第25話〜ネズミの国への侵攻計画〜

 

 ユキの奴、お腹に赤ん坊がいるだと——⁉︎

 ユキが母ちゃんになり、ポコが父ちゃんになる……。ダメだ、全く想像が出来ねえ。



「メル、私たち、先越されちゃったね〜」


「言わないでよ、もう……」



 なかなかお相手が出来ないじゅじゅさんにメルさんは、お互いに顔を見合い、同時にふうとため息をついていた。



「あらあら、これまたおめでたいねえ。どうか無理はしないでおくれよ?」



 悲しげな顔をしているメルさんたちをよそに、ネズミのばあちゃんがそう言うと、ユキは照れ臭そうに頭を下げた。



「ええ、ありがとう。迷惑かけちゃうかもだけど、助けてくれたら嬉しいです。よろしくね」


「うん! おめでたいね。ユキちゃんに盛大に拍手しよう!」



 今までで1番の、拍手が巻き起こった。

 子供が生まれるとなると、この先色々と大変だ。ましてこの二足歩行のままだと、どうなるか分かんねえ。それまでに元の世界へ帰れるといいんだが……。



「じゃあホントに僕に弟や妹が出来るんだね! 楽しみ!」



 ルナが声のトーンを高くしてそう言った。



「……ああ、やっとルナはチビガキの地位から抜け出せるんだな」


「うるさいな! 兄ちゃんもガキだろ」


「ガキじゃねえよ! ボクはもう大人だっつってんだろ!」



 ボクらがケンカする様子を見て、ネズミの母ちゃんがクスリと笑う。



「ふふ、ゴマくんとルナくんって、うちのチップとナッちゃんみたい。仲良しなのね」



 それを聞いたナナは、ほっぺたを膨らましている。



「仲良くないもん。いじわるばっかするもんチップ」


「してないだろー、もうナッちゃんたら!」


「ほらほら、次の紹介始まるわよ」



 似たもん同士ってやつか。キョウダイなんて、そんなもんなんだろな。


 続いて、メルさんにじゅじゅさんの番だ。



「メルです。この子たちの姉で、今は母さんが忙しいから、親代わりになってるんです。これからお世話になります」


「じゅじゅだよ〜。美味しいもの大好きだから、この世界の色んな美味しいもの、教えてね〜。よろしくね〜」



 案の定、じゅじゅさんの紹介を聞いた食いしん坊トムが、食らいついた。



「僕、美味しいものたーくさん知ってるよ!」


「ほんと〜? トムくん、後でデートしましょ」


「で、デート⁉︎」



 ハハハ。種族を超えて、気の合う者同士結ばれっちまうのもイイんじゃねえか。


 最後はウチの親分、ムーンさんの番だ。



「……ムーンです。まずは私どもの息子、娘たちを宜しくお願い致します。……私がここに遣わされたのには、理由があります」



 ムーンさんがここに来た理由——。そうだ、さっきからのムーンさんの言動、色々気になってたんだ。

 ネズミたちもボクらもみんな、ムーンさんの話に耳を傾ける。



「ふむ、ゆっくりお話してもらえますかのう?」



 ネズミのじいちゃんがそう言うと、しばらく間を置いてから、ムーンさんは口を開いた。



「結論から申し上げます。ここネズミ族の住まう世界を……、地底に棲みしネコ族が、軍隊を引き連れて侵略しようとしております」



 ムーンさんに聞かされたのは、衝撃的な事実だった。

 ——この平和なネズミの国を、侵略しようとしている奴らがいる!



「おい、ルナ!」


「……うん、間違いない」



 そう、地底に住むネコ族と言えば——ニャンバラの奴らだ。

 プレアデスの野郎も、プルートのジジイも、ネズミどもの住む世界の侵略のために、ボクらを利用してたって事なのか。



「シンリャク……、とは、何ぞや?」


「この世界に、何が起きるんですか?」



 何の事か分からねえって顔をして、ネズミたちがムーンさんに尋ねた。

 ネズミ族は、侵略とか戦争とか、きっと知らねえのだろう。こんなにも平和な世界なんだ。そうであってもおかしくねえ。

 ムーンさんは再び間を置き、話し始めた。



「ここネズミ族の世界は……、太陽の神様の力により創られたのです」



 ネズミのキョーダイは、きょとんとした顔つきでムーンさんの話に耳を傾ける。



「……元々ネズミ族は、私たちネコ族の天敵でした。しかしある時代、太陽の神様の力により、天敵である私たちから全く隔離された空間が創られたのです。そこでネズミたちは知性を発達させ、独自の文化、文明を築き上げました。その後様々な試行錯誤の結果、恒久の平和を実現させ、今ここでネズミ族はこうして幸せに暮らしているのです」



 急に難しい話になっちまった。何でムーンさんは、ネズミの世界の事をここまで詳しく知ってるのだろう。それに、太陽の神様——? 神様がこのネズミたちの世界を作っただなんて、ちょっと信じらねえ。

 ムーンさんは続ける。



「そして……食糧であるネズミ族が殆どこの世界に移住してしまったため、多くのネコたちはニンゲンに飼われる道を選んだのです。私たちも、そうなのです」



 そういえば近頃は、ネズミをほとんど見かける事がなくなっていた。それはそういう事情だったってのか。

 コウモリはウチの近くにゃいねえし、鳥なんかすばしっこくてなかなか獲れねえし、結局ニンゲンがくれるカリカリやネコ缶しかほとんど食いもんのアテがねえ状況になっちまったんだと。



「ネコさんたちも、大変なんですね」


「でも、食べられちゃうのはやっぱ嫌だなあ……ごめんね、ネコさんたち」



 ——ネズミたちにそんなふうに言われちまうと、ほんと申し訳なくなってしまう。大丈夫だ、ネズミよりもネズミたちが作ってくれるメシの方が100倍美味いから——。



「そんな状況の中、ある1匹のネコが……、事故で地中深くに転落してしまったのです。ところがそのネコは、転落した先の地中深くに何と、ネコ族だけが暮らしている世界を発見したのです。そして、そのネコこそが……」



 ——地中深くの、ネコ族だけの世界。間違いない。ボクらが迷い込んだ地底世界だ。

 そして、そのネコが一体どうしたってんだろうか。ボクはムーンさんの話に耳を傾けた。



「そのネコこそが、……私の子である、ライムという名のネコなのです。ここにいるメル、じゅじゅと、時を同じくして生まれた子なのです」



 ————衝撃の事実、再び、だ。

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