第4話〜不審尋問〜
「とりあえずここで、君たちのお母さんの迎えを待ってなさい」
「
「怖いよ、兄ちゃん」
警察署とやらの中では、黒い帽子と黒服を着たネコどもがゴキブリみてえにウロウロしてやがった。どいつもこいつも、目つきが悪りい。
黒服どもは、書類が山盛りの机で何か作業してたり、四角い何かの機械でこの場にいねえ誰かと連絡を取ってたりするように見える。
「子供だけで出歩くのは危ないから、帰ったら家で大人しく遊んでなさい。俺は奥で休む」
ボクらを連行した黒服のネコはそう言って帽子を脱ぐと、薄暗い廊下の方へと歩いて行っちまった。
「だから! ムーンさんはボクらの居場所を知らねえから……」
ダメだ。ボクの言葉を全く聞いちゃいない。そのまま廊下の奥にある扉に入り、ピシャリと閉めちまいやがった。
「ああ、どうしよう兄ちゃん……」
「ったく、知るかよ」
ボクはその場に座り込み、ふうとため息をついた。ルナも、疲れたような眠たげな顔を見せている。
途方に暮れながら、窓から見えるムカつくほど澄んだピンク色の空を、ボーッと眺めていた時だった。
「どーしたんだ、そんなとこに座り込んで」
誰かが話しかけてきやがった。
振り向くと——ボクよりもチビな黒ブチ模様の、黒服を着たネコが、ボクらを見下ろしてやがる。
そいつは前脚——いや、手や腕って言った方がイイのかな……——で、何やら食い物の入っているであろう袋を持っていた。
さっきみたいな嫌な感じの奴じゃなさそうだ。
「腹減ったろ。これでも食いな」
チビネコは持っている袋を、ボクに手渡した。中身は、小魚のスナックだ。美味そうな匂いが鼻をつく。
思わずボクは、がっついてしまった。
「んにゃあ……、んめえ! にゃーんにも食ってなかったからな。ほら、ルナも食え!」
「ほんとだ! おいしーい!」
地底世界にも魚は泳いでんだなと、ボクは妙に感心した。が、今はそんなこと、どうでもいい。
ボクらはただただ、小魚のスナックにがっつくばかりだった。
「フフ、最上級品だ。美味いだろう。……それはそうと、お前たち、地上からやって来たというのは本当か?」
小魚があまりに美味かったので、ボクは素直に答えることにした。
「ああ。信じてくれねえかもしれねえが、本当だ。逆に、ここが地下だってことがボクは信じられねえ」
「……こっちに来るんだ」
チビの黒服は、天井の
慣れない2足歩行で、ボクとルナはついて行く。
歩くたびにホコリが立ち上る廊下の突き当たりに、1つの扉があった。
チビの黒服が扉を開けると、そこはこぢんまりとした畳の部屋。真ん中に、四角形の机が1つだけポツンとある。
また、尋問されるのだろうか。
「これも、最上級のミルクだ」
チビの黒服が部屋を出てすぐに戻ってきたかと思うと、今度はたっぷりとミルクの入った銀の皿を2つ、机の上に出してくれた。
「おいチビ。
尋ねると、チビの黒服は目を細めてボクの方をジッと見ながら答えた。
「君たちの事が知りたい。君たちが地上のネコだというのが本当なら……。我々【ニャンバリアン】は、絶滅の危機から救われるかも知れないのだ」
一体何を言っているのか。ボクにはさっぱり分からなかった。
とりあえずボクは出されたミルクをグイッと一気に飲み干してから、チビの黒服に尋ねた。
「よくわかんねえが……ボクらの
「……話せば長くなるだろう。まずは連絡先を教えてくれ。私は【シリウス】だ」
ボクらを手厚くもてなしてくれた、シリウスという名のチビネコは、いつの間にか前脚——いや、やっぱり“手”って言うことにしよう。その方がしっくりくるからな——に何かを持っていた。
シリウスが右手に持っていたのは、長四角で角が丸くなっていて、踏み潰せば簡単に折れちまうぐらいの厚さの板のような物だった。
「連絡先って
「ん? 【ニャイフォン】を、持ってないのか?」
「
「こういうやつだ」
シリウスはその板の片面を、ボクに見せた。
見ると、そこは画面になって光っていて、絵や文字が現れたり消えたりしている。
そういえば同じようなヤツを、ニンゲンがよく指でポチポチやってるのを見た事がある。
まさか、これをボクらが使えっていうのだろうか。
「……そんな物持ってるわけねえだろ」
「わかった。ちょっと待っててくれ。君たちの“ニャイフォン”を用意する。使い方も教えるから、あと少しだけ時間をくれないか? あと、名前を教えてくれ」
「ふん、分かりやすく説明しろよ。名前は、ゴマだ」
「僕はルナです」
その後ボクとルナはそれぞれ“ニャイフォン”を手渡され、シリウスから使い方の説明を受けた。
長々とした説明にボクは思わず尻尾をブンブン振っちまっていた。何とか、“ニャイフォン”の使い方を理解する事が出来た……多分。
「“ニャップル”と契約完了。あとはここに肉球を押しつけてくれ」
「あん……? こうか?」
ボクはニャイフォンの画面に片手を押し付けた。すると、ポンッと音を立てて肉球のマークがスタンプされる。
「さあ、これで自由に“ニャイフォン”を使うことが出来る。特殊な電波を使っているから、壊れない限りはどんな場所でも、連絡が取り合える。その他にも、写真を撮ったり、ゲームをしたり、色々な機能が……」
「ああ、分かった分かった、面倒臭え。まあ、使ってるうちに慣れるだろ」
ボク、長ったらしい説明はキライなんだ。
「ダメだよ兄ちゃん。ちゃんと説明聞こうよ」
ボクはルナの忠告を無視して、ニャイフォンとやらの画面を適当に触ってみた。
『甘ぬk#jtにマナの棚やら』
くっそ、何だこれは。どうやって文字を打てばいいんだ。目がチカチカする。腕が
面倒臭くなったボクは、連絡先をニャイフォンに入力する作業を、シリウスに丸投げした。
「……君たち、本当にニャイフォンを初めて使うみたいだな。使い方のガイドも渡しておこう」
「ありがとよ、どうせ見ねえけど。……で、ボクたちこれからどうすりゃいいんだ?」
「そうだな、時間を取らせてしまった。1つ、訊いていいか」
「
この時、シリウスの目つきがマジになっていた。果たして一体、何を訊いてくるのだろうか。
「地上世界に、争いごとの無い平和な国は、あるか?」
……
あ、争いごとの無え平和な世界。心当たりあるぞ。
「あるぜ。ボクらの家族だ。平和だろ? ルナ」
「……ゴハンの取り合いとかしてるじゃん。それは争いごとなんじゃない?」
「あ、それもそーか」
シリウスは首を傾げて少し考え込んでから、ボクらが黙ったタイミングで質問を続けた。
「……地上世界の何処かに、戦争や兵器などが一切無く、皆が幸せに生きる理想郷がある——そんな話を、聞いたことはないか?」
ボクが想像してた話と、全然違うようだ。
一体、何の事を言ってるのだろう——?
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