第19話 視察を終えて《裏》
場所は変わって月面にある和弥とシルヴィー女王が戦った【ムーン・スタジアム】の外…
「やっぱり彼の力は強烈だったね~」
楽しそうに笑っているのは交渉の場にも表れたマギルティア副局長クリス・アルヴだ。この人は何かにつけて愉快犯的でつかみどころがなく、同族のエルフから見ても整っている外見なだけに勿体ないくらいに異質だ。
「それで…君から見て今回の彼の力は何%ほどだったのかな?」
「正直に申し上げるのであれば…50~60%ほどでしょう。でなければスタジアムは半壊、観客も半数は犠牲になっていたでしょうから…」
「なるほどね。やっぱり彼の持つ親和力?適応力?は規格外なのは間違いないか。そうでもなければあんな力使っただけで死んでるだろうしね…」
「!?」
すごく軽く言われた発言が私も知らない事で驚きを隠せなかった。
なにより、そんな重要なことを聞かされていなかった事に驚いた。
「わ、私は、そんな話を聞いていないのですが…」
「?そういえば話したことはなかったね。でも、普通に考えればわかることだと思うよ。万物全てを侵食するような力、使った側をも侵食してしまうなんてことはね…」
「それは…」
確かにそうなのだ。
あらゆる物、生き物も無機物も関係なく侵食して闇へと染めるのが冥鎧と言う鎧の根源的な力。
そして『鎧』である以上は直接身につけて使うからには使用者も侵食の力にさらされ続けるという事になる。侵食には個人差があり弱い者が身に付ければ一瞬で止みに飲まれ、強い者であろうとも10分も掛からずに闇に蝕まれて消える事になるだろう。
つまりは普通の人間には身に纏う事すらできない鎧、それを和弥は何のデメリットもなく身に纏い自由に操っているという事になるのだ。
「うんうん!彼の非常識さを理解してくれたようでなによりだよ」
「……彼はなんなんですか?」
生物としての本能、理解できない何かに対しての恐怖から震える体を押さえつけながら私はクリス様に質問する。
本来は意見すらできない立場だが聞かなくてはいけない。いや、聞かないという事はでいない。
今後の任務にも支障が出るだろうし、彼との今後の関係それを変えたくないと思う私もいたから。
「なんなのか?…それは簡単ですよ。どこまでいっても彼は『人間』ですよ」
「え…」
「ははは!先ほどまでの話で少し勘違いさせたようですけど、別に彼は異形でもなければ、何かの陰謀とかで生み出された特異な存在でもない。もっと言ってしまえば突然変異したという事もない、しいて言えば『究極的に純粋な人間』それが一番的確でしょうかね?」
「究極的に純粋な人間??」
聞き慣れない表現に首をかしげているとクリス様は、やはり楽しそうに顔を誇ろば得ながら続けた。
「少しわかりにくかったですかね。では、人間と言う種族の持つ最大の特性は何かわかりますか?」
「…多様性…でしょうか」
「うん、いい答えだね!人間と言う種族は他種族と比べても特性というものが薄い、けれど魔法に魔術や陰陽術や精霊術など多様な能力を身に付ける事ができた。それだけではなく他種族の知識を吸収して本来エルフやドワーフしか使えない道具を使用したりなどね」
そこまで聞いて数年前に聞いた『人類で初めてエルフ言語を用いての魔法使用に成功した』と発表した人間がいたことを思い出した。
「これらの事からも人間とは本当は何も入っていな器や何色にも染まっていないキャンバスのような存在だとわかる。ただ容量という者は人それぞれ、小さな器の者なら簡単な魔法1つ覚えて終わるだろうし、容量が大きくてもエルフほどの魔法を自由に扱える者は数十…あるいは数百年に1人と言うところだろうね。もちろん、ッそれでも十分に天才的な存在だけれど」
「でも、彼は…」
「そう!彼の容量は尋常じゃなかった!生物学上も魂学的にも普通の人間だと検査結果は出ている。それでも疑わずにはいられないほどに彼は凄い、違うな凄まじい‼」
歓喜を滲ませながらはしゃぐ子供のようにクリス様は何処までも楽しそうに話し続けた。
「なにせ彼の器には底が見えない!どんな力が注ぎ込まれても受け止め適応し、他の力と合わせて使う事すらして見せた。今回の件で使った力も結局のところは使える力の一端にすら届かないかもしれない」
「それほどまでなんですか?」
「そうだよ。だから彼は『究極的に人間種の特徴を純粋に受け継いだ人間』なんだよ。現代の人間は気が付かずに異種族と混じっているからか許容できる容量は多いが、方向性が定まっている者が多いけど彼は自由にどんな力でも受け入れられるからね。それこそ例えば神のような存在でもね?」
「っ⁉…さすがに…冗談ですよね?」
「さぁ~ねぇ~?彼の使える力をすべて把握しているわけではないから。さすがに断言はできないかな」
あからさまにこちらの反応を楽しみにニヤニヤしているクリス様。
さすがに望み通りの大袈裟に反応するのは納得がいかないし、なによりこれ以上は教えるつもりがなさそうだ。
「わかりました。その件は私の方で探りを入れてみます」
「うん、好きにすると良いよ。僕が頼みたいのは『彼が他の何者かに襲われないように見守る事』と『彼が力を暴走させそうになったら報告する事』だけだからね。他の事は君の判断で自由にするといいよ翡翠ちゃん」
「わかりました。では、失礼させてもらいます…」
報告と話も終わったので私は足早にその場所を後にする。
いる場所は月なので移動には来た時と同じように転送魔方陣で帰る。
そして家に着くまでの道すがら狂気化された話を考えるが、うまく考えが纏まらない。だから一先ず今日は眠ってから考える事にした。
「ん?」
すると家の扉の前に手紙付きで何かが置いてあった。
『報告書お疲れさん!飯食う時間もなかっただろうし、おすそわけだありがたく受け取れ‼和弥より』
「ふっ…なんで偉そうなのよ」
深く考えていた自分がバカのように感じてどうでもよくなってきた。
とりあえず、貰った物はありがたくいただくことにしよう。お礼はまた後日ってことでいいよね?
「次はなんて小言を言ってやろうかな?」
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