第23話〜共同生活の始まり〜

 

 山で食い物を集めた帰り道——9匹のネズミたちの家が見えてきたその時。聞き慣れた声が、ボクの耳に入った。



「ユキーー、尻尾繋ごうよぅ」


「ポコ! こんな時に何言ってるのよ!」



 そう、懐かしさすら感じる、ボクらの〝家族〟の声が響いてくる。



「おい……! ルナ‼︎」


「うん……? ……あ‼︎」



 ボクとルナは、声がした庭の方へ全力でダッシュした。



「……あ! いた‼︎ ゴマとルナが……! 母さん‼︎」


「……無事に、会えましたね!」



 ——ムーンさん。メルさん。じゅじゅさん。ユキ。ポコ。

 ボクの〝家族〟の姿が——そこにあった。



「メルさんっ‼︎ みんな‼︎」


「メル姉ちゃーん‼︎」



 夢中でボクらは〝家族〟のもとへ駆け寄った。服を着て二足歩行になっているみんなの姿に新鮮さを感じたが、それでも長く一緒に暮らしてきた〝家族〟である事に変わりはない。



「うわあああんルナ! ゴマ‼︎ 心配したよう……!」



 うわ、うわわ、メルさんがこんな泣いてるの初めて見たよ……。



「すまねえ、心配かけた。もうボクのことボコボコにしてくれていいぜ」


「このバカ! ……でもゴマもルナも無事で、無事でぇ……、本当に良かったあ……うわあああん……」


「メルさん、ホントごめん。ホントに、悪かったよ……」



 じゅじゅさん、ユキ、ポコも、安堵の表情を浮かべていた。



「ふあ〜、ひと安心、ひと安心。たくさん歩いたからお腹すいたね〜」


「ポコ、ネズミさんたちに挨拶ちゃんとするのよ?」


「もお、分かってるよユキ。あ、あの9匹のネズミさんたちがそうかな?」



 9匹のネズミたちも後から、ボクらの所へやってきた。チップとナナが、不思議そうにボクらを見ている。



「おやおや、この方たちのご家族様ですか。どうも初めまして。おかげさまで随分助かりましたよ」



 ネズミの父ちゃんはムーンさんにそう言って、ペコリと頭を下げた。ムーンさんも、深々とネズミたちに頭を下げる。



「いえいえ。こちらこそ、うちの大切な子供たちを守ってくださって感謝しております……」



 ボクもルナも、ムーンさんと一緒に頭を下げた。



「お顔を上げてください。せっかくですから、夕食、一緒に食べて行きませんか?」


「そ、そうだ! マジでうまいんだぜ! ここの飯はよ! あ、ボクらネコが食える物も、ネズミどもはちゃんと分かってるから安心してくれ!」



 ネズミの父ちゃんの言葉を聞くと、ボクは思わず言ってしまった。是非ともボクらの家族にも、ネズミたちの激ウマ料理を味わって欲しい。一生懸命にネズミたちの料理を推しまくるボクを見てメルさんは苦笑いしながら、ムーンさんに尋ねた。



「そうね、せっかくだし。母さん、どう?」


「それでは、ご馳走になりましょう。……そしてしばらくは、私たちはここを動かない方がいいようです。



 ムーンさんが、意味深な言葉を放つ。

 地底に棲むネコ族? ——まさか!



「おいルナ、それって……」


「間違いないよ、兄ちゃん。ニャンバラの奴らだ」



 ムーンさんは、再びネズミたちに向かって頭を下げながら言葉を続けた。



「ネズミ族のお父様、お母様。厚かましいお願いではありますが……、数日の間、私たちを泊めて頂いてもよろしいでしょうか」



 ——まさか。てっきりこのまま帰るものだと思っていたが、メルさんたちもみんな一緒にこのネズミたちと暮らすってのか。

 予想通り、ネズミの父ちゃんは嬉しそうな顔を見せながらOKを出した。



「もちろん大歓迎ですよ! ゆっくりしていってくださいね」


「ありがとうございます。お世話になります」



 ——こうしてボクらはムーンさんたちと無事に合流し、そのまま9匹のネズミの所に世話になる事になった。


 ニャンバラの奴ら、一体何を企んでやがんのだろうか。

 何故ボクらは、ここを動いちゃいけねえんだろうか。

 そして何故ムーンさんが、ニャンバラの奴らについて知っているんだろうか——。



 ♢



「ねえ、ネコさんたちの寝床とかどうするの?」


「あ! じゃあ、1階に新しくベッドを作ろう! あと5つだね」



 引き続き、ボクはネズミたちを手伝ってやる事にした。

 ムーンさんたちには、ちょっとゆっくりしといてもらわねえと。あれだけ旅させちまったんだ。



「僕とユキは一緒のベッドで……」


「何言ってるのポコ、場所をわきまえなさい」


「いてて……冗談だよ」



 ……ユキとポコのバカップルは、後でみんなの前で思い切り冷やかしてやろう。



「では改めて、よろしくね。ごはんの後で、みんな自己紹介しないかい?」


「さんせーい!」



 楽しげなネズミたちとは逆に、ムーンさんはさっきからずっと張り詰めた表情だ。



「……有難う御座います。ネズミ族の皆様に、伝えなければならない大切な事があります。後ほどじっくりお話ししますので、まずは私達の家族を、宜しくお願い致します……」



 ムーンさんはそう言ってまた深々と何度も頭を下げる。その大切な事ってのは、一体何なのだろうか。

 何となく、嫌な予感がしたんだ——。



 ♢



 ネズミ9匹と、ネコ7匹。みんなで食卓を囲む。

 こんなに大勢での食事は、生まれて初めてだった。



「うーーん、おいしい!」


「おいしーーい‼︎ おかわり!」


「おいおい、じゅじゅさん少しは遠慮しろよ」



 今夜は、シチューっていう料理だ。あったかくてとろっとした食感で、後からじわーっと、いろんな食材の美味さが混ざった味が口の中に広がるんだ。予想通りメルさんたちも、ネズミたちの料理の味に感激の声を上げていた。



「お父さんと、モモ姉ちゃんが腕をふるって作ったんだよ」


「ボクも手伝ったんだぜ」


「みんなで作るの、楽しいよね!」



 長女のモモは、心から料理が好きみてえだ。コイツの作るクッキーの美味さは、ボクも思わず唸り声が出るほどだった。



「あんなに働くゴマ、初めて見た〜。ルナもずいぶんしっかりしてきたじゃないか」


「だって僕、お兄ちゃんになるんだもん」



 じゅじゅさんも手伝えよ……。こっちに来てもあんた、ゴロ寝してばっかりじゃねえかよ……。



「ルナお兄ちゃん!」


「ルナお兄ちゃーん! えへへ」


「ふふ、お兄ちゃんだなんて、やっぱり照れちゃうな。たくさん遊ぼうね、チップくん、ナッちゃん!」



 へえー、うちの家族じゃ一番のおチビさんだったルナが、ねえ。まあまだ、泣き虫は直ってないがな。……ボクももう少し、大人にならねえとな。



「じゃあ、ごちそうさまー!」


「片付けお手伝いしますよ」


「僕もー!」


「あらあら、ありがとう、ネコさんたち。ゆっくりしてくれてていいのに」



 昼間の食い物集めもそうだが、みんなで力合わせて生活するってのは——自分が相手の役に立てる事や、相手の喜ぶ顔が見られる事、ニガテな事は助けてもらえる事とか——1匹だけでは絶対味わえねえ充実感があった。それが、ネズミどもの生活の仕方なのか。

 ウチの家族はそれとは逆で、いつもそれぞれ好き勝手に起きて、飯食って、狩りをして、遊ぶんだ。……ま、ボクらはボクららしく生活するさ。ネコにとってはプライベートの時間ってのも、また大事なんだ。


 さて、メシの後は、ネコとネズミの自己紹介だ。——といっても、何を喋ればいいんだ……?

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