオネが、木の上からソール達を狙って弓矢を構えている。その矢は電気を纏い、バチバチ音を立てていた。

 〝サターン〟のリーダーの、デブのトラネコ剣士タイタンは二本の剣を、騎士エンケラドスは斧をそれぞれ構えながら、ムーンさんとソールにジリジリと迫っていく。


 何だこれは……。学芸会なんかじゃなくて、マジの戦いじゃねえかよ!

 本当に命を賭けて、やり合ってやがる……!



「すげえ戦いだ……。死ぬなよ、ムーンさん……」


「大丈夫ゴマ。母さんたちは、必ず勝つよ」



 ——と、後ろの茂みから、また音がした。新手が来たのかも知れねえ。ボクは身構えた。


 現れたのは、同じように鎧やローブを装備した3匹のネコだった。



「悪いな、待たせちまった! ソール、ムーン!」


「ふん! 苦戦してるみたいだから、来てあげたわよ」


「こ……この林……、思ってたより道が入り組んでたの……。私疲れた。も……もう無理……」



 どうやら、コイツらはムーンさんたちの味方のようだ。ボクは胸を撫で下ろし、岩陰に隠れながら様子を見た。



「マーズ! ヴィーナス! マーキュリー! みんな来てくれたか! ——よし、行くぞ!」


「おう‼︎」



 今度はソールが、謎のポーズを取り始めた。何が始まるのだろうか。



「メルさん、まさかコイツらが……」


「そう、これでみんな、揃ったのよ」



 ソール、ムーンさん、そして後から来た3匹。

 順番にポーズをとりながら、名を名乗って行く。



天光てんこうの騎士……ソール!」


望月もちづきの魔導士……ムーン!」


灼焔しゃくえんの戦士……マーズ!」


六華りっかの忍び……マーキュリー!」


啓明けいめいの癒し手……ヴィーナス!」



 最後に一ヶ所に集まり、全員で叫ぶ。



「——もふネコ戦隊! 〝星光団せいこうだん〟‼︎」



 ソールは持っている剣を前にかざしながら、言った。



「〝サターン〟‼︎ このネズミ族の街で好き放題はさせないぞ‼︎」

 


 〝星光団〟VS〝サターン〟の戦いが、始まった。

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