第12話〜いつも通りの毎日を〜

 

「ふざけるな‼︎ プレアデス……! このままボクら焼け死ぬってのか!」


「大丈夫! 僕を信じて‼︎」


「ヒョロほぉおおおお⁉︎ オホホホォーー‼︎」



 機内の温度がどんどん上がってきやがる。もはや、息も出来ねえ。



「クッ……、ルナ、ルナ⁉︎ おいルナ‼︎」



 ルナの反応が無い。おいルナ、死ぬなよ……?



「よし! 動力装置復旧。でも長くは持たない。最高速度で地上まで抜ける! その場から絶対、動かないでね‼︎」


「プレア……、頼むぞ……」



 ダメだ。ボクもだんだん、手足の感覚が無くなってきちまった。意識が遠のいていく——。



「ルナ……、お前だけは、絶対死なせね……え……」


「地表まで後170km」



 動力装置、地上まで持ってくれ……! 頼む……!



「後80km……50km……」



 ♢



 ——ひんやりとした感覚に気付き、ボクは目を覚ました。

 すぐそばに、倒れているルナの姿があった。



「おい、ルナ! ルナ‼︎」


「んーー……。あ、兄ちゃん……」



 ルナは、無事だったようだ。ボクも体は何ともない。

 ……本当に、本当に良かった。



「ルナ、背中に火傷してるじゃねえか。大丈夫か?」


「痛い……」


「……軽い火傷だ。すぐ治るだろ。見ろよルナ。ボクら、帰ってこれたぞ」


「……ほんとだね」



 ——そこには、見慣れた景色が広がっていた。


 緑いっぱいの森。雲が流れる青空。車の音。そして、行き交うニンゲンの姿。

 ボクらは、いつも集会をしているあの神社の、裏の林のそばにいたんだ。



「ルナ、帰るぞ」



 ボクらは、四足歩行に戻っていた。着ていた服も、ニャイフォンも、消えて無くなっている。

 あのブチ壊れちまった変な乗り物……〝パルサー〟とやらも、周りを見たがどこにも見当たらない。



「兄ちゃん……プレアデス兄ちゃんたちは?」


「……そのへんでくたばってるんじゃねえの? 見つかる前に、さっさと帰るぞ」


「うん、もうあんな怖いのやだよ」



 だがプレアデスの野郎もプルートのジジイも——その姿はどこにも無かった。



「そうだ。あの穴は……!」



 ボクは神社の祠の後ろへ行ってみた。——ボクらを地底世界に誘った大穴は、変わらず地面にポッカリと口を開けている。



「ルナ、もうこの穴に近づいちゃダメだ。他の奴らにも気をつけるように言っておこうぜ」


「うん……そうだね。もうこりごりだよ」



 ボクとルナは歩き慣れた道を通り、ボクらの住処のガレージに、ようやく帰ってくる事が出来たんだ。



 ♢



「……ゴマ⁉︎ ルナ‼︎」


「……メルさん‼︎」


「メル姉ちゃんっ‼︎」



 メルさん。じゅじゅさん。ユキ。ポコ。


 懐かしさすら感じる〝家族〟の姿を見て、ボクは大きくため息をついた。

 ムーンさんは、相変わらず留守のようだ。



「無事で良かったよ……うわあああ……!」


「メル姉ちゃんー‼︎ こわかったよおお……わああああああん……!」



 ルナは、メルさんのもとに飛び込んで行き、2匹してわんわんと泣き声を上げた。ユキとポコも、帰ってきたボクらを見て、安心した顔をしていた。

 ボクは得意げな気持ちで、メルさんに言った。



「大丈夫だぜメルさん。色々あったが、ルナはこのボクがちゃんと守ったんだ」



 ……だが。



「……このバカッッ‼︎」



 ——バシィッ‼︎ という炸裂音。

 ボクは、メルさんのネコパンチ、過去最強クラスの一撃を食らってしまった。



「ぐあああっ‼︎ 痛え‼︎」


「勝手に変な所行くなって、あれだけ言ったじゃないか! 何日も帰らないから、アイミ姉ちゃんも、じゅじゅもユキもポコも、みんなすっごく心配してたのよ⁉︎」


「わ、悪かったよ、さすがに今回はもう懲りた。あんな地獄みてえなところ、もう二度とは行きたくねえ」


「ホントに一体どこ行ってたのよ! ったく、ゴマは今日から30日間、外出禁止ね!」


「おい待ってくれよ、何でボクだけ! ……あ、そうだメルさん、神社の祠の後ろにある大穴には、絶対近づいちゃダメだ。間違えて落っこちたその先は……地獄だ。みんなに伝えてくれ」


「……その穴に落っこちたって事ね。ホントによく帰って来れたよ……。とにかく今は、大人しくしてなさいね」


「チッ。仕方ねえな」



 そんなわけでボクだけ、30日間謹慎処分になっちまった。

 世界にはとんでもなく危険な場所があり、とんでもなくヘンテコな奴が居る事を、ボクは知ったんだ。今回は何とかなったが、次は無事で済まねえかも知れねえ。


 しょげながら昼飯を食ってると、ボクは異様な光景を目にした。



「ゴマ! 本当に無事で良かったわよ」


「ルナー! 背中のやけど、大丈夫かい?」



 ユキとポコが、心配そうに話しかけてきたのだが……。

 何と互いに、尻尾を繋いでいるじゃねえか。

 横にいたメルさんが、ニヤニヤしながら言った。



「この子たちねー、付き合ってるのよ」


「なんだって⁉︎ いつの間に……!」


 

 ユキは照れているのか、急に右手でクシクシと顔を洗い始めた。そんなユキをポコはじーっと見つめている。尻尾はお互い、しっかりと繋いだまま。

 ポコの奴、ボクらが目の前にいるというのに、ユキに体を擦り付けてやがる。ポコはデレ全開のようだ。



「ユキ、大好きっ♡」


「あ、ちょっと! 場所考えてポコ!」



 あー、ダメだ、チューしやがった。

 お邪魔なボクは、さっさとこの場から消える事にしよう……。



 ♢



「……あ、ゴマ、ルナ。今までどこ行ってたのー。おいでー」



 久しぶりにアイミ姉ちゃんと会えて、ボクは思わず飛びついてしまった。



「ニャオーンー。ミャウ」


「ふふ、よしよしー。なんか一回り大きくなったね、ゴマ」



 ——ふん。そりゃそうだ。ボクはルナを守れるくらい、デッカくなって帰ってきたんだぜ。体格の事じゃなく、一丁前のネコとしてな。



「ふわあ~あーーあーーーーあ。ふあ。あああ」



 じゅじゅさんは、フカフカの毛布の上で大あくびをする。全く、相変わらずだ。心なしか、また太った気がするんだが。



「ねえゴマ。公園行かないの?」


「ユキ、すまねえな。ボクはメルさんから謹慎処分食らってんだよ。ポコと一緒に仲良く行ってこい。寒みいから風邪ひくんじゃねえぞ」


「えへへ。じゃあ今日もデートしてくるね」


「してくるねえー!」



 ——仲良く風邪ひいちまえ、チキショー。



「ルナ、てめえはどうすんだ」


「まだ背中痛いからやめとく。……ねえ、兄ちゃん」


「何だよ」


「今日からまた、いつもの通りの毎日に戻るんだね」


「……ああ。そうだな」



 ——いつも通りの毎日。

 結局、ボクにはそんな普通の毎日ってのが、1番充実してるのかもしれねえ。


 ボクは冒険が大好きだ。

 見知らぬ場所に行き、見知らぬ奴らと出会う時ってのは、充実したひと時だ。だが、あのニャンバラとかいう地獄には、もう二度と行きたくはねえ。命の危険を冒してまで冒険するなんて、さすがにゴメンだ。


 そう思えば、この何の変わりもない平和な毎日も、悪かねえ。みんな元気だし、うまい飯食えるし。


 今日も、天気いいし。


 謹慎処分が終わったら、またルナと一緒に、いつもの公園に出かけよう。

 ——ボクの冒険は、まだまだ続くんだ。



————————


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