第24話〜楽しい⁉︎ 自己紹介タイム〜

 

「みんないるね。じゃあ、順番に自己紹介しよう!」


「さんせーい!」



 晩飯を片付けた後、みんなで土間の丸いテーブルを囲むように座った。

 ——初めての自己紹介。ボクは少し身構える。



「ネコさんか僕たちか、どっちから自己紹介するー?」


「お、お前らからやれよ」


「わかった! じゃあ、トムからでいいかい?」



 ふん、だがこういうの、嫌いじゃないな。

 今まで死にかけたり、逃げ回ったり、腹減って倒れそうになっていた日の事を思うと、ようやくホッとして過ごせる場所が見つかったって感じだ。



 ♢



 ネズミたちの自己紹介が、始まる。



「じゃあ、僕からだね。トーマスだよ! 呼びやすいようにトムって呼んでね。えっと、長男で、おいしいものが好きなんだ!」


「はい、拍手ー!」



 食いしん坊の長男トム。うちのじゅじゅさんに、負けず劣らずの大食い野郎だ。きっと意気投合するに違いねえ。



「モモといいます。私はお菓子作りが好きです。時々クッキー焼いたりするから、良かったらみんなで食べてね。夢は……、調理師です」



 ピンクのエプロンが似合う、長女モモ。さっきも言ったがコイツの料理は絶品だ。絶対、一流の調理師になれるぜ。



「へっへー! チップだよ! 遊ぶのと冒険が大好きなんだ! よろしくね!」



 次男で、青のキャップが似合うネズミの少年、チップ。やっぱりテメエとは気が合いそうだな。いいぜ、ボクが本当の冒険ってのを教えてやる。



「ナナだよ! あたしも冒険とか面白いこと大好き」


「あと、泣き虫だよね」


「ちがうもん‼︎」



 次女の、泣き虫でちょいとオテンバなチビネズミ、ナナ。コイツはルナとちょっと似てるのかもな。後でいっぱい遊んでやろう。



「ミライだよ。あそぶのと、おにいちゃんたちのおてつだいしてるの」



 三男、末っ子のミライ。ネズミのちびっ子も、よく見りゃなかなか可愛いもんだな。クリクリとした目をしてやがる。


 続いてはネズミのじいちゃん、ばあちゃんだ。



「わしの名前は、ダンですじゃ。まだまだ元気に長生きしますぞい。みなさん、仲良くしてね。よろしく」


「あたしゃサンディ、と申します。お料理とお裁縫、お歌が好きなのよぅ。あたしも元気にまだまだ長生きしたいわぁ。よろしくね」



 やっぱり、年寄りと思えねえぐらい生き生きしてやがる。もしかすると、この世界のモン食ってれば、不老不死にでもなれるんじゃねえのだろうか。


 続いて、ネズミの父ちゃんに母ちゃん。



「えっと、この家族のあるじのピーターです。よろしくね。いっぱい一緒に遊んだり探検したりもしながら、力合わせて生活して行こうね」


「母のマリナです。私はこの家族が大好きなの。ネコさんたちも、同じ家族として仲良くしてもらえると嬉しいわ。よろしくね」



 父ちゃんは、しっかりしてるけど心は無邪気な子供みてえだ。いいよな、そういうの。ボクもそんな大人になりてえ。

 母ちゃんってのは、居るだけで安心する、そんな存在だな。


 ——ボクらにとって、ムーンさんは母ちゃん的な存在だ。でも前に言った通り忙しいのか、普段はなかなか帰って来なかったんだ。

 だが今ここにムーンさんもいて、家族みんな揃ってる。そしてネズミどもも、ボクらは同じ家族だって言ってくれてる。

 ボクはこの時、チビの時に味わったような——誰かがそばにいてくれる安心感のようなものを、思い出していたんだ。



「これで僕ら家族はみんな紹介したよね! さあ、ネコさんたちの番だよ!」



 さあ、ボクらの番だ。誰から行くか。



「ゴマ、お前からいけよ」



 ポコが小声で言った。

 面倒な事はさっさと終わらせたいので、ポコの言う通り先陣を切る事にするか。



「じゃあボクから行くぜ」


「ちゃんとハキハキ言うのよ」


「メルさん、ボクは、もうガキじゃねえんだぞ……」



 ……そう言いつつも、こういうの初めてだから、やっぱりちょっと緊張しちまう。

 ボクは立ち上がって大きく息を吸ってから、自己紹介を始めた。



「……ネ、ネコのゴマだ。種族は違うが、お前らとなら一緒にやっていけそうだ。……んと、そーだな……」



 ネズミどもの視線が気になって、言おうと思ってた事がブッ飛んでしまった。クソ、何とか言葉をつないでいかなきゃ……!



「ボ、ボクは冒険が生きがいなんだ! だから本物の冒険がしたければ、ボクがテメエらに教えてやる。ボクらのキョウダイも面白え奴ばっかりなんだ。まあ、仲良くしてくれ。よ、よろしくな!」


「うん! よろしくね、ゴマくん! 拍手ー!」



 良かった。みんなちゃんと拍手してくれた。何だ、このちょっとくすぐられるような感覚は。



「こらゴマ! そんな乱暴な言葉遣いだと仲良くしてもらえないわよ」


「いいじゃねえかよ、メルさん……」



 ここに来てまで、メルさんに小言を言われちまう。——ま、これもいつもの事だ。今はちゃんと目の前に、ボクの大事な家族がいる。それだけで充分だ。

 続いてルナの番だ。



「ルナです。僕らの家族では末っ子だけど、立派なお兄ちゃんになりたくて頑張ってます。よろしくお願いします!」


「ルナの方が自己紹介上手じゃん」



 ポコがまた小声で突っかかってきやがる。ムカつくぜ。ポコの奴は怖がりの意気地なしのくせに、こういう時だけイジってきやがるんだ。



「うるせえな。ボクはそうやって比べられるのが嫌いなんだよ。次はポコ、お前だろ、早くしやがれ」


「へいへい。……えっと、黒ネコのポコです。横にいるユキは、僕の、大切な彼女です」



 一斉に、ユキに視線が集まり、ユキは顔を赤らめる。



「おら、拍手しやがれ!」



 我慢できなくなり、ボクはそう言った。



「これは、めでたいのう」


「お似合いだよー!」


「熱々だね、ふふふ」



 ネズミたちはそう言いながら拍手する。いいぞ、もっと言ってやれ。

 次はすっかり照れちまったユキの番だ。ユキはいつものハキハキした口調で自己紹介を始める。



「ユキです。……実は、お腹に赤ちゃんがいて、もうすぐ生まれるんです」



 ————ん?


 何? い、今、何と⁉︎

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