第11話〜〝クソジジイ〟〜

 

 プルートのジジイが突然、呪文のような言葉を唱え始める。すると、外からガサゴソと大きな音が聞こえてきた。

 窓の外を見ると、ヘッドライトで照らされた蔓で覆われた茂みが、蛇のように勝手にモゾモゾと動いて、何とそこに〝パルサー〟がすんなり入れるほどの大洞穴が現れたんだ。


 〝パルサー〟は、大洞穴の上へと飛んで行く。そして少しずつ高度を下げ、穴の中へと入って行った。



「うおお、何だかすげえな。どうなってるんだ」


「動いちゃダメだよ、兄ちゃん」



 〝パルサー〟は完全に大穴の中に入り、窓を見るとまた茂みが動いて、穴を塞いでいく様子が見えた。すぐに窓の外は、真っ暗闇になってしまった。



「ワタシが地上に行った日の事ですぅ〜。森の中にぃ? 煌々こうこうと輝く草叢があるのを見ぃつけたあのでぇす。覗いてみるとぉ、なぁ~んと。知性を持っているであろうネズミたちがぁ、大きな街を作って楽しそうに暮らしてるではあぁ~りませんかぁ?」



 プルートのジジイが語り始めた。……操縦に集中しろよ、命懸けの旅なんだからよ。



「そこで〜ワタシは考えたのですぅ〜。ニャンバリアンをそこに移住させられればぁー? 全ての問題は解決するのだぁぁあと! イーヒッヒィ〜!」


「ジジイうるせえぞ」


「シッ。話を遮ると機嫌損ねるから、そっとしといてあげて」



 プレアデスは眉をひそめながらプルートの様子を見つつ、そう言った。……全く、面倒臭え奴だ。



「あのネズミの街なら、平和だし資源もたくさぁん? あるしぃ〜。移住するには最適だと思ったのでぇえす。場所もぅ特定しましたぁ。しっかぁし、大きさぁが我々ネコと違う事とぉ、何重にも張られたぁ結界がある事が問題なのですぅ。そこでぇ、なななぁんと? 結界を通過できるトンネルを開発しましたぁ! 地上に着いたらぁ、試してみましょうねぇ~。グッフフフフフフぅ~」



 ジジイがそう言って笑った瞬間。

 突き上げられるような衝撃と揺れが〝パルサー〟を襲った。



「ぐあっ⁉︎ おい! 大丈夫なのかよ⁉︎」


「うわあ! 兄ちゃんー!」


「大丈夫かい? ゴマくん、ルナくん、しっかりつかまってて!」



 揺れが続いたが、だんだんと収まってきた。頭ん中かき回されてるみてえで、吐き気がする。



「ったく、おい! ジジイ、どうなってんだよ」


「あれ~? おかしいですねぇ。穴がずっと続いてるはずなのにぃ? 途中で地面にぶつかってしまったみたいですぅう」


「あ? じゃあどうすんだよ。ちゃんと地上に帰れんのか、ほんとに」


「仕方ないですぅ、ここからは、地面を掘りながら地上へ向かいましょう~。揺れますから、我慢してくださいぬぇ?」



 絶え間なく揺れが続く。多分、ドリルか何かで地面を掘ってるのだろう。うおえ、吐きそうだ。耐えられるだろうか。



「窓を完全に閉めますぅ~。おそらく、ここから先はマグマ地帯の近くを通ることになりますぅ。〝パルサー〟はぁ高温にも耐えられますのでぇ、安心してくださいねぇ」


「しばらく揺れるから、しっかりベルト締めて、手すりにつかまっててね」



 吐き気と不安と息苦しさで、どうにかしちまいそうだった。ルナも辛そうな顔で、手すりにしがみついている。



「うう……。プレアデス兄ちゃん、いまはどのへんなの?」


「ルナくん、大丈夫かい? 今はちょうど重力の真ん中を抜けた所だよ。だから、あと半分くらいだね」



 この時すでに、ボクの体力は限界だった。



「おい、まだ半分かよ! クソ、酔ってきたぜ……。1度めて休まねえか?」


「まだマグマ地帯のそばだから、もう少し低温のエリアに行くまで辛抱して」



 ボクは歯を食いしばって、揺れに耐えていた。

 ——と、その時!


 何かが破裂したような音と共に車内が揺れ、ボクはシートに顔面を打ちつけた。



「ぐわぁあああ‼︎ おい、何だ今のは」


「急停止ぃ⁉︎ そんなぁバカなぁ?」


「ゴマくん、ルナくん! 落ち着いてね! 大丈夫だから!」



 どう考えても、大丈夫じゃねえ。機内に虫の鳴くような音が聞こえる。操縦席のランプが、不規則にいたり消えたりを繰り返している。

 プレアデスもプルートのジジイも、顔を真っ青にしていた。



「マグマ地帯にぃ? 進入してしまったようですねぇ? んんん? 動力が一時的に停止……そんなバカなぁ?」


「おい⁉︎」



 次の瞬間、爆発音が耳を貫いた。さっきの比じゃねえ揺れの激しさに、天井や壁に何度も頭が打ち付けられる。



「ぐわあああ‼︎」


「しっかり! 手すりにつかまれ‼︎」



 サイレンが、機内に鳴り響く。



『緊急事態発生。緊急事態発生。直ちに避難準備を』



 赤色のランプが点灯し、機内が真っ赤に染まる。

 ——おいコラ、テメエら! なんとかしろ‼︎ こんなとこで死ぬのは嫌だぞ‼︎



「ぐああああーー‼︎」


「うわあああ! 兄ちゃん‼︎」



 もう上も下も分からねえ。

 機内の温度がどんどん上がっていく。目が霞んで何も見えねえ。地響きの音しか聞こえねえ!



「クソ、熱ちい‼︎」


「やだようー! 助けて、兄ちゃん‼︎」


「温度制御装置がぁ故障。動力はぁ? 依然停止中……。こ、このままだと‼︎ マグマの熱で〝パルサー〟はぁ? 私のぉ? 〝パルサー〟があぁあ⁉︎ 私のぉ? 大切な〝パルサー〟がぁ‼︎ ウ……! ウヒヒョヒョヒョヒョヒョロヒョロホロロォオオ‼︎」


「プルート! 落ち着くんだ! 操縦、僕が代わる!」



 イカれたクソジジイの泣き声と、警報音が入り混じる、地獄のような空間。


 ボクらは果たして、生きて帰れるのだろうか——?

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