第5話

 いつにもまして今日は部活に行くのが嫌だった。


 その日は日直であったから日誌を書いたり、教室の簡単な片付けをやる必要があった。それほど時間がかからない作業だが、部活に行きたくない気持ちのあまりわざとゆっくりと作業を進め、体育館へ向かったのは1時間も後になってからだった。


 薄暗い空から雨がぱらぱらと降り注いでくる。

 体育館への道すがらもできるだけ歩みは遅く、大して変わらない距離も長くなるように歩いた。体育館の入り口は建物の西側と南側にあった。南は主にバスケ部が、西側はバドミントン部が休憩場所としてよく利用している。僕は校舎側、西側からゆっくりと、南口から遠くなるように体育館へ向かった。


『放課後はベンチメンバーの発表するから全員ちゃんと来いよ』


 朝練終了時に言われた言葉を思い出す。

 どんなに練習してもレギュラーになれる気がしない。よっちゃんたちみたいにはなれない。だったら部活なんてやんなくてもいいんじゃないのか。そんな陰鬱とした気持ちばかりがぐるぐると胸の中を回っている。


 西口の前にバドミントン部員が集まっていらのを見て、今日はバド部は外練の日だったかと思い出す。

 体育館を使用する部活はローテーションで利用している。バスケ部は外にもゴールがあるから走り込み以外にも練習はできるが、バドミントン部は違う。風の影響を大きく受けるバドミントンは、外錬のときには主に走り込みと筋トレをするくらい、雨の日は基本的に早めに切り上げる。

 身支度をしているところを見ると今日も早めに切り上げるようだ。僕は「今日はもう部活終わり?」と声をかけた。


「おお、今日は雨だからな。早めに切り上げることにしたわ」

「このあとうちに集まってゲームしようってことになったんだ。バスケ部は今日、内錬うちれんだからいいよなぁ。今から参加か?」


 僕は言葉を濁した。帰りたさからか即答できないでいた。


「帰るの?」

「……うん」

「へえ、珍しいな。体調悪いのか? いや、まさかサボりか?」


 よっちゃんはにやにやしながら聞いてくる。僕は頭をかきながら「ちょっとやる気でなくて」と肯定する。



「じゃあうち来て気分転換しないか? みんなでゲームしようって話になってんだ」


「サボる」という言葉に特に表情を変えずににやにや顔のまま誘ってくる。

 その誘いは僕の心の中をざわつかせた。


 断って部活に行かないとどんどんレギュラーは遠のいていくぞ? そんなんだからお前は何時いつまでも踏切前に置いていかれたままだ、と心の中でささやく声が聞こえた気がした。

 今ならまだ間に合う。サボるのはなしにして部活に行こう。



 でも――。

 



 ごちゃごちゃする頭の中をかき消すように振り、「うん、行くよ」と答えていた。

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