第3章

 休日に誘われるがまま光について行くと、随分山奥に連れてこられてしまっていた。なんでももう使っていない旧い採石場跡らしい。

 異世界にまた戻る。そのための魔術を開発するといい、光は何かを話始めていたが、つかさは、さっきから何を言われてるのかさっぱりわからなかった。


「はい。

 異世界へ渡る魔術は、三段階で構成されているッス。

 わかりやすく言うと、

 空間の穴を開ける。

 空間の穴を維持する。

 空間の穴を閉じる。

 この三つの機能が必要で、不可欠ッス」

「このうち、『穴を開ける』は、一番エネルギーが必要で、制御はほとんどシなくていいです。勢いで、空間を引き破ればいいので。

 次の『穴を維持する』は、そこそこのエネルギーが必要で、制御もそれなりに気を遣う必要があります。穴は既に空いてますが、間違えて中通ってる最中に閉じてしまうと大惨事なので」

「普通の精霊だの召喚獣を呼ぶ、いわゆる召喚魔法は、ここまでで成立するッスね。開ける穴が大して長いトンネルじゃないので、復元力で閉じるに任せて構わないッス」

「しかし、異世界まで通じる穴は別問題なんです。あまりにも時空的に遠い、長い距離のトンネルになるんで、トンネルが閉じるのに場所によりごくごく微小ですが時間差が生じるッスね。そうすると、その閉じ方の不均一に時空がこね回されて次元震が発生してしまうッス。

 これ、こっちに流れ出てくると、惑星がまるごと吹き飛ぶレベルの災厄です」

「その不均一さってのがよくわからない」

「んー。例えば、

 生きたうなぎを真空パックします。

 ビニール袋にうなぎを入れて、一気に空気を抜ければ安定してパックになるけど、その空気の抜き方が、端っこが速く抜けて真ん中がゆっくりだったりすると、うなぎが暴れてうまく行かない、そういう感じスかね」

「言ってる意味はわかったけど、意味はわからないのでそのまま話続けて」

「最後の『穴を閉じる』ですが、これは開いた穴は、もともと復元力で閉じようとするので、エネルギーとしては大したことはないんですが、その制御については、短時間のうちに極めて精緻な制御が必要になります。トンネルが一気に閉じないのはもうどうしようもないので、トンネルの閉じ方を次元震を逆位相で打ち消し合うような周期性を持つよう制御しながら閉じる、という匠の業が必要になるッス」

「よくわからないけど、結局何かい、普通の召喚魔法の後に、丁寧に空間の穴を閉じてやる必要がある、っての話でいいの?」


 つかさは、ちょっと疲れた表情かおで言う。


「そうですそうです。丁寧にうまく閉めないと、長いトンネルの中で溜まった空気が変に絞り上げられて危ない衝撃波として吹き出してくる、そのくらいの理解でオッケーっす」

「あ、それなら分る。つーか最初からそういう説明でいいじゃんよ」

「実はスピカわんころが最後にボクたちを返してくれたときの転移術式、スマホで動画撮ってまして、ここまでの話は、その分析結果になります。二ヶ月かかりましたが。

 向こうに戻る術式は、穴を『開け』、予め描いていた魔法陣で『維持』し、用が済んだら『閉じる』、になるッス。

 で、先輩には、その『閉じる』制御をお願いしたく。

 いっくら魔術においては天才肌のつかさ先輩でも、相当練習しないと無理だとは思うッスが」

「ちょ、ま、ちょっとまて。

 アタシ? なんでアタシ。ここまで分析出来てて、理解して意味わかってる光がやったほうがいいんじゃない?」

「……ボクも練習してはみたんです。

 でも、魔力の量でも、制御の粒度でも、全く足りませんでした。

 ぶっちゃけ、しょぼくて雑なんです、ボクの魔力」


 つかさは、わざとらしく大仰にため息を付いてみせた。


「もしかして、そこに、前田涼真と高沢幸太郎がいるのは?」

「練習といっても、実際にどこか知らない彼方に穴を通じるわけですから。妙なものこっちの世界に引き込んじゃったときのためのボディガードッスよ」

「……本音は?」

スピカわんころの話ぶり見てた限り、ボクたちも今以上に強くなっておくべきと感じましたので。

 モンスターガッツリ呼び出しまくって、可能な限りみんなのレベル上げレベリングしとこうかなあ、と」

「なるほど、こんなところ採石場に呼び出したのまでが布石だった、というわけね。

 しゃーない、わかった。やろうか」

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