第4話

 あの白いワンピースを着た女の子と出会った次の日、登校した僕は三人にあのあとどうなったか聞いた。


 だけど、友人たちはなんだか恥ずかしそうにするだけで、何度聞いても「もう一回、遊んだだけ」としか答えなかった。



 何かを隠している。

 察しの悪い僕でもそれは何となくわかった。



 その疑念は当時の僕をひどくもやもやさせた。

 家に帰ってからもそれを引きずり、気分転換に本棚にあるお気に入りのファンタジー小説をぱらぱらとめくった。


 僕たちの住む地球とは別の世界に住む主人公たちは、その世界での普通の生活を送っている。けれども、突如悪魔が襲ってきたとか、実はかりそめの平和だったと知ってしまうなどの理由で主人公たちは否応なしに、もしくは自ら進んで冒険に出ていく。


 現実を舞台にしたファンタジー小説でもそうだ。

 何か日常と違う、劇的な事象に遭遇し、そして非日常に巻き込まれていく。



 例えば、身分を隠した王女様、見知らぬ女の子との出会いとか。


 そのとき、僕の脳裏に昨日出会った女の子のことがよぎった。


 そうだ。言うなればあれも一つの不思議な出会いだ。

 けれど、実際は何もなかった。それどころか僕は踏切を渡らずに途中退場してしまった。あの物語を続けていたら何か変わったのだろうか。


 何かありえたかもしれないという想像。

 一度、想像してしまうと止まらなかった。


 しかも、彼女の麦わら帽子を拾ったのも、一番最初に言葉を交わしたのも僕だ。小説だったら僕は主人公のようなポジションじゃないか。

 だから、踏切の向こう側の物語を歩む資格は僕にもあったんじゃないか、と思う。むしろ僕がいないとだめじゃないだろうかとも考えていた。



 今にして思いかえすと、ずいぶん都合の良い考えを巡らすもんだと笑えてくる。

 それでも当時の僕は本気で考えていた。



 小説に登場する人物たちの

 でも、実際は僕以外のみんなは物語を歩み、僕だけは踏切を前に回れ右し、家族の言いつけを守り帰ってしまった。



 何が違ったんだろう。



 好きなファンタジー小説に出てくる主人公たちのようにドキドキハラハラするような物語を経験できる人間とできない人間の違い。


 

 随分とあきらめきれない想像だったらしく、それから少しの間、乗り越えられない踏切の夢を見るようになった。



 それでも小学校高学年になってからはそんな夢を見ることはなくなっていた。



 それが最近になってまた、見始めるようになった。


 いつまでも踏切の前で立ち止まってばかりいる自分。そんなイメージが浮かぶ。

 みんなに置いて行かれているような気がしていた。

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